Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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Crazy For Slowdive、単独決定おめでとう!(隠れた名盤『ピグマリオン』について。)

スロウダイヴ単独来日公演決定!

僕たちおめでとう、そしてスロウダイヴありがとう!

12月なんて本当にスロウダイヴのライブを観るにこれ以上ないってくらい完璧なタイミングだ。ゴールデンヘアの轟音の残響に揺られながらクリスマス&正月に向かっていくなんて何て素敵なんだろう。

www.youtube.com スロウダイヴのライブは鬼才シドバレットの名曲ゴールデンヘアのカバー演奏でメインセットを終えるのが定番になっている。(改造しすぎてもはや原曲とは別にスロウダイヴの曲として見るべき曲となっている。)


もうイメージするだけで最高でどうやら居ても立っても居られないので今回はスロウダイヴの記事を書くことにしました。

 


スロウダイヴは言わずと知れた90年代のシューゲイズムーブメント最重要バンドの一つ。今更紹介をする必要はないほどスロウダイヴの知名度は圧倒的だと思う。
マッシュルームヘアで目を隠した4人の少年に囲まれ真ん中にキリッと佇む美女、現代のサブカルバンドのファッションを20年も前にモノにしていたバンドだ。

 

アリソン、40デイズ、マシンガン、と数々の名曲を収録しているスーヴラクはシューゲイズ・ドリームポップの名盤として25年経った現在も聴かれ続け、世界中にたくさんの根強いファンを…

スーヴラクの人気は圧倒的だ。

だがどうだろう、スロウダイヴのファンはThe Jesus And Mary Chain、My Bloody ValentineやRideなんかのシューゲイズバンドたちに比べると随分少ないのではないだろうか?
そこでだ、今回はぼくが最も愛しているシューゲイザーバンドであるスロウダイヴの隠れた名盤を紹介したい。スーヴラクは好きだし新譜も良いけど他は知らない…と言うみなさんにも、もっとスロウダイヴの魅力をより知って貰えるかと思う。

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今日紹介するアルバムは、スロウダイヴの3rdアルバム。今年になるまでスロウダイヴによって作られた最後のアルバムだったピグマリオンだ。


そもそも当時そこまで人気がなかったらしいスロウダイヴだが、中でもピグマリオンは本当に売れなかったらしい。My Bloody Valentine のラヴレスによってシューゲイザーと呼ばれたジャンルのサウンドは完成されたばかりだった上に、ブリットポップムーブメントの台頭によってシューゲイザーは謂わば時代遅れになっていた。そんな状況でリリースされたのがこのアルバムだったそうだ。一風変わったピグマリオンは当時のシーンに衝撃を与えるどころか、全くウケず挙句スロウダイヴはクリエイションレコードにお払い箱にされてしまった。
もちろんツアーも無し。そのまま解散してバンドはバラバラになってしまった。


まさに悲劇のアルバムと呼ぶにふさわしいピグマリオンだが、そのアルバムで鳴っている音は異常と言えるほどに素晴らしい。

open.spotify.com

ゆっくりと広がっていき、静かに静かに空気を濡らしながら脳へ染み込んでくるこの音楽。はっきり轟音と静寂は表裏一体であると実感されられる。
アンビエントなサウンドスケープの上に繰り広げられる、ミニマルなパーカッションとギター。そして時折存在感を見せつけ要所にアクセントを加えるベース。全ての音が不気味さを秘めながらも、心臓の一番奥を揺らし不思議な安心感をもたらす。
初めて聴いた時は正直自分もつまらないアルバムだと思った。スーヴラク序盤のようなポップな曲を期待していたので尚更だ。

しかし何度も聴くうちに、気づけばピグマリオンが自分の中でのスロウダイヴになっていた。
何度も聴いてやっと全ての曲にある美しいメロディを見つけることができた。それらが一度分解され緻密なかけらで再構築されているからこそ唯一無二の世界ができたのだ。
未だにこのアルバムを聴くと心臓の鼓動が早くなる。

