Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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2017年の新譜のお話

ドーモ、ミヨシです。

 

年度も変わるタイミングでようやくの昨年出た新譜のレビュー。遅いのは承知しております。ただ、雑誌やツイッターの年間ランキングで良く見かけたアルバムを、ぽいぽいストリーミングサイトで保存していったら膨大な量に膨れ上がり...

結局そういう後出しで聞いたアルバムでハマったものは少なかったので、来年はもう少し早くなるとは思います。はい。

 

そして、発表方法なんですが、ランキングではなく五段階評価という形になってます。

理由はいろいろありますが、根本には「芸術に単純な優劣をつけたくない」という気持ちが強く働いているので、相対評価のランキングには抵抗がある(他のレビュアーに喧嘩を売ってるわけではないですが、黙って誤魔化す、という選択もしないことにします)というのが一番にあり、その他に

 

・聞いたアルバムの母数が少なすぎる。

・1位と2位の判別ならなんとかなりそうだが、28位と29位の上下を決める自信がない。

・ジャンルの壁がますます薄くなっている今日、「こういうアルバム聞いてる人間はココまでの界隈をあらかた聞いてて、ココから先はノーマーク」という暗黙の了解がないため、「あのアルバムを聞いた上でこのアルバムをこう評価したのか」という無言のやり取りが通用しなく、書き手の価値観が読み手に歪んだ形で伝わることも...

 

くどい

 

というわけで、タイプじゃなかったもの以外全部五段階にぶちこんで、感想を特記したいものは短めですが、一通りちゃんと書きました。長いので覚悟してください。

 

太字はレビューあり、「初」は「そのミュージシャンのアルバムを初めて聞いた」の意。

 

 

 

★★☆☆☆

Alt-J/Relaxer 初

Arcade Fire/Everything Now

Hurts/Desire

St. Vincent/Masseducation

Viva Brother/II

The War on Drugs/A Deeper Understanding 初

 

 

Arcade Fire/Everything Now

 

 

 

タイトル曲でABBAを次なるオマージュ先に認定した大所帯バンドの最新作は、ダンスミュージックに邂逅し、一見最高のポップミュージックを提示しているように思えた。ただし、アルバムを通して起伏がなく、消化不良のまま冒頭のリプライズで締め括られるという欠点を伴っての話だが。

  

Viva Brother/II

 

 

 

なぜ此の期に及んで、と言ったら失礼だが、完全に「あの人は今?」枠からの再結成宣言から程なく発売された2ndは、「Bastardo」に見られるシンセの導入、「Silver Silk」でのシューゲ路線など、サウンド的に進歩した上に、衰え知らずの作曲センスが発揮されている、復活作として申し分ない出来ではあった。しかし、シンセはあまりバンドサウンドと噛み合ってない上に、曲順があんまり良くない。僕が勝手に組み換えたプレイリストで聞いたら★1つ分ぐらいクオリティーが上がった。そんなアルバム。再結成ライブを1回やったきり、公式アカウントも沈黙しているが、これで終わるには勿体ないバンド。。。

 

★★★☆☆

All That Remains/Madness

The Brithday/NOMAD 初

Black Stone Cherry/Black to Blues 初

Bjork/Utopia

Cairokee/Noaata Beida 初

Cinema Staff/熱源

Circa Survive/The Amulet

Converge/The Dusk in Us

Drake/More Life 初

Eminem/Revival

King Gizzard & The Lizard Wizard/アルバム5枚 初

Laurel Halo/Dust 初

Linkin Park/One More Light

Mark Guiliana Jazz Quartet/Jersey 初

minus(‐)/R 初

MUCC/脈拍 初

The National/Sleep Well Beast 初

Nine Inch Nails/Add Violence

Noel Gallagher's High Flying Birds/Who Built the Moon? 初

Passion Pit/Tremendous Sea of Love

Rise Against/Wolves 初

Ride/Weather Diaries 

Roger Waters/Is This The Life We Really Want

Royal Blood/How Did We Get So Dark?

Sleep Party People/Lingering

Tempalay/『5曲』 初

Tinariwen/Elwan

Yes/Topographic Drama

電気グルーヴ/TROPICAL LOVE

 

Circa Survive/The Amulet

 

 

 

エモが苦手な自分が好きな数少ないバンドCirca Survive。Saosinでも活躍するボーカルAnthony Greenは、力強くもどこか柔和な声で、およそ男性には難しいはずの高音域をのびやかに歌い上げる。その歌声は間違いなく男性のものであるのだが、どれだけハイトーンでも耳に刺さることはなく、天上の世界まで聴き手の精神を導くような唯一無二の声質なのだ。また、特異なのは彼のボーカルだけでない。分かりやすい歌メロ→ブレイク→激情サビといった、エモのテンプレをなぞる曲展開はこのバンドにはあまりなく、The Mars Voltaを彷彿とさせるような先の見えない展開は、エモ嫌いの僕をも興奮させる。

 

Converge/The Dusk in Us

 

 

 

凄まじい熱量を放つポストハードコアバンドの新譜。正直、疾走しない冒頭、急加速、急停止、再加速、というテンポ感についていけなかった。とはいえ、自分が評価している理由である、「ミドルテンポの曲の作曲能力の高さ」は相変わらずであり、彼らがただのスピード狂でないことを思い知らされる。いっそ一度スピードを封印してアルバムを作ってみてほしいのだが。

 

King Gizzard & The Lizard Wizard/アルバム5枚 初

 

(アルバムジャケットもタイトルも割愛。wikiでも読んでくれ)

 

