最近のロックバンドの傾向、イスラームからの影響を受けている説
Hello, I'm Miyoshi.
本当はJeff Buckleyの魅力を語るつもりで彼を取り囲んでいた音楽的背景を調べていたところ、中々に興味深い繋がりを発見した。それがこの記事の題名の通り、
最近のロックバンドの傾向はイスラームからの影響を受けているかもしれない
という繋がりだ。
先に結論を言おう。
洋邦問わず近年増えてきた高音の男性ボーカルがイスラームの音楽を元ネタとしている可能性がある。
こういうことだ。理屈的には十分妥当性があると自分では思っている分、説明を読めばJeff Buckleyのファンなどにとっては何の驚きもない説かもしれないし、あるいは全然見当はずれかもしれない。
とにかく説明を始めよう。
突然だが、Nusrat Fateh Ali Khanを知っているだろうか。
80年代にヨーロッパでも有名になり、日本にも度々来日している、パキスタンのカッワーリーの歌手である。そもそもカッワーリーというのが日本人には馴染みのない言葉だろうが、「言う」を意味するアラビア語「قول」から派生した用語で神やムハンマドを讃える歌や恋愛に関する詩など様々なテーマを扱うイスラームの伝統音楽を指す。
その歌い手の中でも大物であった彼は、元GenesisのボーカルPeter Gabrielが立ち上げたワールドミュージックのレーベルReal Worldによって西洋世界にも紹介され、一躍世界中のスーパースターとなり、多くの西洋ミュージシャンとも交流を持った。
過労が祟ってか48歳という若さで亡くなるも、その後も西洋にも大きな影響を与え、2015年の彼の誕生日にはなんとgoogleのロゴに登場し、未だにその人気は衰えていない。
引用元:google.com
と言っても、説明だけではいまいちピンとこないであろうから、動画を紹介しよう。これは先ほど述べたReal World主催のワールドミュージックフェスであるWOMADの横浜でのライブ映像である。
これを聞いただけでは、大して最近のロックと結びついているようには思えない。
ではこれはどうだろう。
かなり激しい歌い回しで、特に2:40辺りからの歌い回しは近年の高音でエモーショナルに歌い上げるロックボーカルとスタンス自体は一致しているように思える。
しかしそれだけでは、決定的な根拠とはなりえない。
ここで満を持して登場するのが、冒頭にちらりと名前が出てきたJeff Buckleyである。
彼に関してはできるならば機会を改めて筆を取りたいので詳細は省くが、90年代に流星の如く現れてレジェンドから同時代まであらゆるミュージシャンに絶賛された孤高の天才であり、何を隠そう、Nusrat Fateh Ali Khanの熱狂的なファンである。
対談を行ったり、ライナーノーツを寄稿するだけでなく、「自分にとってのエルヴィスプレスリーである」とまで言ってのけるほどの最上級の尊敬の念を彼に抱いている。
そんな中、当然というべきか、カバーも行っている。
カッワーリーに使われているのはペルシア語、ウルドゥー語、パンジャービー語が主で、Jeff Buckleyが果たして自分の歌っていることをどこまで理解しているかは謎だが、Nusratの歌い方をかなりの再現度で真似している。最初は突然聞いたことのない言語で歌い出したJeff Buckleyに観客が笑っているが、彼の堂々たる歌い回しに少しずつ引き込まれていく様が生々しく収められている。
ちなみにこの直後の曲間ではボイスパーカッションをしたと思えばNirvanaのSmells Like Teen Spritのリフを弾きながらNusratの歌いかたを真似するという爆笑ものの一幕が記録されているので、気になった方はぜひアルバムを聴いてほしい。
さて、ここまで来たらロックとイスラームの繋がりも見えてきたのではないだろうか。
先ほどのJeff Buckley版Nusratでの2分辺りから聞くことが出来る、ビブラートを効かしたファルセットが大々的にフィーチャーされる曲がある。
それが彼のデビューアルバムのタイトル曲、「Grace」だ。
5:10辺りからの圧巻のファルセットは、間違いなくNusratの歌い方を明らかに意識しており、曲の構成も徐々に感情を露わにして熱狂していくカッワーリー的な構成であり、背景を知らない人には気付きようもないが、「Grace」は相当なレベルでイスラーム音楽のクローンであるのだ。更には彼はバンドスタイルにこだわる理由はハイになれるからとまでも言い切っている。
一方で彼はLed Zeppelinの熱烈なファンでもあり、彼のファルセットを単純にNusratからの影響だけだと断定するのは早計である。そうは言ってもやはり、NusratやJeff Buckleyの絞り出すかのようなファルセットは西洋のロックミュージックの発声とはニュアンスが異なっており、Robert PlantよりはNusratの方が彼の歌い方のルーツを考えるにはより妥当性を感じる。
そして更に、彼のライブを見て自分のボーカルスタイルに高音を大きく取り入れることとなったロックミュージシャンがいた。
MuseのMatthew Bellamyである。
やはりデビューアルバムのタイトル曲である「Showbiz」は、静かな立ち上がりから徐々に激しさを増し、最終的には混沌の中にファルセットで叫び終焉する。
完全に「Grace」を意識した構成であり、つまりは「隠れカッワーリー」である。
しかし、Matthewは自分の高音を「ソプラノ歌手を意識して歌っているんだ」という風に度々発言している。自分の元ネタをどこまで自覚しているかわからないが、面白いことに西洋と東洋の音楽スタイルが融合している。本人はオペラという西洋の伝統音楽をオマージュしているつもりでも、文脈的な意味ではイスラームの伝統音楽カッワーリーのオマージュも恐らくはしている。
更にRadioheadもJeff Buckleyの熱狂的なファンであり、Museと共に男性の高音ボーカルを売りにしたこの2バンドが彼の影響下にいることは大きい。更に、日本ではクソバンドマン芸人を貫いてお茶の間を賑わしたゲスの極みの乙女がMuseのトレードマークとも言える、非常にニッチなギターメーカーManson GuitarのMatthewモデルをMステで演奏していたのがUKロック界隈では少し話題になったが、今の流れだと彼も「隠れカッワーリー」である。と言ったらその道の人にぶん殴られそうだけど。インシャーアッラー。
以上で自分の唱える説のあらかたな説明は終わりである。
それはとっくにスタンダードだ、という意見、いや、全く違う、という意見、みなさん色々とお持ちでしょうが、是非ともこのブログにぶつけていただけると幸いです。
最後に締めの言葉を。
こういう風に旧来では結びつきそうになかった文化が一つの線で繋がる。
これがポストモダンというやつか。
おしまい。