最低限の音で静寂を支配しながら壮大にアルバムの幕をあげる一曲目Rutti。最新作のSlomoに最初の掴み曲帝王としては王座を明け渡すことにはなるが、当時の三枚で比べると圧倒的に秀でたオープニングトラックだ。
ピグマリオンがポストロックと呼ばれるジャンルの先駆けと称される意味は中盤Trellisaze、Celloあたりを聴くときっと分かる。Sigur Rósのデビュー作であるVonに直接影響を与えているとしか思えない音が聴こえる。
Miranda、Visions Of L.A. では今までの作品に増して美しいレイチェルの歌声が静寂の中に響く。
この時点ですでにピグマリオンはスロウダイヴの集大成、終着点と言うにふさわしいものなのだが、更にスロウダイヴのキャリア史上最も美しい曲でありうる名曲が収録されている。2つも。

www.youtube.com これはアルバムに収録されているものとは別のバージョン。せっかくなのでアルバムverは通しでピグマリオンを聴く時に取っておいて欲しい。

何度も目をこすってやっとはっきり見えるような曲たちの中で燦然と輝くのはCrazy For You とBlue Skied An' Clear という圧倒的に美しい2つの曲。アルバム二曲目であるCrazy For You は印象的なリフがやまびこのように繰り返し鳴り続けるちょっと不思議な曲。静かでゆっくりと広がるBlue Skied An' Clear はアルバムの最後から二番目で、青空にかかる薄い白雲をゆっくり吹きはらうような曲だ。
シングル向きとも言える二曲は決してアルバムから浮くわけではなくむしろ周囲のぼんやりとした曲たちに溶け込んでとてつもなく神々しく本当に美しく響く。これらの曲はピグマリオンの一部であるからこそ真価を発揮し、ピグマリオンはこの二つの曲を魅せられるからこそ完璧なのだ。

www.youtube.com


Blue Skied An' Clear、なんて美しい曲だろう…

君が愛してると言う、それはとても素敵に響く。
君が愛してると言う、それはとても甘く響く。

もちろんSlowdiveのぼんやりと匿名的でロマンチックな歌詞はピグマリオンでもぼくたちを夢の世界に連れて行ってくれる。

この曲の後、アルバムはAll Of Us という曲にて幕を降ろすが、この曲での幽玄なギターと有機的なニールの歌いはスロウダイヴ解散後ニールとレイチェル、イアンの3人で始められたバンドMohave3 にも引き継がれている。

そう、この曲はピグマリオンだけでなくSlowdiveにとっても最後の曲となったのだ(当時は)。リリースの後間も無くバンドは解散、メンバーたちは道を分かちそれぞれ道を歩んでいく。彼らにもそのファンにも苦しい心残りがあったのは誰がどう見ても明白だったろう。

 


スロウダイヴはちょうどピグマリオンのレコーディングの20年後、2014年に再結成した。
それがスロウダイヴとしての20年ぶりのツアーで、そこで初めてピグマリオンからの曲たちも念願のライブデビューを叶えた。
ロンドンでのツアー初日にはCrazy For You とBlue Skied An' Clear、2日目にはそれらに加えピグマリオン一曲目のRuttiもアンコールで登場。更にUSツアーではピグマリオンのジャケットを印刷したTシャツまで発売されている、ピグマリオンツアーTシャツとして

ピグマリオンのリリース後ツアーに出ることなく解散したバンドを当時見ていたファンにとって、20年の歳月を経て正当に評価されピグマリオンのTシャツを物販に並べその収録曲を大切に演奏しながらスロウダイヴが再びツアーをする光景を見るのは本当に感動ものだったのではないだろうか。もう当事者でないぼくも胸が熱い。

 

ちなみに2014年と2017年のフジロックではピグマリオンからCrazy For You が演奏されている。Twitterでシェアされていた今年のフジロックでのセットリストの写真には塗り潰されたアリソンの右に殴り書かれたCRAZYの文字があった。(今年のフジロックでの演奏はぼくもしっかり見届けた。Crazy For You はもちろん一番心に残った曲だった。写真は僕の知り合いの男前のお兄さんが、男前の中国人のファンに撮らせてもらったセットリストの写真だ。お願いして、載せさせていただいた。)

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しつこいようだが、12月の初めての日本にての単独公演に行く予定の方は新譜とスーヴラクだけでなく是非ピグマリオンも聴き込んで行って欲しい。そしてBlue Skied An' Clear が日本で初めて演奏された暁にはみなで号泣してきてください。

 

ぼくのピグマリオンに対する重い愛はこのくらいにしておこうと思う。(せっかく書いても一歩引かれてしまってはせっかくの努力が水の泡だ。)

ピグマリオンの良さ、少しでも感じていただけただろうか?