「年にアルバムを5枚出す」という、「ヤクでもキメてんじゃねーのか」と思わざるを得ない試みをしただけでなく、その音楽性も負けず劣らずで、激ダサストーナーを基調に、ストーナー&サイケの1枚目、メタルの2枚目、フュージョンの3枚目、再びストーナー&サイケの4枚目、牧歌的プログレの5枚目、と微妙に路線を変えているところもまたガンギマり。2017年にもファッションではなく本当にガンギマっている残党が生き残っていることを伝えてくれる歴史史料。3枚目なんかFrank Zappaのジャケットぽくって、まさに年に5枚もアルバム出すやつらっぽさが見て取れる。

 

Linkin Park/One More Light

 

 

 

振り返ってみると、彼らの作品において満場一致の傑作は3rd以降出ていない。新機軸では完成度に欠け、原点回帰ではかつての気迫に欠ける。このアルバムもご多分に漏れず前者の類であり、新しいことをしたからダメなのではなく、キラーチューンのなさ、尺の短さなど、どうにも食い足りない。その一方で、どれだけ売れても創作にがむしゃらな姿勢を崩すことはなかったのは、たとえ不器用でも良い音楽を作り続けようとしてきた証拠であり、そういうところが3rd以降もLinkin Parkが人々に愛され続けた所以でもあるとも思う。だから、これをChesterの遺作だからといって神格化させることはせず、音楽活動でもプライベートでもずっと戦ってきた彼の生き様を示すものとして、むしろその半端さを愛したいと思う。彼の代理を立ててLinkin Parkが存続することも、このまま解散してしまうことも、とても考えられないけれども、いつか、残された五人が何かの答えを見つけ出すことを一ファンとして待ち続けたい。

 

Roger Waters/Is This The Life We Really Want

 

 

 

あまりにも露骨なタイトルである20年以上の年月を経てのロックアルバムとしての新作は、トランプ政権がアメリカを牛耳るようなポピュリズムの時代を憂いた爺の意見表明であり、サウンドはまんま70sフロイド、歌詞はもはや演説と化した散文詩。Nigel Godrichがプロデューサーなのでもっと実験的なサウンドになるかと思いきや、大してその音が変化することはなかった。取り立てて絶賛するところもなく、長年待ち続けたファンは落胆、もしくは彼らしいと受け流したことだろう。僕はというと、アルバム終盤の諦観の滲む数曲には、ここ数年の大御所の新譜の中で一番ゾクゾクしたかもしれない。といっても本人は執念深くトランプを批難し続けるつもりなんだろうけど。

 

Yes/Topographic Drama

 

 

 

バンドの大黒柱のChris Squire亡き後に始まった、アルバム「ドラマ」の完全再現と「海洋地形学の物語」の抜粋を目玉としたツアーのライブをパッケージ化した最新音源。来日では「ドラマ」も抜粋の形式だったので、生で聞けなかった曲が収録されているのはありがたい。

亡くなる前にChrisに指名され、その後継者となったBilly Sherwoodがベーシストとして活躍する、初めての音源であるはずだが、自分が来日で聞いた記憶よりChrisに忠実なプレイに徹している印象を受ける。

見も蓋もないことをいうと、彼は「器用貧乏」という言葉がまさに当てはまるプレーヤーなので、下手に自分のセンスでアレンジするのではなく、前任者の再現を選んだことが吉と出ている。いや、本当に申し訳けど、Billyの演奏に惚れたこと、ない(泣)。

ドラムもAlan Whiteが本編の最後の「儀式」中盤からアンコール終わりまでの参加で、他は一回り下のサポートメンバーが叩くという割り振りがなされており、最早継ぎ接ぎだらけなのだが、それでもSteve Howeのギターが鳴れば、どれだけリズムがヘロヘロだろうと、それはもうYesなのだ。

 

★★★★☆

alvvays/Antisocialites 初

Beck/Colors 初

Blackfield/Blackfield V 初

Cannibal Corpes/Red Before Black 初

Carvin Harris/Funk Wav Bounces Vol.1 初

Chuck Berry/CHUCK

Cigarette After Sex/Cigarette After Sex 初

circle/Terminal 初

clark/Death Peak 初 

Cloud Nothings/Life Without Sound 初

coldplay/kalaidscope EP 初

The Cribs/24-7 Rock Star Shit 初

D.A.N./Tempest

Depeche Mode/Spirit 初

Endon/Through The Mirror 初

Eric Johnson/Collage 初

Forest Swords/Compassion 初

Four Tet/New Energy 初

Gizmodrome/Gizmodrome 初

Godspeed You! Black Emperor/Luciferian Towers

Gone is Gone/Echolocation 初

GOOD ON THE REEL/グアナコの足

Gorillaz/Humans

grapevine/Roadside Prophet 初

Hype Williams/Rainbow Edition 初

Foo Fighters/Concrete and Gold

Foster The People/Sacred Hearts Club

Johan Johanson/Arrival(original motion picture soundtrack) 初

KASABIAN/Crying Out Loud

Kendrick Lamar/DAMN.

