Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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黙って新譜を聴いてくれ 2018/10&11

1記事分になるまで「これは!」という新譜になかなか出くわさなかったので、3ヶ月まとめての投稿です。12月はPavlov's Dogの新譜が良かったもののこってりプログレだったもので、選出はなしです。

 

Bryan Ferry/Bitter-Sweet

御年74歳にして創作意欲の衰えない彼の最新作は、セルフカバーでありながらも、20年代のジャズオーケストラ風アレンジで楽曲に新たな命を吹き込んだ瑞々しい作品である。元来ジャズとの相性のいいミュージシャンであったが、今がその時とばかりにこれまでの蓄積を全て投入し、キャリアの総決算とでも言うべき業績を残してくれた。いや、まだ死んでないけど。

声から若さはとうに失われてかすれ気味にすらなっているが、色気はますます増し、大御所の風格ともまた別の説得力に満ちた圧巻の再演である。前作「Avanmore」も素晴らしい作品であっただけに、彼の老境に入っての仕事ぶりは過小評価気味のようにすら感じる。 

 

 CHTHIONIC「政治〜Battlefields of Asura」

  

ボーカルが国会議員で、ベースがセクシーな美女、映画や野球の始球式にメンバー揃って登場するなどともはや台湾の国民的存在のブラックメタルバンド、CHTHONIC。政治活動や育休などを経ての5年ぶりの作品を一聴すれば、リスナーだけではなくバンドもスタジオに戻る日をどれだけ待ちわびていたか、即座に分かるだろう。

ストリングスやクワイアによってかつてなく壮麗に彩られて聳え立つ音の宮殿。その中をリズム隊は猛々しく疾走し、ギターは5年もの間溜まりに溜まった情念を天にも昇る勢いのソロによって昇華させる。そしてその暴れ狂う者共の支配する空間を鋭敏に切り裂くスクリーム。歌詞は当然聞き取れない。だが、東洋の優美で儚げなメロディーを我々の耳に送り込んでくる。

毎回台湾の血塗られた歴史を物語にまとめ上げて取り上げてきたバンドだが、今回は1920年代を一応の舞台にしているものの、そこまで物語としての連続性は出ていない。だが、国会議員として国際社会の現状や台湾という「国」が抱える問題に向き合ってきたボーカルのフレディの心境を赤裸々に語ったという点で、以前までの歌詞に込められたメッセージと同じアツさは確かにある。

中国からの独立はおろか、世界から「国」として扱われている現状の維持すら危うい今日の情勢において、彼らがこのように音楽として意思表明をするということは、世界を視野におくとある種政治家の活動以上のインパクトがある。彼らがバンドとして歩む道は、所属する社会である台湾と同じく並大抵ではない苦難が待ち受けていよう(ちょうど先日、台湾独立の立場が災いしてか、香港に入れずにライブが中止になったというニュースが国際ニュースになっていた)。ただの音楽愛好家がどこまで彼らについていけるのか。それは分からないが、「音楽で世界は変わらない」という概念をひっくり返そうとしている彼らを末長く応援したいという気持ちに偽りはない。

 

Laibach/The Sound of Music

北朝鮮×サウンド・オブ・ミュージック。何でこうなったかと言うと、北朝鮮でLaibachがライブをやるとなったとき(その件はドキュメンタリー映画「北朝鮮をロックした日」に詳しい)に、北の子供たちが英語の教材に有名ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」を使っていることを知り、インダストリアル/シンセポップにアレンジした同作を演奏したという経緯があり…

そんな訳で、超絶低音ボイスの「Edelweiss」「The Sound of Music」や短調の「Do-Re-Mi」などと、かなり尖ったアレンジがされているものの、原曲とはまた異なる陰のある美しさで楽曲の魅力を引き立てたという点で、非常に優れたカバーアルバムだと言える。

また、原作のリスペクトを示す一方、「Korea /Maria」などととんでもない語呂合わせで北朝鮮という奇妙な国家へのメッセージも表明している。お転婆娘の主人公Mariaに手を焼く修道女たちの嘆きである歌詞の、「Maria」に当たる箇所をそのまま「Korea」という、世界が扱いに苦慮している国家に差し替えているのだ。

かつてはナチスに侵略された祖国を、ナチスを模倣するという倒錯した方式で愛し、独裁を批判する彼らだからこそやれる、絶妙なさじ加減の批判に北朝鮮がいつか真摯に向き合う日が来るのだろうか?

 

青葉市子「qp」

基本的に彼女の作風というものは変わらず、幻想的なクラシカルギターの調べに彼女の澄んだ歌声が包まれて、ふんわりと、しかしどこか刹那的な、あなたとわたしだけの宇宙に招待してくるのだ。おそらくPeople In The Boxのファンであったならほぼ間違いなく気にいるだろう(違うならPeople In The Boxも聞いてみよう)。

ギター1本と歌声で作り出す音楽というと、供給過多で方向性としても頭打ちな窮状にあると思っていた。しかし彼女の独創的な世界に触れると、そのシンプルな組み合わせで生み出される音楽の未来性にはっと気付かされる。