 

 

ぼくはどうしても今回の単独公演には行けないので本当に残念ですが、みんなぼくの分も楽しんできてください。


by Merah aka 鈴木レイヤ

次の旅行は絶対に旧ユーゴスラビア諸国を周遊すべきいくつかの理由

 

 

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Dobar dan! 三週間に渡るヨーロッパ周遊旅行から先日帰ってきたばかりのユカートマンです。ヨーロッパは4回目ですが、今回は人生で初めて東欧に行きました。それもチェコやポーランドなど可愛らしい旧市街で有名な場所ではなく、ヨーロッパで一番マッチョなバルカン半島です。なぜマッチョなのかって?そりゃ、日本のネチズンの間で愛されてる「お前は何を言っているんだ」ミームでおなじみの格闘家ミルコクロコップ氏がクロアチア人だったり、90年代にユーゴスラビア紛争があったり、そもそも第一次世界大戦もこの地から始まったり…歴史の時間にこのバルカン半島を「ヨーロッパの火薬庫」と習ったことを覚えてる方はこの「マッチョ」という表現に同意していただけるのではないでしょうか?ちなみにバルカン半島は一般的にギリシャ、アルバニア、ブルガリア、ルーマニアと旧ユーゴスラビア諸国(セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、スロベニア、マケドニア、コソボ、モンテネグロ)を指します。

 

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クロアチアの首都ザグレブ

今回訪れたのは、セルビアの首都であり旧ユーゴスラビア連邦の首都でもあったベオグラード、1984年冬季オリンピックの開催地や第一次世界大戦の原因となったサラエボ事件で知られるボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボ、90年代の内戦で破壊され、2004年に再建された平和の象徴である橋スターリモスト(世界遺産)のある同国モスタル、ジブリの名作『紅の豚』や『魔女の宅急便』の舞台であり「アドリア海の真珠」という異名を持つクロアチアのドゥブロブニク、そしてクロアチアの首都ザグレブの計三カ国・五都市です。バルカン半島というより旧ユーゴスラビアの国々ですね。

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ベオグラードにある世界最大級の正教会の大聖堂

観光地としてメジャーではないこの地域になぜわたしが訪れることになったのか。きっかけはこんな感じです。大学二年生の時にある哲学の講義で聞いたスラボイジジェクの故郷、ユーゴスラビアを形容する「七つの国境(イタリア・オーストリア・ハンガリー・ルーマニア・ギリシャ・アルバニア )、六つの共和国(スロベニア、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ )、五つの民族(スロベニア人・クロアチア人・セルビア人・モンテネグロ人・マケドニア人)、四つの言語(スロベニア語・クロアチア語・セルビア語・マケドニア語)、三つの宗教(イスラム・カトリック・正教)、二つの文字(ローマ字・キリル文字)、一つの国家(ユーゴスラビア)」というクリシェが自分の中に強烈な印象を残しました。カオスじゃん!社会主義国でありながらソ連と袂を分かち、西側にも東側にもつくことがなく、第三世界と協力した非同盟運動について、またこのバラバラすぎる6つの国を一つにまとめたカリスマとして亡き今でも人気の高いティトー大統領について、調べれば調べるほど好奇心は増すばかり。それからというものの本や映画を観漁り、この地にハマっていきました。そんな中、オンライン英会話を始めるとフィリピン人講師だけではなく東欧出身の講師もたくさんいるではありませんか!人生で初めてセルビア人やボスニア人と実際に接し、わたしのバルカンへの憧れが募りに募りまくって爆発したところで今回の旅行を決断した次第でございます。