LCD soundsystem/American Dream 初

LUNA SEA/LUV

Mastodon/Cold Dark Place

Mew/Visuals

Mogwai/Every Country's Sun

Nothing But Thieves/Broken Machine

OCS/Memory of a Cut off Head 初

Oh Sees/Orc 初

Phoenix/Ti Amo 初

Public Service Broadcasting/Every Valley 初

Rafael Anton Irisarri/The Shameless Year 初

Rancid/Trouble Maker

Rex Orange Country/Apricot Princess 初

Ringo Starr/Give More Love 初

Sawano Hiroyuki[nZk]/2V-ALK

Shobaleader One /Shobaleader One 初

Slowdive/Slowdive

Songhoy Blues/Résistance 初

Sparks/Hippopotamus

Stereophonics/Scream Above The Sounds

Steven Wilson/To The Bone 初

SUGIZO/ONENESS M 初

Thundercat/Drunk 初

Tigran Hamasyan/An Ancient Observer

Tyler, The Creator/Flower Boy 初

U2/Songs of Experience

Virgil & Steve Howe/Nexus 初

Wolf Alice/Visions Of A Life 初

赤い公園/熱唱サマー

アルカラ/KAGEKI

池田亮司/music for percussion

坂本龍一/async

女王蜂/Q

福間創×ナカムラトモヒロ/ambi-valance 4

細野晴臣/Vu Ja De 初

 

Carvin Harris/Funk Wav Bounces Vol.1 初

 

 

 

「ドロップのあるEDMの人」で完全に認識がストップしていたので、他の人が絶賛していなかったら、そして、思わせぶりで飾りっ気のないジャケットとタイトルが目に留まらなかったら、絶対聞くことはなかった。Frank Oceanがフィーチャーされていることから分かるように、以前までのパリピサウンドから打って変わり、シックなR&Bに、ヒップホップ、ファンクなどがないまぜになった作風に鞍替えしている。世界を代表するDJがこうもあっさり今までの手法を捨ててしまうのは、一つの時代の終わりを象徴する事件だろう。出来ることならVol. 2を作って欲しいが、その頃にはまた音楽シーンが変化していて頓挫するのも、また一興。

 

Chuck Berry/CHUCK

 

 

 

90歳を記念して約40年ぶりに出されるはずが、発売を待たずして本人が死去したことより遺作となってしまった、新作にして、ロックンロール最終章。収録曲は新曲がほとんどで、王道ロックンロールの「Big Boy」からカリブサウンドの「 Jamaica Moon」、Lou Reedよろしくモノローグで物語を語る「Dutchman」など曲調はバラエティに溢れている。ギタープレイはそもそも21世紀の尺度から語るのが見当違いにしても、ご愛嬌といったものだが、声にはハリがあり、曲の完成度といい、とても90歳を迎えて放たれたとは思えない充実した作品である。

ロックンロールよ永遠に。

 

 

Cloud Nothings/Life Without Sound 初

 

 

 

一曲目のイントロからいきなり泣きメロ大洪水。どこまでも切なく、激しい37分は、オタクが宅録から火がつき、ガレージバンドを結成させるというサクセスストーリーのその先にある希望の瞬間である。

 

D.A.N./Tempest

 

 

 

邦ロックが行ってきた「洋楽の二番煎じを出来る限り本物に近づける」という不毛なイタチゴッコはもはやここにはなく、彼らは「このバンドにしか鳴らせない音」という明確なアイデンティティーを持った上で、自分たちのルーツを咀嚼して、再構築する(この点に関しては本人たちも強く意識しているようだhttps://ototoy.jp/feature/20170419)。

クールに決めたミニマムなフレーズと無限に続くグルーヴに洋邦の卑賤はなく、たゆたう音の波にただ身を委ねるのみ。時には「パクリ」と叩く材料となっていた欧米崇拝も、2010年代に来て1つの転換点を迎えたのだろうか。

 

Endon/Through The Mirror 初

 

 

 

ブラックメタル、ハードコア、ノイズetcと、とにかく獰猛極まる音を混在させて排泄するEndonの最新作は、本来他のバンドのミキシングは手がけないConvergeのメンバーが曲を聞いてその慣例を破ったという話も頷ける、圧巻の暴力、暴力、暴力である。ここまで邪悪な音が日本から生み出されるというのも、日本がメルツバウ、borisなどを生み出した国であることを考えると納得できるのだが、一番狂気じみているのはギターがクリーン、クランチ程度の歪みで悠然とアルペジオを弾いているところだったりする。

 

Eric Johnson/Collage 初

 

 

 

従来は寡作な彼がアコーステックギターとピアノで制作した異色作からわずか1年のスパンで新作を出すという、異例続きの事態にある。ネタばらしをすると、本作は今までのアルバムからの「没曲集」なのだが、本人としても愛着があったのか、この発売のために再レコーディングが敢行されている。おそらくアルバムのバランスのために外されたというだけで、曲自体はオリジナルアルバムとして申し分のない出来であるし、テケテケせずにエリック節のギターソロを弾き倒す原曲クラッシャーのThe Venturesのカバーや還暦を越しても20代にしか聞こえないイケボなど通常営業の彼を確認するためにも、聞こう。

 

Forest Swords/Compassion 初

 

 

 

焦燥しきったような不穏な響き、どことなく民族的なコーラスの断片。あまり文章化出来る音楽ではないが、それでも筆を取らせてしまうのはその素晴らしさからであろう。

しかし、人様が口を揃えて褒め称えるアルバムを聴くより、自分のライブラリーから関連ミュージシャンを辿って行き着いた本作のようなアルバムの方が気に入ってしまうという、SNS社会ではさして楽しくない事実に内心複雑である。

 

Gizmodrome/Gizmodrome 初

 

 

 

元ポリスのStewart Copelandが「美味いイタリアンを食う口実に」、仲の良かったイタリア人のキーボード奏者Vittorio Cosmaと例年イタリアでライブを行っていたのだが、どうせならとLevel 42の神業ベーシストMark Kingと元King Crimsonの変態ギタリストAdrian Belewをかき集めてレコーディングをしてしまった、いきあたりばったりなスーパーバンドのデビューアルバム。音楽性もてんでバラバラなため、「プログレッシブパンク」という全力で矛盾したジャンル名が爆誕した。

