Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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チョコレート<ss>

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その日ソレを目当てにやってくる5人目のお客は、ミネラルウォーターと乾電池をレジカウンターに置いた。

「これください、それと…54番を」

「はい、かしこまりました。…Cポイントカードはお持ちですか」

手早く一万円札を3枚出し、270円のお釣りを受け取り会計を済ますと、「54番」を受け取りそそくさと店を後にした。

 

「店長、今の人…もうやばそうでしたねぇ」

「うーん。いわゆる末期だろう…もう歯という歯が溶け切る寸前だった」

「まったくこれほどまでに恐ろしいものを何故いまだ売り続けるんです?」

「そうか、君は2032年生まれか…僕ら1996年に生まれたおじさんの子どもの頃のおやつといえば、この「54番」だったのさ。」

「なんですって?でも54番には恐ろしい中毒性、歯を蝕んだりあらゆる病気に繋がる糖度の高さが指摘される全く恐ろしい薬品です、学校でもずっとそう習ってきました。そんなものを本当におやつに…?」

「君たちは知らないのだろう、あの甘くほろ苦い美しい味わい!なんと可哀想なことだ、そうだ、僕らおじさんたちの若かりし頃、あれは生きる象徴だったんだ、チョコレート!」

「あぁ店長!そんなおぞましいものの名前口にしないでください!!」

「分かっているよ…だがもう時間がない、コンビニという名目でモグリの「54番」を世に売り渡してきた人生だったが…気付いていたかい、もう僕の歯はボロボロなんだ」

「!!店長まで…そんな…」

「チョコレートの精製技術を失った人間社会では最早虫歯など過去の病気、昔は美容室の数ほどあった歯医者も今や存在しない…それに僕はモグリの商人だし、チョコレート中毒者。まともな医療など最早受けられない。あぁ、このまま合併症を併発して死んでゆくんだ」

「店長…どうしてそこまでして54番、いえ、チョコレートを愛するのですか」

「愛…かな。思い出やおいしい、という感情には現代人が忘れた愛の感情が灯るのさ…ウッ!!」

「て、店長!!すごい熱だ、大変だ…店長しっかり!!」

「バイトくん…僕のことは忘れて…はやく、54番を…処分しないと…君まで薬事法で…裁かれ…」

「いいんです店長!店長の意思は!僕が次ぎます…!!」

 

 

「今年のバレンタインフェア、こんなもんでいいですかね」

「うーん、なかなか名演だったよ僕たち。なんか取り締まられてるって聞くと食べたくなるもんね」

「ほんとにチョコレートが取り締まられたら僕死んじゃいますよ」

店長とバイトくんは、レジに100円を入れて店先の商品の板チョコを半分こした。

 

by beshichan