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ドゥブロブニクの市場

 さて、前置きが長くなってしまいましたが本記事では「次の旅行先は絶対にバルカン半島にすべきいくつかの理由」を書きたいと思います。サクッといきましょう。

 

1.ちょっと移動しただけで街の雰囲気が大変化する

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コソボ紛争の際にNATOがベオグラードを空爆して破壊された建物

 これは冒頭にも述べた通り宗教の違いからくる影響です。ユーゴスラビアは南スラブ人の土地という意味で、民族は一緒なのですが各国で信仰している宗教が全く違います。セルビアはロシアと同じ正教(オーソドックス)でキリル文字を使用しています。高校も大学もミッションスクールに通っている私はプロテスタントやカトリックの教会はもちろん、モスクも日本で訪れたことがあるのですが東方正教の教会は訪れたことがなかったのでロシアのような雰囲気のセルビアが一番新鮮でした。クロアチアはポーランドやチェコといった中欧の多くの国と同じカトリックの国です。『天使にラブソングを』でしか見たことがなかったシスターを街中でたくさん見ました。ボスニアヘルツェゴビナはセルビア人もクロアチア人もたくさん暮らしているのですが、なんとイスラム教徒が多い国です。街中にモスクがあり、夕方になるとお祈りの呼びかけのアザーンが街中に流れていて、それはそれはエキゾチックでした。東京と名古屋と大阪ぐらいの距離感で信仰している宗教が違うと考えていただいていいでしょう。

 

2.知られざる猫天国 

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 魔女の宅急便の舞台となったクロアチアの港町ドゥブロブニクは、黒猫ジジの存在からわかるように猫がたくさんいます。動物カメラマン岩合光昭さんが世界中のネコを撮るNHKの番組『世界ネコ歩き』で登場したこともあるのでドゥブロブニクと猫を結びつける のは容易だと思います。ちなみに紅の豚の舞台でもあると述べましたが豚はいませんでした。しかし、ドゥブロブニクに限らずザグレブでもサラエボでもたくさんの猫を見ました。特にベオグラードはネコグラードと名前を変えたほうがいいのではと思うほどの野良猫がたくさんいて、猫派でありながら猫アレルギーで猫を飼えないわたしには天国のような街でした。

 

3.今のところテロが起きてない

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「(戦争を)忘れるな」モスタルにて

去年訪れたパリではデパートに入るのに持ち物をチェックをされ、有名な教会に入るためには空港並みのセキュリティチェックをされました。惨たらしいテロが起きてしまい、いつテロが起きるかわからない今日のヨーロッパでは当然の対策です。さてバルカンはどうでしょう。2017年のヨーロッパであるにもかかわらず、博物館に入る時に一切持ち物検査がありませんでした。ただし油断は禁物です。外務省の渡航情報を確認してからいきましょう。ちなみにサラエボには野良犬(!)がたくさんいて、西欧と同じようにスリや物乞いをしてくるロマ(ジプシー)が少しいるので注意が必要です。

 

4.物価が安い

 

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モスタルで一泊22ユーロだったヴィラ(庭付き)

ヨーロッパ屈指のリゾート地、ドゥブロブニクを除くと東京より物価が安いと感じました。中でもダントツで安かったのはボスニアヘルツェゴビナです。また、他の中東欧の国と同じように可愛い雑貨がたくさんあり、しかもムスリムが多く暮らすの国なのでかなりエキゾチックなものが安く手に入ります。思わず爆買いしてしまいました。食費だけではなく宿代や移動のバス代、タクシー代も日本では信じられないほど安いです。調子に乗ってタクシーに乗りまくっていたらサラエボでぼったくられました。ベオグラードでは一度もぼったくられなかったのに、隣国同士でのこの違いはなんなんだ一体・・・旧ユーゴはとっても面白いです(泣)サラエボに来る際はお気をつけください。

 