残念なことにMark Kingのスラップはほとんど抑えられ、スチュの上手くもなく下手でもないボーカルがアルバム全体を占めているため、それぞれのファンが聞きたいものは綺麗に引っこ抜かれている。正直スチュによる「俺様の最強の友達を連れてきたソロアルバム」と思って聞いたほうがいいだろう。

ファンの期待を裏切る一方で、当の本人たちはレコーディングで想像以上に意気投合してしまい、日本を含む世界ツアーが決まったものの、スチュはDave Grohlに憧れてギターボーカルに専念するなどとのたまっているので、客側が見たいものが一つも見れない可能性は非常に高い(すでに公開されてるライブ映像見る限り、そうだった)。だが、なんやかんやで曲そのものは悪くなく、駄作と言い切れないのが悩みどころだ。

 

Gone is Gone/Echolocation 初

 

 

静と動、プログレやストーナー、サウンドスケープ、唸り。Mastodon、QOTSA、At the Drive-Inのバンドメンバーが集まったスーパーバンドであり、それぞれの音楽性がフィードバックされてはいるものの、ボーカルを務めるMastodonの要素が必然的に一番強い。しかし、それぞれの所属するバンドがどれも一つの音楽スタイルにとらわれないバンドであるだけに、ジャンルの不明瞭性がバンドとしての統一感を生むという逆説的現象が生じている。スーパーバンドは概してそれぞれの主張が強すぎてバンドとしては機能不全になったりするが、このバンドに関してはそのようなこともなかった。

 

Kendrick Lamar/DAMN.

 

 

 

ここ数年、今までになくHip-Hop文化とRock文化が邂逅してきたが、ロックを扱う雑誌の2017年アルバムランキングの首位をこのアルバムが総なめしたという事件は、この文化現象の一つの到達点ではないかと思う。ただ、歌詞も分からないままに聞くという姿勢の人が多いロックファンが(この記事の筆者もそうだが)、ライムの内容をチェックすることなく本作を聞くだけでは、おそらく英語圏内での熱狂的な反響を理解するのは難しいだろう。

前作が「黒人だろうがスターになれるんだ」と人々に呼びかける演説であった一方で、今作はスターになった人間の外部からの誘惑、内部での葛藤などを、聖書のモチーフを引用しつつ赤裸々に語る内省的な作品で、サウンドも前作のファンク、ジャズ、R&Bを融合させたバンドスタイルから一変し、オーソドックスなトラップホップに転換している。そういうわけで、歌詞(そしてキリスト教の基本的な知識、発売日などリリースに関わる様々な仕掛け)を読み込まない限り、この作品はステレオタイプのヒップホップのアルバムになってしまうのだ。

自分の貧相なヒップホップ遍歴でも自らを神格化するラッパーはそこそこ見かけられたが、過大妄想として己を神と照らし合わすのではなく、「人類を先導し、その罪を背負ったキリストに、スターダムを登りつめたが多くを一身に引き受けることになった自己を投影する」という図式の斬新さ。これは間違いなく「文学」だ。

 

LCD soundsystem/American Dream 初

 

 

 

The Talking HeadsとP.I.L.の露骨な模倣とJames Murphyの独特なボーカルスタイルによって導かれる再構築。オマージュと独自性とを内包する、非常に王道的な芸術作品であるこの一枚は、ある一点を除いて申し分のない出来である。そう、素人がパワーポイントで5分で作ったようなアルバムジャケットを除いて。

 

LUNA SEA/ LUV

 

 

 

ファンの間では「明るすぎる」、「耽美性と疾走感が弱い」と、かなり「否」に寄った賛否両論の再結成後2枚目となるアルバムだが、ずっと彼らをおいかけてきたわけでもない新参者としては、快哉を叫びたくなる出来の名盤である。

決して曲がダメになった訳ではなく、1曲目こそEDMを生バンドに置き換えた2010年代の最新型のLUNA SEAサウンドを掲げたナンバーだが、それ以降は時代錯誤とも言える昔ながらの彼らならではの歌謡Vロックが続く。それらは過去の名曲群と並べて再生しても違和感がなく、このアルバムで彼らはしれっと今後のアンセムナンバーを量産したように、僕には思える。

 

Mogwai/Every Country's Sun

 

 

 

もしかしたら最高傑作ではないだろうか?

今までのアルバムでは記憶に残らない20分ほどの「空白時間」が存在していたが、今回は一曲一曲がしっかりと自己主張をしており、なおかつアルバム単位でも一つの流れが明確に存在するため、個々としても全体としても非常に親しみやすい。例えるならばアニメのサントラ(あくまでも映像ありの抽象的な曲構成を取りながらも、実写の劇伴よりも曲が明快)のようなアルバムといったところだろうか。Mogwaiならずとも、ポストロックに疎い人間が最初に手を出すのにこのアルバムはお勧めできる。

 

Rex Orange Country/Apricot Princess 初

 

 

 

Jake BuggやKelly Jonesを彷彿とさせる歌声が印象的な、19歳のシンガーソングライターの2ndアルバム。古き良きR&Bやネオアコなどを基調に、ギターをかき鳴らして疾走したり、はたまたラップを披露したり、瞬発的なアイデアを用いて作られたような楽曲が並ぶが、全体を通して余裕溢れる風格があって決して散漫には聞こえない。こういう煽り方はあまり良くないとは思うが、Father John Mistyの新譜を気に入った人なら聞かないという選択肢はない。

