Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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プラネットマジックをもう一度 〜N'夙川BOYSと私の話

 

好きになった先輩が好きだって言ってた、だから知ったかぶりをした。

N'夙川BOYS。

なにせ知ったかぶりなもんだからその時の私はナギガワボーイズと読んだかもしれない。なんとなく先輩のンッ?と言った顔を覚えている。

 

N'夙川BOYSは西宮の狂犬ことKING BROTHERSの須方真之介(夙川ではシンノスケBOYS)、小山雅史(夙川ではマーヤLOVE)と現役トップモデルリンダdada嬢により太陽の塔の下で結成されたバンド。

その日の気分によって担当パートが変わるざっくり編成、その特異なビジュアル、グリコのおまけ菓子程度の演奏力で映画版モテキ(2012年)に本人役で出演、劇中歌「物語はちと不安定」を提供。でも意外とルーツはJoy Divisionのdisorder。そんなバンドである。あとはYouTube開いてください。

 

youtu.be

 

さて知ったかぶりをしてしまった15歳の私に話は戻る。当時高校一年生の私は見事に高校デビューに失敗し、先述の先輩くらいしか友達ができなかった。

そんな先輩の好きなもの、無碍にできるはずがない!と真っ先にYouTubeを開いた。

多分ナギガワボーイズで検索したからサジェストに助けられた。選んだ曲は先述「物語はちと不安定」。

まだしぶとい桜は枝にしがみついていた季節だったろうか、とにかく夙川と私はかくして出会った。

 

夏が来る頃にはすっかりそのヤバそうなバンドに夢中になっていた。

旧譜を聴きあさりシュクガワという読み方も覚えついでに阪急神戸線の駅名も覚え、彼らにのめり込むことでクラスで誰からも相手にされない自分を忘れられた。

やがてヴィレヴァンも特設コーナーを設けタワレコも旧譜を推し始め待ちに待ったメジャー1stフルアルバムが発売されたのは秋だった。

そしてその秋私は初めて彼らを生で見た。

ある大学の学祭だった。やや肌寒い日の野外ステージだったが生マーヤのジャケットの下はやっぱり裸だったし生シンノスケはほんとにステージ骨組みに登ってるし生リンダは鬼のように可愛かった。生マーヤはステージを取り囲む半円状の庇に登り「土星の輪!!!」なんて言いながら駆けていた。怒られるだろ。

だがそんなことはどうだっていい。確かに目の前で繰り広げられているのは昼間同じステージに立ったであろう学生さんバンドよりも拙いであろう演奏だ。

だけど泣けて泣けて仕方なかった。涙で歪んだ視界が極彩色でキラキラと瞬いたのをよく覚えている。

正直泣くほど大好きで追っかけていたとかそういうわけではない。だけどなんだかバカみたいな熱量でバカみたいな大人をやって、全てを肯定した上でステージに立っている彼らに、救われたような気すらしたのだ。

 

翌春、先輩にも振られ、相変わらずクラスでも浮きっぱなしの私は、シングルリリース記念のワンマンライブにすがるように足を運んだ。

このシングルというのが少し曲者で、ピアノパートとベースパートが夙川メンバー外で録られている。何が言いたいかというと、あの下手クソだった夙川ではないということだ。ライブでもサポートメンバーがそのパートを当てたり、演奏含めよりクオリティの高いライブとなっていた。

またファン層も少し変化していた。いわゆる日曜邦ロックタグ全盛時代だった。案の定モッシュが起きていた。マーヤはおどけながら注意をしていた。どんくさい私は蹴っ飛ばされながら、それでもあの日見たキラキラをもう一度見たくて、ステージから目を離さなかった。きっとまたあの日のキラキラに救われたかったのだ。

 

翌年以降もベスト版のリリースが決まり、ドラマタイアップが決まり、セカンドアルバムも発売された。まさに絶好調だ。

一方でそのタイアップ曲では何度も何度も「向こうさんからOKが出ないから」リテイクをしたらしい。いちリスナーの観点からしても、彼らを取り巻く何かが変わっていってるのは明白だった。

その後も数度ライブに足を運んだが、こんなにも楽しいしこんなにもかっこいいのにはなんら変わりないのに、私はどうしても奥歯に引っかかったような何かが拭えなかったし、たとえもう変わってしまったのは私のほうだとしても煮え切らない思いがあった。

 

自らを肯定できなかったのは彼らも同じだったのかもしれない。N'夙川BOYSは2015年の冬、無期限の活動休止を宣言した。

推測だけでものを喋ってはいけないのは重々承知だが、これじゃあまりにも胸の痛い結末だ。

どうしようもなく不安定な15歳の私に、土星の輪っかに腰掛けながら救いの手を差し伸べてくれたのは紛れもなく彼らだ。未だに私の心のどこかでは、あの肌寒い日に初めて浴びたバカみたいに愛おしい極彩色のロックンロールが鳴り響いているのだ。

 

あの日の彼らがいつかまた帰ってきますように、そしてまたあの日の私のようなティーンを救うことがありますように。そんなささやかな願いを抱えて、少し大人になった私は不安定な物語の中を生きていく。

 

by beshichan