5.涙が出そうなくらい人が優しい

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なぜか男性しかいない朝のサラエボ

初めてパリに行ったときに、あまりにもフランス人が傲慢で不快な接客しかできないものだから幻滅しました(笑)これがいわゆるパリ症候群と呼ばれるものです。パリから空路で訪れたベルリンでは比較的まともな接客を受け、パリとのギャップに驚嘆し、それ以降わたしはもっぱらベルリン贔屓であります。あまりに観光客への嫌悪が露骨なパリとまで言わなくても、西欧のメジャーな観光地では溢れかえった観光客に対して冷たかったり人種差別とも取れる’’おもてなし''を受けるところがあるでしょう。アジア人が白人と違った対応をされたり、高級レストランで酷い席を通されたりすることです。人種差別という言葉は大げさかもしれませんが、舐められてることには変わりありません。せっかくの旅行でそんな悲しい思いをしたくないですよね。

 

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夕方のサラエボ

さて、東欧に位置する旧ユーゴはどうでしょうか。西欧列強と違い、東欧の国々は植民地を持たなかったで人種の多様性が皆無です。ほぼ9割白人。ロマがほんの少しいるぐらい。そんな場所にアジア人がいったら中国人とからかわれたり卵投げられるんじゃないかな…と思ってましたが実際行ってみると予想を裏切られます。ベオグラード一と噂のパン屋で惣菜パンを買うと店員のおばちゃんがおまけだよっと言わんばかりのウィンクで菓子パンをご好意で入れてくれたり、サラエボでキョロキョロしながら道を歩いてると大丈夫?と英語で聞かれたり、険しい山道で山頂にある展望台までの行き方を聞いた人が通りかかった友達の車に一緒に乗せてっていってくれたり、泊まる予定のヴィラの前についたら閉まっていて呆然と立ち尽くしていたら通りかかりのお姉さんが宿のオーナーに電話してくれたり、セルビア語でしかアナウンスのない長距離バスの中でトイレ休憩の時間を聞いてもないのに乗客のおばさんが英語で教えてくれたり、パスポートコントロールの時には近くにいる子どもが英語でわたしにパスポート出して!と教えてくれたり・・・

 

ホステルでは体調を崩し、脱水症状になってしまったのですがジュースを購入しようとお金を出すとフロントのセルビア美人がそんなもん要らないわよ!と3本も無料でジュースを出してくれて一晩中つきっきりで看病してくれました。重曹を使った非科学的な胃薬まで作ってくれました。

 

ベオグラードでは道を聞くとほぼ全員がその場所まで連れて行ってくれました。それでみなさん必ず最後にこう聞いてきます「Do you like it here?(ベオグラードは気に入った?)」とにかく今回の旅行で受けた親切な行為をあげると本当にキリがありません。不快な経験もタクシーのぼったくり以外何もしませんでした。(これは自分にも非があります)後日バルカンの人は西欧人より親切だったとセルビア人に話したら「オフコース」と言われました。どうやら自分たちの暖かさを自覚しているようです。一言で言うと人情が熱盛ィ!なんです。信仰している宗教は違えど、バルカン人の優しさはどこへ行っても全く変わりませんでした。

 

6.料理がバラエティに富んでいて美味しい

冒頭でバルカン半島を「マッチョ」と表現したのには、この地域の伝統料理が肉だらけだからという理由もあります。セルビアやボスニアは海に面さない内陸国なので本当に肉ばっかりです。どれもとっても美味しいです。

 

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チェバピ

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ボスニア郷土料理のパイ。窯で焼いた餃子のような味がして最高でした

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感動するほど美味しかったピーマンの肉詰め。お酒も飲んで853円という安さ・・・

また、ドゥブロブニクは名前にニクと付いているにもかかわらずマリンリゾート地なのでアドリア海で獲れたシーフードで有名です。日本人シェフが作る寿司レストランまであります。マグロが口の中で溶けるほど美味しかったです。

 

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イカスミリゾット

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ドゥブロブニクで食べれる本格的な寿司

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イカフライ

イタリアの対岸に位置していることもあってかボスニアやクロアチアでは美味しいジェラートがそこらじゅうで売られています。日本にないフレーバーばかりで、食べるのが楽しすぎて七日間で15回ぐらい食べたと思います。ダントツで美味しかったのはサラエボのマカロンをふんだんに使ったアイス、次点でドゥブロブニクのウィスキーを使用したアイスです。

