Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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堂本剛をレビューする〜後編〜

moon-milk-overtrip.hatenablog.com

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やって参りました、堂本剛アルバムレビュー後編戦。

始まる前に言わせてください。

 

 

 

沢山のレビュー数ありがとうございます!

 

 

 

まさかのはてなブログのトップに掲載されるレベルの跳ね上がりっぷりでビックリでございます。

皆さんの感想などが気になりますが、そっと星をつけてくださった方などのアクションからして、決して悪い記事ではなかったと良い方に解釈しております。

 

さて、後半に際して変更がございます。

自分がリアルタイムで追ってこなかったここ5年間の空白を埋めるべくアルバムを買い揃えてヘビロテしまくった結果、前回の最後に取り上げた「美我空 - ビガク 〜my beautiful sky」のレビューを今回の冒頭に移行することにいたしました。

何故かというと、このアルバムを後半の記事に入れた方が、作風が244 ENDLI-xまでといい具合に分離されて分かりやすくなるからです。

という訳で、前回をご覧になった方は二度手間とならないように、お手数ですが目次から飛ばして読み進めてください。

 

なお、剛名義に回帰した頃から販売形態において初回盤が2種類に増えた上に、アルバム収録曲がすべて異なる(しかも変わるのが最後の曲なんてこともザラ)ようになっているため、極力全バージョンに共通の収録曲のみを取り上げるようにいたします。

 

 

 

 

6th「美我空 - ビガク 〜my beautiful sky」(2009年)「剛紫」名義

 

 

愛しき日本とファンク。シンプルなサウンドや剛のマルチプレイが光る作品。

 

さて、名義変更に伴ってシングル「空 〜美しい我の空」と共に発売された本作だが(この流れ前回でも見たな?)、 名前をコロコロ変えているのは事実だが、それに伴ってサウンドも変化していることも付記しておく必要があるだろう。アコースティックでシンプルな曲が目立ち、ファンクナンバーもトリッキーな要素は少なく、今後のシンプルかつ日本大好き志向への伏線的作品だ。

それが端的に表れたのが1曲目「美 我 空」。東儀秀樹氏と岩田卓也氏の雅楽の演奏に合わせてバンド演奏が展開していくインストナンバー(剛は全てのギターとベースを担当している)で、奇を衒ったようなアレンジは一切なく、王道の盛り上がりを見せて、実にあっさりと終わる。その後は2、3曲極めて地味なナンバーが続き、「NIPPON」や「FUNKAFULL FUNKAFULL」でファンキーにキメてもかつてと比べると極シンプルで、「綴る」「歴史」に至ってはピアノ弾き語りの完全なアンプラグド状態で、アルバム全体を通して過去最高に静かなトーンである。

それとは別に、プレイヤーとしての剛がこのアルバムでは存在感を増す。今までは一流ギタリストと並んで彼の名がギター担当欄にクレジットされていたのが、今作では彼のみが1つのパート全てを担当する曲が増え、彼のプレイをじっくり堪能できるようになっている。特に通常盤限定収録の「ku」は全パートを剛一人が演奏しており、完全に宅録野郎と化した彼の成長ぶりを楽しめる(期待させないように言っておくと、この後スタジオアルバムではボーカルに徹するようになる)。

僕のアルバム収録曲のイチオシは「Purple Stage」。剛の弾くベースラインが非常にスルメで、シンプルでありながらも力強いプレイはそのまま曲全体の雰囲気につながる。アルバム最後の曲としては今までで一番あっさりとしているが、何度と聞いていくうちに味わい深さが出てくる、まさに「スルメ盤」の締めくくりとしてお手本のような曲だ。

 

7th「shamanippon−ラカチノトヒ−」(2012年)「堂本剛」名義

 

 

ようこそ宗教法人「shamanippon」 へ。余計なものを剥がし、己を生きよと囁く音楽。

 

久々の本人名義&全楽器演奏曲収録&タイトル曲が通常版未収録の即興のインストと、話題性の強いシングル「RAIN」(ついでにジャケットも胡散臭い)を発表して数ヶ月後、シングル「縁を結いて」の発売を前に彼は突如サイトを改装し、どう見ても怪しいカルト教団のHPにしか見えないshamanipponというプロジェクトページを立ち上げる。

なんでもshamanipponとは架空の国家らしく、みんながシャーマンで、本当の自分をなんちゃらかんちゃら…

 