 

Ringo Starr/Give More Love 初

 

 

 

実は彼のソロアルバムを聞くのは初めてなのだが、彼の暖かい人間性が伝わってくる作風は、今までずっと彼の音楽を聞いてきたかのような錯覚を与えてくれる。

決して強い印象や感極まる何かを感じる作品ではないのだが、「ビートルズのメンバー」という、世界で最高レベルの肩書きを持ちながらも、ここまで気さくな作風のアルバムを二、三年間隔で出しているというのは、それ自体が一つの奇跡だと思う。

 

Sawano Hiroyuki[nZk]/2V-ALK

 

 

 

 

今や押しも押されぬアニメ、ドラマ音楽の重要人物となった澤野弘之のこの名義での作品は、荘厳なサントラとはまた一味違い、デジロックとボーカルの化学反応が堪能できる。正直彼はとっくに音楽性を大成させてしまっている感もあり、年を経るごとに作曲家として進化しているかというと、否である。それでも愛聴してしまうのは、その類い稀な作曲能力にある。USロックへの憧れを隠しすらしないその態度は、一周回って潔い。

 

Songhoy Blues/Résistance 初

 

 

 

マリはトンブクトゥ出身のバンド、Songhoy Bluesの2nd。アフリカのバンドであるということだけをアイデンティティーにするわけもなく、ハードロックやファンクなど様々な音楽を吸収して、自らの個性として消化しているのはお見事。Iggy Popが参加。

 

Sparks/Hippopotamus

 

 

 

FFSでのフランツとの共演の記憶も冷めやらぬうちに出された新作は、いつも通りのSparksで、安心する一枚である。結成から半世紀ほど経っても、「正常位は素晴らしい」だとか「僕には何もないけど北欧デザインの家具がある」だとか、考えたら負けな歌と大仰でチープな曲の数々。いつも通りにしているからセンスが衰えないのか、センスが衰えないからいつも通りなのか。鶏が先か卵が先かみたいな話にはなってしまうが、このアルバムを聴いている限り、二人が未来永劫アルバムを発表し続ける姿が容易に出来てしまう。

 

Steven Wilson/To The Bone 初

 

 

 

モダンプログレの代名詞である彼の新作ソロは、プログレ要素が減退し、ポップス路線が増加している。今まで金太郎飴のように同じような曲ばかり作ってきたため、質の高さから賞賛される裏で揶揄も絶えることはなかったが、50歳になってのこの試みは嬉しい誤算である。決してアルバム全体のクオリティーは高くないのだが、むしろ果敢に挑む姿勢を評価したい。 今作でホステスと契約した時は疑問に思ったが、いざ聞けば納得。来日を期待したい。

 

Thundercat/Drunk 初

 

 

 

ずっと話題になっているため、改めて初めて聞いた自分が感想を書くまでもないと思うが、まだ聞いてない人へのアピールをするとしたら、やはり歌詞にあるのではないだろうか。PVともども日本を全力で満喫している「Tokyo」はそこまで意外性はないが、シリアスなR&Bに乗せて「猫でいるのはクールだぜ、ミャーミャーミャー」と泣き真似までしてしまう「A Fan's Mail」から、闇の先の光を見せたいと歌う「Show You The Way」まで、そのふり幅は広い。まさにインターネット、SNSの世代らしいごった煮状態(来日中には自身のルーツとするゲーム音楽のレジェンド、下村陽子との対談を行っている)だが、不思議と統一感があり、しっかり聴けてしまう。サウンドは言うまでもなくサイコー。酔いどれ万歳。

 

U2/Songs of Experience

 

 

 

良い。どれだけBonoが世界に呼びかけようと平和は依然訪れず、それどころかますます悪化の一途をたどり、一方で敬愛していたスター達は次々とこの世を去っていったこの二、三年。その中で彼が見出したのはやはり「愛」であった。といっても今までの啓蒙君主然としていたBonoの与えてきた「愛」とは少し違う。ラブレター、または遺書として書かれた歌詞は個人から個人へ「愛」を語る。

その中でも「道に愛を阻むものは何もない」と力強いタイトルを冠した「Love Is Bigger Than Anything In Its Way」で、かつての自分に「自らの曲の歌詞にするには若すぎた」と語りかける様には思わず涙腺が緩んだ。今まで全てがうまくいったわけでもないし、スタジアムで世界平和を叫び、「偽善者」とBonoを叩く人は多くいる。昔やったことが完璧でなかったを認めた上で、 それでも「お互いが一緒にある(We Can Belong To Each Other)世界を書け」と自分の生き方を肯定する姿は、今までになく一人の人間としてのPaul Hewsonを感じさせ、同時に、スターとしての「Bono」も伺える。

丸くなっても諦めたわけじゃない。彼らの音楽はまだまだ続く。

 

Virgil & Steve Howe/Nexus 初

 

 

 

発売直前に息子のVirgilが急逝したため、追悼盤という体裁になってしまった親子初の共同作品は、父のHoweの味わい深いギターに息子のVirgilがシンセやピアノなどのシンプルな装飾を施すというもので、デモのようなラフなアレンジではあるものの、家族で作品を作る和気藹々とした様子が伝わってくる、温もりのある作品となっている。悲劇の1枚になってしまったが、どのような形であれ、音楽は悲しみを癒すものだということを忘れてはいけない。

 

赤い公園/熱唱サマー

 

 

 