 

 

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ウィスキーが隠し味のアイス

 

以上が私が次回の旅行を旧ユーゴを周遊すべきだと思う理由でした。訪れる際は、この地の歴史や90年代の戦争のことをちゃんと学んでからくることを強くオススメします。『ある愛へと続く旅』『サラエボの花』『ノーマンズランド』といった映画を旅行の予習で観るのもいいでしょう。来年の旅行にバルカン、いかがでしょうか。それでは、チャオ!(バルカンでもチャオは一般的な挨拶です。出会いでも別れでも使えます。たくさん使いまくってくださいね!)

 

 

今話題のルシファーの塔に行ってきた。 『Godspeed You! Black Emperor / Luciferian Towers』

今日はGodspeed You! Black Emperorの紹介と、リリースされたばかりの新しい作品Luciferian Towers の感想を書いていきたい。

このカナダ出身の音楽集団は3人のギタリスト、ドラマーとベーシストが2人ずつ、バイオリニスト、映像作家の計9人からなる。まさかあのビートルズの2倍以上の人数である。

結成は1994年、2003年に活動を休止し2010年に再び再開して現在に至る。カナダ周辺はどうも大所帯なグループが多いように感じるが土地柄なんだろうか。

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彼らの音楽の魅力は混沌としたドローンノイズの上に織りなされる美しいメロディだろう。こう言うと一見取っ付きづらいように見えるが、 ポストロックファンの間のみにとどまらず世界の音楽通たちから非常に高い評価を得ている。その完成度の高さを示す1つの指標としてピッチフォークのスコアを紹介しよう。採点済み5枚の作品のスコアの平均は7.8点、さらに二枚のアルバムが9点以上を獲得している。活動再開後に発表された 'Allelujah! Don't Bend! Ascend! の得点が9.3、同じくカナダ出身のバンドであるアーケイドファイアの名盤と名高いリフレクターが9.2点だ。

要するにGodspeed You! Black Emperor はアーケイドファイアに匹敵するカナダのモンスターグループであり得るというわけです。

(普段は批評家の意見は極力参考にしないよう心がけているがこの際どうしてもGY!BEを聴いてもらいたいので止むを得ずこういった形をとることにした。Funeralで9.7点とGY!BEの最高点を上回るアルバムを出しているアーケイドファイアを引き合いに出したのもそういうことだ。何が優っていて劣っているかを決めるのは決して批評家ではなく聴き手だと思っているのでスコアは参考程度に、本当は3割も鵜呑みにしないで欲しい。)

 

 

ここからは新作のLuciferian Towers についての紹介。

まあ辛口のピッチフォークから9点越えを獲得した凄い作品が二枚も過去にリリースされているが、それらを予習する必要はない。むしろ予備知識をあまり入れずに是非今年リリースされたLeciferian Towers から聴き始めて欲しい。

今作は、過去の作品と比べ飛び抜けて形がくっきりしているから一聴した時点で掴みやすい(いやむしろ掴まれる)。ちょうどこれからGY!BEに入門する人に最適なアルバムだ。できるだけ良い音が鳴るヘッドホンなりイヤホンを選んで大きな音で再生して欲しい。

彼らの奏でる不思議な旋律はロックやポストロックというジャンルにとどまらない。耳馴染みのない音でありながらどこか普遍的だ。多分どこやらの伝統音楽とかのあれなんだと思う。詳しいことはわからない。過去にはホルンやバグパイプ、アコーディオンの奏者が在籍していたらしい。西洋の民族音楽にこんな感じのがあるんだろうきっと。

そもそもたくさんの楽器が織りなす音は通常の音量で十分楽しめる多彩さで、脳のいろんなところから音が聞こえてくる感動を味わえる。だがそれでは飽き足らず曲が展開するにつれ音量はこれでもかと上がっていく。複数の楽器に奏でられる不穏なメロディはうねりあいながら凶暴なノイズへと姿を変え、徐々に緊張感を増したリズム隊に絡み込んで、我々の頭を揺らすのだ。