うん、本当にカルト教団だ(笑)。

更には本人のTwitterらしきものもHP事件に先立って界隈を賑わしていた。わずか1日であったものの、shamanipponのコンセプトに沿ったツイートを連投していたため、本人ではなくても間違いなく剛の周辺にいた誰かの犯行であったのは間違いない。

 

そんな鳴り物入りのアルバムだったが、いざ蓋を開けると前作よりも更に音の装飾が削ぎ落とされており、人間の根幹となる部分に訴えかける極めてシンプルな作風となっていた。

冒頭のテーマソング「shamanippon〜くにのうた」こそ、国家らしく(?)盛大にファンクして盛り上げるものの、 その後はアルバムの最後まで1音1音をストイックに刻み続けるような曲が続く。アルバムの半分近くがバラードかミドルテンポのジャムセッション風の楽曲で構成されており、全盤共通の収録曲でのアッパーソングは「一鼓動 ~1 beat」1曲のみ。

 

改めてshamanipponのコンセプトを読み直すと、既存のものに囚われるのではなく己が心の目で世界、そして日本を見るのだ、という意味合いのメッセージが全面に出ている。その考えを音像化したら今までで1番シンプルなアレンジになったというのは至極最もな話だ。

そういうわけで、コンセプトの胡散臭さと音のシンプルさとのギャップで拍子抜けこそすれど、彼の発言を読み込むと、別に胡散臭くもなく、変な愛国心に目覚めたわけでもなく、個人主義のコミューンを作ろうという現代芸術のパフォーマンスだったのだ。

 

と、終わらせてもいいのだが、このアルバムの通常盤と初回盤とでは大きな乖離がある。今回は特別に初回盤の内容を取り上げよう。

初回盤にはボーナスディスクが付くのだが、とりあえず曲目をば。

 

1.人間力
2.意志
3.岩清水
4.第0感
5.新しい鼓動
6.決意
7.裏切りもの
8.儀式

 

…いかがだろう。めちゃくちゃ怪しい。本編ではデビュー作以来と言えるぐらいにシンプルを尽くした楽曲が並んでいたのに、それを全部ひっくり返すぐらいにマトモではない。

更に、重要な情報があり、これは全てインストである。しかも、歌がある曲のカラオケバージョンでもない。バックバンドのメンバーの協力のもと、剛がせっせとプログラミングで打ち込んだオリジナル曲である。

正直ボーカルがやる行為ではない。許されるとしたらDavid BowieかDamon Albarnぐらいだろう。

 

で、その曲内容だが、和とミニマムとテクノが融合した楽曲自体は独特の世界観を構築しており、妙な中毒性がある。日本のエレクトロらしいシンプルな構造で、IDMみたいな変態的に細かい音の層を期待して聞くと調子が狂うが、変にこなれたアレンジでAphex Twinみたいなものを提示されるよりこちらの方が味わい深い。これをボーナスにしてしまうのは大変もったいないと思う。

 

公式のプレスリリースで「プログレッシブ」という字面が出てしまったりと、もはやアイドルはおろか、J-POP全体でも異端児になったことを確認できる大変面白いアルバムだが、そこに惑わされて剛のメッセージを見失わないようにしたい1枚だ。

 

 8th「shamanippon-ロイノチノイ-」(2014年)「堂本剛」名義

 

 

shamanipponの或る此処。シュプレヒコールと歌の力。

 

前作の発表後、剛御一行は特設会場「shamanippon ship」を作って連続公演を行うというshamanipponのコンセプトそのもののライブ活動に励む。本作はそのライブの中で浮かんだ曲やその雰囲気を反映した曲が収録された実況中継盤である。そんなわけで、元からシンプルだったshamanipponのサウンドがますます「生」の音になり、ライブ感とバンド感溢れる楽曲が並ぶ。

 

4th「Neo Africa Rainbow Axe」を思い出す作風の「I gotta take you shamanippon」や、トランスの音のシンセがリードする4つ打ちダンスナンバー「Welcome to shamanippon - INISHIE groove」(なお、この曲は剛が主役だったドラマ「天魔さんがゆく」に主題歌「瞬き」と共に提供された。ドラマについては、実写版銀魂も手掛けてる福田雄一が監督なので色々察してください)と、前作のメロウな雰囲気を吹き飛ばすアップテンポな楽曲が前半を彩る。