このアルバムの発売前にボーカル佐藤の脱退が発表された。ギターの津野の飛び抜けた才能がこのバンドの核であっただけに、フロントマンでありながら津野の後ろに付いていくという立ち位置はさぞ大変だったと思う。内容は相変わらずで、中盤の印象の弱さもいつも通り(笑)。レコーディング時点では脱退はまだ確定していないのだが、最後の3曲の怒涛の大円団っぽさは、まるで脱退する佐藤を全力で応援しているように聞こえる。まだまだこのバンドは旅の途中だし、バンドを脱退しても人生は続く。赤い公園よ、永遠たれ。

 

アルカラ/KAGEKI

 

 

 

バンド史上初のフルレングスのアルバムなのだが、ミニアルバムを出し続けてきた今までよりも体感時間が短いという、中堅バンドとしての底力を見せつける一枚。轟音鳴り響く中、曲はアウトロに至るものの間髪入れずに次の曲が始まる様は、さながらハードコアのライブを聞いているかのようで、よくぞ胃もたれさせずに最後まで作り上げたとただただ感動するばかり。ギタリストの失踪からの脱退でこのサウンドの立役者が突如抜けてしまい、まさかのバンド最大の危機にあるが、ぐっと持ちこたえてくれ。ボーナストラックの30周年ライブのコントも必聴。

 

池田亮司/music for percussion

 

 

 

突然だが、トライアングルだけで9分の曲を作れと言われたらあなたはどうするだろうか?おそらくは多くの人は困惑し、所在なさげにチリンチリンと鳴らすだけであろう。もしその正答を知りたくば、このアルバムを聞くことである。

 

坂本龍一/async

 

 

 

元々アンビエントにも手を出していたので、今回の音楽性自体に驚きはないが、癌を克服し、映画音楽でも再び国の内外問わず活躍し出した状態で作られたアルバムが、ここまで重苦しいというのは、かなり意外であった。

「タルコフスキーの架空の映画のサントラ」というコンセプトがあるので、そこまでプライベートな作品ではないが、3.11やBowieを始めとする相次ぐスターの死が悲観的な作風に至らしめたと想像するのはそこまで的外れでもないだろう。

ArcaがRemixを担当しているが、それも納得の、かなり前衛的な作品である。Pitchforkが高得点をつけたのもさもありなん、といったところか。

 

細野晴臣/Vu Ja De 初

 

 

 

実はストリーミングサービスだとNeko Boogieが聞けません。のでそれ抜きでレビューします。「自作曲を聞くのが恥ずかしい」ということで収録曲はカバー半分(それもここ数年様々なスタジオで機会をうかがって録音してきたもののコンピレーション)、残りのオリジナル曲はここ数年の寄せ集めと、有り合わせのマテリアルで構成されたアルバム。だが、戦前音楽への強い憧れというコンセプトで一枚目はしっかり統一されているし、二枚目は「エッセイみたいな感じ」という本人の表現も言い得て妙な、「最近久々に大掃除したら良い感じの雑貨とか古着とか見つかったからちょっと並べてみるね」とでもいった感じの、気合は入ってないが、リスナーを唸らせるものがいっぱい収録されている。

昔の録音サウンドの再現など、細かいところに非常に苦心したことが複数のインタビューで語られているが、専門的知識のない人間にも、「デジタルな質感ではないどこか温もりのある音」としてその試みは還元されている。「シンプルにすることほど難しい」とはよく言うが、このアルバムを聞くとその意味がよく分かる。

 

★★★★★

Arca/Arca

Ariel Pink/Dedicated To Bobby Jameson 初

Elder/Reflection of a Floating World 初

Gary Numan/Savage(Songs from a Broken World) 初

Hans Jimmer, Benjamin Wallfisch/Bladerunnner 2049(original motion picture soundtrack)

Kamasi Washington/Harmony of Difference 初

King Crimson/Live in Chicago

Lawrence English/Cruel Optimism 初

Mastodon/Emperor of Sand

Omar Souleyman/To Syria, With Love 初

糸奇はな/四角い世界

神聖かまってちゃん/幼さを入院させて

ハルカトミユキ/溜息の断面図 初

 

Arca/Arca

 

 

 

「エキセントリックなエレクトロサウンドと激キモデザインが特徴的なベネズエラのゲイの鬼才ニューカマー」というイメージでここまで聞いていたが、このアルバムで解禁されたボーカリストとしての彼の才能に戦慄した。触れただけで壊れそうなどこまでも繊細で美しい歌声。James Blakeを思わせるその囁きは、どんな叫び声よりも痛切に心に突き刺さる。歌詞を読むと、「皮を剥いで内側から愛して」みたいな内容で、いわゆる「ヤンデレ」なのだが、ロンドンに移住したことを「ベネズエラでゲイとして生きていくのは難しい」と説明した経緯や、「親が喧嘩していた時の言語=感情表現に適切な言語」という考えからスペイン語で歌っていることなどから察せられるように、彼が背負ってきたものは生半可な苦しみではなく、こういう歌詞になったのは当然の帰結なのだろう。ファッションメンヘラではなく、本当に触れたら壊れてしまうガラスの心を剥き出しにして、我々に真剣に心と心で触れ合うことを求めている。インスタントに作られ、消費されていく現在の音楽シーンでは倒錯した姿勢だが、聞いてる人はちゃんといると、彼には伝えたくなる。

 

Ariel Pink/Dedicated To Bobby Jameson 初

 

 

 