今までのアルバムに比べかなり明るくなっているものの、暗黒面のささやきは未だに鳴り止まない。とてつもなくダークで恐ろしくありながらも、楽しさは今までの5倍だ。GY!BEの遂げた最強の進化の前ではあのiPhone X も思わず尻込みするのではないだろうか。

これは一度聴けば「もはやこの時代、ロックバンドには最低でも8人演奏者がいないと話にならない」というとてつもない真実に到達するはず。Luciferian Towers は美しくも邪悪なGY!BEという地下迷宮へ続く入り口、ぜひ楽しんで欲しい。

実験的と言われる彼らのサウンドは、意外にも心地良く耳を浸す、きっとあなたも病みつきになるはずでしょう。

 

open.spotify.com

 

気に入ってくれた人は是非

「ドラマーが2人なんてのはもはやこの時代の音楽においてドレスコードに等しいし、ベーシストも2人いる方が良いに決まっている。ギターが3本なんて当たり前だよ、まさかギター1本だけじゃどうにもならないでしょう笑、そんなことやって許されるのはBlurだけだよ」

という具合にカッコをつけまくってしまおう。そうやって誰しもがポストロックになって行くのだ。

 

by Merah aka 鈴木レイヤ

最近のロックバンドの傾向、イスラームからの影響を受けている説

Hello, I'm Miyoshi. 

 

本当はJeff Buckleyの魅力を語るつもりで彼を取り囲んでいた音楽的背景を調べていたところ、中々に興味深い繋がりを発見した。それがこの記事の題名の通り、

 

最近のロックバンドの傾向はイスラームからの影響を受けているかもしれない

 

という繋がりだ。

先に結論を言おう。

 

洋邦問わず近年増えてきた高音の男性ボーカルがイスラームの音楽を元ネタとしている可能性がある。

 

こういうことだ。理屈的には十分妥当性があると自分では思っている分、説明を読めばJeff Buckleyのファンなどにとっては何の驚きもない説かもしれないし、あるいは全然見当はずれかもしれない。

とにかく説明を始めよう。

 

突然だが、Nusrat Fateh Ali Khanを知っているだろうか。

80年代にヨーロッパでも有名になり、日本にも度々来日している、パキスタンのカッワーリーの歌手である。そもそもカッワーリーというのが日本人には馴染みのない言葉だろうが、「言う」を意味するアラビア語「قول」から派生した用語で神やムハンマドを讃える歌や恋愛に関する詩など様々なテーマを扱うイスラームの伝統音楽を指す。

 

その歌い手の中でも大物であった彼は、元GenesisのボーカルPeter Gabrielが立ち上げたワールドミュージックのレーベルReal Worldによって西洋世界にも紹介され、一躍世界中のスーパースターとなり、多くの西洋ミュージシャンとも交流を持った。

過労が祟ってか48歳という若さで亡くなるも、その後も西洋にも大きな影響を与え、2015年の彼の誕生日にはなんとgoogleのロゴに登場し、未だにその人気は衰えていない。

 

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引用元:google.com

 

と言っても、説明だけではいまいちピンとこないであろうから、動画を紹介しよう。これは先ほど述べたReal World主催のワールドミュージックフェスであるWOMADの横浜でのライブ映像である。

 

 

これを聞いただけでは、大して最近のロックと結びついているようには思えない。

ではこれはどうだろう。

 

 

かなり激しい歌い回しで、特に2:40辺りからの歌い回しは近年の高音でエモーショナルに歌い上げるロックボーカルとスタンス自体は一致しているように思える。

しかしそれだけでは、決定的な根拠とはなりえない。

 

ここで満を持して登場するのが、冒頭にちらりと名前が出てきたJeff Buckleyである。

彼に関してはできるならば機会を改めて筆を取りたいので詳細は省くが、90年代に流星の如く現れてレジェンドから同時代まであらゆるミュージシャンに絶賛された孤高の天才であり、何を隠そう、Nusrat Fateh Ali Khanの熱狂的なファンである。

