Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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黙って新譜を聴いてくれ 2018/07&08

はじめに 

この記事で取り扱うのは「単独記事に成立する分量のレビューは書けないが、是非とも聞いてほしいと思った新譜レビュー」です。

もう少し言うと、「単独記事にならない≠大して書くことはないという前提で、畑違いのリスナーにもプレゼンしたいと思ったアルバムをほぼ月刊連載する試み」です。

以前までの「文章化できそうな新譜をとりあえず優劣関係なくレビューする」では読み手はあんまり楽しくないし、こちらも手応えがないし、という問題点があったので、そこからの修正を試みました。より良いレビューが書けることが目標なので、これが通過点になるかもしれませんし、問題なく機能すれば以降のミヨシの日課になるかもしれません。

少なくとも以前よりは濃密な情報が書かれることとなるとは思いますので、今後ともよろしく。

 

 

3.2「The Rules Have Changed」

 

 

実はKeith Emersonへの追悼盤という立ち位置にある作品だが、そういう文脈を抜きにしても、ド派手なシンセがしゃしゃり出るパワーポップ×プログレサウンドは一聴に値する。捨て曲一切なしの名盤だ。

本作までの背景を説明しよう。 かつて、プログレバンドEL&Pの元メンバーであるKeith EmersonとCarl Palmar、マルチプレイヤーのRobert Berryによって結成された「3」というバンドが存在した。本作と同路線でデビューアルバムを制作し、お披露目ツアーに出たものの、「プログレmeets商業ポップ」というコンセプトは保守的なプログレファンに叩かれ、アルバムのセールスも振るわずに解散。それっきりプログレ界隈だけでなく本人たちにも忘れ去られたかのように思いきや、近年になって新譜制作の話が浮上し、KeithとRobertによって作曲が行われていた。だが、計画半ばにしてKeithが死去。プロジェクトは頓挫されたかと思いきや、相棒のRobertがKeithと共作していた楽曲と彼だけで新たに書き下ろした楽曲とを合わせ、30年来の続編の完成にこぎ着けた。残念ながらKeithは録音する段階に達する前にこの世を去ったため、全楽器をRobertが担当している。

つまり、Keithの遺作と考えると一番聞きたい彼の演奏が抜け落ちた内容のはずなのだが、Robertがレコーディング中終始「Keithならどう演奏するか」と考えて演奏に臨んでいたため、キーボードパートはKeithの手癖がこれでもかと再現されたプレイとなっている。

2曲目の「Powerful Man」のイントロのバカみたいに壮大な(笑)シンセが鳴り響いた時、僕は笑いながら泣いた。あまりにもKeithらしい音だったからなのもあるが、よく聞くとKeith印の音をちゃんと再現しきれていなくてやや音色が大味すぎる。しかし、EL&P自体、大道芸めいたインパクト重視なパフォーマンスであったり、オーケストラといざツアーに出たものの予算不足ですぐに3人編成に戻ったり、いい加減でB級なところが魅力であった。そういう半端なところも含めてそこにKeithがいることを確かに感じた。

悲壮感はなく、中盤でややダウナーな曲も挟まるもののアルバム全体としては能天気で、最後に聞けたKeithの音楽がこの作品であることがとても嬉しい。楽曲のレベルも作曲途中からのKeithの不在を感じさせないレベルで、もしバンドが存続していたら、30年と待たずとして出ていたアルバムであったかもしれない。

また、輸入盤なら本編で一番プログレらしいスリリングな展開が見られる「Your Mark on the World」で堂々と締められるが、国内盤ではボーナストラックとしてトラディショナルナンバー「Sailor's Hornpipe」が追加されている。これがまた、Keithの生き写しと化したRobertの軽快な鍵盤捌きが聞けるので、国内盤の方をお勧めしたい。

 

 

Oh Sees「Smote Reverser」

 

 

知る人ぞ知る、世界一姦しいガレージロックバンドであるOh Seesの1年ぶりの最新作。前宣伝とジャケットがメタル路線であることを宣言していて、さぞかしヘヴィーな音なんだろうと身構えて聞いてみたものの、いつも通りのジャカジャカと薄っぺらいギターがかき鳴らされるサイケガレージサウンドであった。

沸点寸前の「Sentient Oona」からオルガンロック「Enrique El Cobrador」とビートロックの「C」を挟んで大爆発する「Overthrown」までの流れや、「Abysmal Urn」の崩壊寸前のリフ、Radioheadのリズム隊が奏でそうなドラムとベースのリフが12分延々と続く「Anthemic Aggressor」など、様々な世代へのアピールポイントが重層的に積み重なったアルバムであるのだが、(特に国内の)メディアに取り上げられることは少ない。

毎年のように改名とメンバーチェンジと新譜発表を執り行うバンドなので、動向を追いにくいことは間違いないし、メタルとはまた別のベクトルのやかましさに辟易としないこともないが、ここまでアクが強くてお茶目でポップなバンドもないだろうに、もっと評価されても良いと思う。やはりあれか、ギターのポジションが高すぎるのか。

 

 

 

浜田麻里「Gracia」

 

 

Chris ImpellitteriやSymphony XのMichael Romeo、Mr. BigのPaul GilburtにBilly Sheehan、Marco Minnemannなどなど、超豪華ミュージシャンが参加して夢のメタルバンドが発生しているという話を聞き、初めての浜田麻里体験。

悲しげなソプラノコーラスから激アツ疾走パートに突入する1曲目「Black Rain」の出だしで勝利は確定したようなものだが、いとも簡単に神がかった声域を披露するデビュー35周年の歌声には、自分の理解を超えて笑いすら覚える。Paul GilburtやDerek Sherinianをしてバックバンドとして仕官させてしまう彼女のカリスマ性に、全メタラー、いや全人類はひれ伏するしかない。

最終曲の「Mangata」のアウトロでは彼女のシャウトが瀑布と化し、空間をつんざく。これは本当に(エンジニアではなく)彼女の実力なのかと疑ってしまうぐらいの迫力なのだが、近年のライブ映像を確認したら常人には出せないシャウトをいとも簡単に繰り出しており、疑問を抱いた自分を恥じた。

声良し、曲良し、演奏良し。全てがあるべきところに収まるべくして収まった。名盤となるべくしてなった名盤である。