素晴らしい。冒頭の2秒で引き込まれ、それから最後の曲の最後の1秒まで強力なフックとチープなガレージサウンドがぎっしりである。短い尺の中にこれでもかと詰め込まれた親しみやすい旋律と、曖昧模糊として垢抜けない音像は、レコード全盛期に録音されたかのような錯覚を与える。突然の「ラジオスターの悲劇」の引用によって、我々はこれが2017年のアルバムだという事実を思い出すが、それ以外はまるで後世に語り継がれている50年前の名盤を聞いているような心地になる。

実のところ、21世紀以降頻繁に起きているリバイバルブームというものが自分はどうにも好きになれないのだが、それは「ダサさも含めて好きなのにカッコよさだけを抽出されてしまっていて骨抜きになっている」点と「正直昔の本物聞いた方が楽しい」点の2点に集約されるのだが、このアルバムはどこまでもダサく、あまりにも曲として出来が良すぎるので、「じゃあ元ネタ聞きゃいいじゃん」なんて夢にも思わないのだ。完敗である。

 

Elder/Reflections of a Floating World 初

 

 

 

Mastodonがプログレとキャッチーな歌ものとを融合させた集大成的作品を発表した一方で、もし彼らがプログレ路線の「Crack The Sky」を更に突き進めたような作品を作ったら、というwhat ifを実現させたのがこの作品である。

ストーナーのリフとメロトロンなどを多用した浮遊感あるサウンドの融合、6曲60分超というボリューム、かといって飽きることのない構成。泥臭いのに整合が取れている、不気味な作品である。

 

Gary Numan/Savage(Songs from a Broken World) 初

 

 

 

ジャケットやフォントを見れば分かるように、コンセプトは中東風のメロディー+インダストリアルサウンド。脱力気味の彼の歌声は、NINやMinistryのようなマッチョなインダストリアルサウンドにはミスマッチだが、このように変則的な要素を絡めることで違和感なく聞かせている。「捨て曲なし」という称号を久々に使いたくなる、非常に丁寧に作られている印象を受けるアルバムである。

調べたところ、セールスの落ち込み、不妊などで家族ともども沈み込んでいたところからの愛娘の誕生、メディアからの再注目と朗報続きの中で作られた復活作とのことだ。その愛娘をコーラスに参加させているのも微笑ましいが、案外身内のノリ以上の声の持ち主で、将来が楽しみ。

 

Hans Jimmer, Benjamin Wallfisch/Bladerunnner 2049(original motion picture soundtrack)

 

 

 

平沢進をして「曲として体をなしていない」と言わしめた、ドローンミュージックが面目躍如である本サントラは、前作のカラーを決定付けたVangelisという亡霊(死んでません)との戦いの結末であり、勝利と敗北が入り混じる苦心の快作だと思う。

「Mesa」の温もりのあるメインテーマは、結局彼らが前作以上に斬新なものを提示できなかったことを示す敗北宣言でもあるが、その一方で爆音が吹き荒れる「Flight to LAPD」に代表されるノイズ/ドローン系統の楽曲は、温かみを徹底的に排除し、2019年より更に悪化した2049年の地球世界の終末観と退廃感を音として表現することで、全くVangelisに追従するだけでないということを示唆している。

「前作と違う正統な続編」という一見矛盾しているかのようなコンセプトは、映画だけでなく音楽でも貫徹された。

 

Kamasi Washington/Harmony of Difference 初

 

 

 

静かに、力強く、ゆっくりと立ち上る「Desire」、一転して生きる喜びを全身で表現する「Humility」、穏やかに、それでも歩み続けることをやめない「Knowledge」、シックにファンクをキメる「Perspective」、南国の陽気さを表現する「Integrity」。そして、全てを総括する「The Truth」。

生きていることを30分で表現するこのエネルギーはどこから来ているのだろう。思わず泣きそうになるほどのポジティブなパワー。もし逃げ場がなくなってしまったら、ここに帰ろう。

 

King Crimson/Live in Chicago

 

 

 

間違いなく2017年、果ては21世紀を代表する傑作ライブ盤。例えると「シン・ゴジラ」の熱戦ビームによる東京破壊シーンのカタルシスが延々と続くんです。やばいでしょ。

公式海賊版と言いながら、ハードカバーの本に似た豪華な装丁で、そのブックレットにはRobert Frippの興奮冷めやらぬといったライナーノーツが掲載されている。去年もライブ盤出したばっかりだったが、今のクリムゾンは最強だから出す意義があるという弁明をしており、それもこの音源を聴いたら納得である。

前回の公式海賊版のトロント公演とは演目が半分近く入れ替わり、メンバーもトロントの翌年に一時離脱したBill Rieflinが復帰後ドラムからキーボードに変わり、その間代理を務めたJeremy Staceyがドラムとして続投し、過去最大の8人の大所帯バンドとなっているのだが、そのことによってキーボードがある「Islands」のような曲ができ...ってこの曲のピアノ弾いてるのJeremyじゃんww

とまあ、ボケはおいといて、8人になったことで「Circus」や「Fallen Angel」など、今までよりメロディアスな曲が多く演奏できるようになり、一方で「The Lizard Suite」のドラム隊による暴力的な音の嵐など、トロント公演の音源でようやく全貌が明らかになったトリプルドラムの破壊力も健在であり、このライブ盤は、彼らが他のオールタイムベストを演奏する老人バンドとは全く違う次元にいること、そして、他にまたとない「プログレッシブ」なバンドであることを示してくれる実況記録なのである。

 

Lawrence English/Cruel Optimism 初

 

 

 