実は盤ごとに収録曲が異なるのに合わせて、共通曲も曲順がバラバラなのでややこしいが、初回盤なら更に「Ginger」と「shamaspice」がダメ押しとばかりに押し寄せる(通常盤では2曲とも後半の盛り上げ担当に徹する)。

曲名からも伺える通りshamanipponを連呼するシュプレヒコールめいた歌詞は、ライブがアルバム制作の根底にあるという事実に依るのだろうが、例えば南無阿弥陀仏のように、唱えることでその意義を達成するお経に近しいものを感じると言ったら仏に怒られるだろうか。

 

一方で、アルバム中盤はまさかのレゲエ「イラミイナカハ」や、すっかりJ-POPの「イノチトボクラ」と「美しき日」が配置されており、よりストレートなメッセージ性があるshamanipponらしさは健在である。

 

1つ突っ込むべきところがあるといえば、あまりにもshamanipponと歌いすぎだということだ。「シャマシャマシャマシャマ」と高速で畳み掛けるおどけたコールが入った「shamaspice」からメロウなイントロで切々とshamanipponを歌い上げる「shamadokafunk - 謝 円 音 頭」への流れは、失礼な話だが笑いを催してしまった。初回盤だとアルバムの半分近くの曲名にshamanippon要素(曲自体もほとんどshamanipponのコール)が入っているという比重、多いと思うか少ないと思うかはあなた次第だ。

 

 「瞬き」はシングルのバンド演奏の方が好き(ボソッ)。

 

9th「TU」(2015年)「堂本剛」名義

 

 

お久しゅう。ファンク大爆発!!きゃあ、剛さんのエッチ!!

 

ぶっ飛んだ説明文を掲げてしまって申し訳ない。しかし安心してほしい。もっとやばいのは剛の方だ。一応shamanipponプロジェクトの3作目らしいのだが、タイトルからshamanipponは降ろされており、ジャケットも曲調もガラッと変わり、ファンキーな剛が炸裂している最高のおバカアルバムだ。

 

冒頭の「Tu FUNK」はひたすら「トゥトゥ」言ってるだけのファンクナンバー。どうやらshamanipponに代わるキメフレーズとして採用された模様。陽気さの質が本家のSlyやGeorge Clintonなどに相通じるノリであることにおや、となったらそれは当たり。「EENEN」や「天命さん」のシンセの音が完全にParliamentなどで聞こえるそれである(本作ではまだ伏線レベルだが、次作では本家のオマージュが爆発する)。

 

1度聞いたら忘れられない「EENEN」のサビに、もしやかつてのバカみたいにインパクトある作風の再来かと期待したら御察しの通り、裏声のサビがとてつもなくかっこいい「天命さん」や「Blue Berry」の続編のような「心眼 接吻」など、今までのクールな作風はどうしたのか、剛、アゲにアゲまくり。

他にもThe Rolling Stones風の「恋にも愛にも染まるような赤」や244 ENDLI-x時代のバキバキの打ち込み要素が復活した「魂サイダー」など、曲紹介に困らない充実した内容だが、中でも2つ、群を抜いて取り上げたい曲がある。

 

まずは「Funky舌鼓」。エロい。エロすぎる。声がヤバい。

あまりにもエロすぎて、最初聞いたときはありとあらゆる感情が心の中で渦巻き、行き場のない衝動にどうしたら良いのか分からなくなった。

元々、「アイドルは歌が上手くない」の図式を破る例外であり続けてきたのだが、この曲の歌い方は次元が違う。自分の声の持つ魅力を限界まで高めている。耳でオーガズム。

 

と、ここまで読んだ方々はミヨシは興奮のあまり不適切な描写をしてしまったように思っただろうが、これは実は伏線で、「天命さん」と「人類の此処」は歌詞がとんでもないR18ソングなのだ。どちらも歌詞カードを読む限りではややエロい曲ぐらいにしか思わないのだが、いざ曲を聞くと

 

 

「♪せいしかけたいんだ〜」

 

「♪なめてよ〜たつぼくのここ」

 

 

おいおいおいおいおいおい

何「Take me higher」ってコーラスしてんねん。

 

「FUNKY説法官能小説」と本人は称し、エロに潜む儚さなどの幽玄な感触を言葉にしようとしているらしく、実際非常に詩的な表現で思う存分にエロスを綴っていて素晴らしいのだが、発売元は「ジャ◯ーズ」である。ソロ活動について、全部企画書出して了承もらって活動していると本人は言っているが、本当にこの歌詞を事務所は許可したのか...