対談を行ったり、ライナーノーツを寄稿するだけでなく、「自分にとってのエルヴィスプレスリーである」とまで言ってのけるほどの最上級の尊敬の念を彼に抱いている。

そんな中、当然というべきか、カバーも行っている。

 

 

カッワーリーに使われているのはペルシア語、ウルドゥー語、パンジャービー語が主で、Jeff Buckleyが果たして自分の歌っていることをどこまで理解しているかは謎だが、Nusratの歌い方をかなりの再現度で真似している。最初は突然聞いたことのない言語で歌い出したJeff Buckleyに観客が笑っているが、彼の堂々たる歌い回しに少しずつ引き込まれていく様が生々しく収められている。

ちなみにこの直後の曲間ではボイスパーカッションをしたと思えばNirvanaのSmells Like Teen Spritのリフを弾きながらNusratの歌いかたを真似するという爆笑ものの一幕が記録されているので、気になった方はぜひアルバムを聴いてほしい。

 

さて、ここまで来たらロックとイスラームの繋がりも見えてきたのではないだろうか。

先ほどのJeff Buckley版Nusratでの2分辺りから聞くことが出来る、ビブラートを効かしたファルセットが大々的にフィーチャーされる曲がある。

それが彼のデビューアルバムのタイトル曲、「Grace」だ。

 

 

5:10辺りからの圧巻のファルセットは、間違いなくNusratの歌い方を明らかに意識しており、曲の構成も徐々に感情を露わにして熱狂していくカッワーリー的な構成であり、背景を知らない人には気付きようもないが、「Grace」は相当なレベルでイスラーム音楽のクローンであるのだ。更には彼はバンドスタイルにこだわる理由はハイになれるからとまでも言い切っている。

 

一方で彼はLed Zeppelinの熱烈なファンでもあり、彼のファルセットを単純にNusratからの影響だけだと断定するのは早計である。そうは言ってもやはり、NusratやJeff Buckleyの絞り出すかのようなファルセットは西洋のロックミュージックの発声とはニュアンスが異なっており、Robert PlantよりはNusratの方が彼の歌い方のルーツを考えるにはより妥当性を感じる。

  

そして更に、彼のライブを見て自分のボーカルスタイルに高音を大きく取り入れることとなったロックミュージシャンがいた。

 

MuseのMatthew Bellamyである。

 

 

やはりデビューアルバムのタイトル曲である「Showbiz」は、静かな立ち上がりから徐々に激しさを増し、最終的には混沌の中にファルセットで叫び終焉する。

完全に「Grace」を意識した構成であり、つまりは「隠れカッワーリー」である。

 

しかし、Matthewは自分の高音を「ソプラノ歌手を意識して歌っているんだ」という風に度々発言している。自分の元ネタをどこまで自覚しているかわからないが、面白いことに西洋と東洋の音楽スタイルが融合している。本人はオペラという西洋の伝統音楽をオマージュしているつもりでも、文脈的な意味ではイスラームの伝統音楽カッワーリーのオマージュも恐らくはしている。

 

更にRadioheadもJeff Buckleyの熱狂的なファンであり、Museと共に男性の高音ボーカルを売りにしたこの2バンドが彼の影響下にいることは大きい。更に、日本ではクソバンドマン芸人を貫いてお茶の間を賑わしたゲスの極みの乙女がMuseのトレードマークとも言える、非常にニッチなギターメーカーManson GuitarのMatthewモデルをMステで演奏していたのがUKロック界隈では少し話題になったが、今の流れだと彼も「隠れカッワーリー」である。と言ったらその道の人にぶん殴られそうだけど。インシャーアッラー。

 

 

以上で自分の唱える説のあらかたな説明は終わりである。

それはとっくにスタンダードだ、という意見、いや、全く違う、という意見、みなさん色々とお持ちでしょうが、是非ともこのブログにぶつけていただけると幸いです。

 

最後に締めの言葉を。

こういう風に旧来では結びつきそうになかった文化が一つの線で繋がる。

 

 

 

 

 

これがポストモダンというやつか。

 

 

 

おしまい。