冒頭一秒で恋に落ちた。

いきなり広がる荒涼とした幾層ものノイズは、砂漠とも海ともつかない、この世界の果ての更にその向こう側にリスナーを放り込む。

もはや持続不能である「良き生活」への幻想を人々は抱き続けるという理論を提唱した書名から取ったアルバム名、「音楽は政治的である」という本人の弁などから、非常にシニカルな作品であることが伺えるが、言葉を介さずにメッセージを表現しているのは、彼が芸術に真摯な姿勢を持っていることの証左だろう。

 

Mastodon/Emperor of Sand

 

 

 

間違いなく2017年のアルバムで一番聞いたものの一つ。リードトラック「Show Yourself」のあまりにもキャッチーなサウンドにファンの間では動揺が広がったが、蓋を開けると何のその、今までのMastodonの集大成と言うべき最高傑作が出来上がっていた。

プログレに振り切れた「Crack The Sky」のプロデューサーを再起用し、再びコンセプトアルバムを作り出したのだが、前回のように4人編成が崩れるほどに鍵盤は使われておらず、また、長尺な曲が並んでリスナーを怯ませることはない。

毎度のように新譜が絶賛されるバンドではあるが、ここまで極められてしまうと、先がどうなるのか、正直全然見えてこない。ただ、「Gone Is Gone」や「Legend of the Seagullmen」など、他のプロジェクトバンドでも積極的に創作活動を行っているのを見る限り、スランプとは無縁の状態であり、このバンドがいかにタフかがうかがい知れよう。

 

Omar Souleyman/To Syria, With Love 初

 

 

 

Four Tetによって西洋世界に紹介されたシリアンテクノの重鎮の最新作は、Major Laserなどを擁するレーベルMad Decentからのリリースで、これまでよりも更にパーティーサウンドに特化した内容になっている。

今まで欧米では、「周辺世界」の音楽家の演奏を西洋人が「発掘」して、西洋の音楽理論に基づいたシンセの伴奏をオーヴァーダビングして売り込む、という手法で、本来の形とは似ても似つかぬグロテスクな民族音楽が作られてきたが、このパリピアルバムに関しては全く趣が違う。無論、作ってる側が主体的にこの音作りにしているという要因が一番大きいのだが、更には元々彼のスタイルが「ダブケ」という結婚式で披露するパーティーミュージックであるということと、その音楽の特徴として長尺なフレーズがあり、それがEDMサウンドと融合するとトランス状態に導く起爆剤となるということ、の2つの点が、民族音楽の西洋アレンジに肯定的な意味合いを生んでいる。

タイトルは内戦で国土が焦土と化した祖国を思う彼の悲痛な思いを表明しているが、中身はアゲアゲのEDMなので、みんな踊ろう、ハイになろう。

 

糸奇はな/四角い世界

 

 

 

昨年、同人即売会M3で発売後、公式の通販限定で発売したこのミニEP(公式では両A面シングル扱い)には、表題曲と「忘却舞踏」の歌もの2曲に、「メロトロンサウンド」と題された4曲の計6曲が収録されており、「あのストリングスの音」こそ鳴らないものの、メロトロンフェチにはご褒美でしかない至福の作品である。シングルでこの充実っぷりなら、アルバムが出た日には帰ってこれない気がして仕方がない。

 

神聖かまってちゃん/幼さを入院させて

 

 

 

21世紀のネットメンヘラバンドだったバンド神聖かまってちゃんだが、当初はいじめられっ子であったことやその言動が取り上げられ、音楽性に関して語られるのは二の次のようなバンドだったが、間違いなくの子は天才であり、その証拠に10年経ってもこんな傑作を届けてくれているのだ。

今となってはの子の代名詞である、ボイスチェンジャーのチープさにも、独特の中毒性があり、バッドトリップした状態で賛美歌を聞かされるような、ドリームポップとはまた違うタイプの白昼夢を見せてくれるバンドは、神聖かまってちゃん以外には存在しない。

 

ハルカトミユキ/溜息の断面図 初

 

 

 

2015年には毎月新曲を発表し、2016年のアルバムから1年と経たずに発表された今作に向けては50曲を用意するという多作家の2人だが、その曲のクオリティーは非常に高く、剃刀のような鋭い感性は昔よりは少し丸くはなっているが、最高の楽曲とこの上ない毒の利いた歌詞がズバズバとリスナーの心を切り裂くのは、快感ですらある。

アルバムの最後を希望で締めくくっているように、毒を吐くのは世界を信じたいからであり、そのひたむきな姿勢は、リスナーにも真摯に彼女たちの音楽に向き合うことを迫ってくる。こんなにストイックな人の音楽を同じ時代に聞くことが出来る幸せを噛みしめたい。

 

 

 

 

 

以上で、アルバムに関するレビューはひとまず終わりである。

今後、2017年リリースのアルバムにどハマりしてもこの記事に追加することはないし、それはまた場所を改めて筆をとることになると思う。

 

さて、アルバムに関してグダを巻く時間は終わったが、シングルに関しては1つだけ。

 

銀杏BOYZの三部作が本当に良かった。

峯田を残して全員脱退した後再びバンドを建て直し、彼が昨年3ヶ月連続でリリースしたシングルは、どれもキラキラと輝いていて、これからが正念場であるとは思えないぐらいに肩から力が抜けている、素晴らしい楽曲揃いであった。

無論、それはかつてのように情念をそのまま音に閉じ込めたようなバンドスタイルを取らないということを意味しているが、今までのように命を削って鳴らしている40歳を過ぎた彼らを見るというのは、正直なところ、こちらの心が持たない。そういう意味では、この垢抜けたサウンドは、福音である。

 

 

 

 

 

今度こそ、終わりです。最後に気に入った楽曲で組んだプレイリストでも載せておきます。