 

以上、今までの作風と打って変わり、ファンキーでクレイジーでエロティックな剛が爆発した1枚でした。後、通常盤のみの収録の「Heart Disc」はモータウン好きなら絶対聞いてほしい。

 

 

10th 「HYBRID FUNK」(2018年)「ENDRECHERI」 名義

 

 

最新型堂本剛は過去の自分とファンクの再構築。自らのキャリアの集大成。

 

 2017年は堂本剛にとって受難の年であった。「硝子の少年」でのCDデビューから20周年、KinKi Kidsの活動が活発する一方で、ソロではイナズマロックフェスとサマーソニックへの出演がアナウンスされ、かつてなく充実した音楽活動を精力的に行う最中、突発性難聴を発症し、当面の予定を全てキャンセルという憂き事態に。その後、程なく復活するものの、完治の難しい病気であるだけに本人も全然大丈夫ではないと吐露しつつのライブはバンドスタイルを封印し、極力騒音を避けたものへと変更された(今は耳栓をしながらの形でバンドでのライブに復帰しているが、本番前に耳栓が行方不明になり開演が遅れる事態も)。

そして今年になって突然の「ENDRECHERI」名義の復活(END「RE」CHERIなので、復活というよりはリノベーションと言うべきか)。昨年の逆境は何のその。「TU」のファンク路線をさらに押し進め、過去最高のファンクミュージックが奏でられることとなった。

 

「Coward」の冒頭を飾った「ENDLICHERI☆ENDLICHERI」のリアレンジである「END RE CHERI」で幕を開けた後に続く「HYBRID FUNK」にまずは触れよう。公式サイトでも一部試聴できるが、Slyの「暴動」のようなサウンドメイキングで、ゴリゴリのベースが鳴らす細かいフレージングに剛の低音ボイスが絡みつき、そのバックで乾いたドラムが淡々とリズムを刻み、ギターと鍵盤が控えめな装飾を加える。今まで(そして本作の他の曲も)P-Funk系統のポップに弾けるタイプのファンクを中心にやってきた上で、今、このドロッとした音楽性を試みること自体面白いが、何よりも、パクりだとかそういう批判を抑え込むレベルでカッコいい。

ここからは僕の持論なのだが、日本人が欧米文化を輸入して「パクリ」だとか「紛い物」だとか批判される原因の1つは、元来その文化にあったどぎつい要素を排除して当たり障りのないものに変えてしまうところにあると思う。しかし彼の場合は、例えば「TU」でがっつり性的な歌詞も書いているように、ファンクに不可欠な猥雑で混沌とした要素をちゃんと踏まえた上で自分の音楽として再構築しているため、「偽物」っぽさがない。そこが彼の音楽が真摯で評価される所以だと思う。

 

まんまParliamentの「Super Stupid」のリフの「Music Climber」や、タイトルがFunkadelicな「YOUR MOTHER SHIP」など、元ネタがあけすけな楽曲が多く、ENDLICHERI☆ENDLICHERI名義の頃に独自のセンスで自己の存在証明をしようと躍起になっていたのとは異なり、デンと開き直って本家のエッセンスをそのまま使う様には貫禄すら感じられる。別に必死にならなくても自分の居場所はあるし、偉大なるレジェンドの音に近づくことで贋作呼ばわりされる恐れもない。「HYBRID ALIEN」や「Crystal light」を聞けば、彼のボーカリストとしての成長も感じられるし、このアルバムは単純に音楽性を再構築しているのではなく、人間として一回りも二回りも大きくなって帰ってきた剛の凱旋公演なのだ。

 

 

 

以上が、アルバム10枚に渡る、堂本剛の音楽レビューである。

元々KinKi Kidsが好きで、人生で初めてのライブは剛の[si:]だった僕にとって、本記事は堂本剛の音楽性だけでなく人間的な変遷が見えてくる面白い試みだった。

サマソニのレポや最新シングル(ジャケットがまたKula Shaker並みに胡散臭い)など、まだまだ剛の音楽に当ブログで触れていく機会はあると思うが、ひとまずこの2記事で1人でもファンが増えたら僕の試みは一旦成功という形で完結だ。

 

それではまた。