Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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結局、本人たちですらThe Strokes を越えられない件

 

 

今世紀で一番のロックバンドは誰だ?って話になったら、君は誰と答えるだろう。僕はストロークスだと即答させてもらおうと思う。

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彼らは最高だ。結局どなたもストロークスを越えられない。アークティックモンキーズだって、キラーズだって、ストロークスに憧れて曲を書いて、素晴らしいバンドになった。それでいてあの幻の背中を今も追い続けている。

ストロークスのサイドプロジェクトを聴くにあたって

今、ストロークスのメンバーたちはどこにいるのだろうか?

いよいよ結成二十周年も目前である2018年、ストロークスのメンバーのうち、ひと際存在感を放つ二人の男が、それぞれ素晴らしいアルバムをリリースした。ジュリアンカサブランカス率いるThe Voidzの『Vurture』と、アルバートハモンドJrの『Francis Trouble』である。そして、その二枚のアルバムは実に素晴らしかった。

先ほど、ストロークスに憧れバンドを始めたという二つの偉大なバンドの名を出したが、去年The Killersは『Wonderful Wonderful』、今年Arctic Monkeysは『Tranquility Base Hotel & Casino』、それぞれ新しいアルバムをリリースしている。どちらも悪くないアルバムだったのだが、何と僕にはストロークスメンバーのソロ作品、サイドプロジェクトの方がより優れているように聞こえてしまった。

皮肉にも、アレックスターナーがストロークスになりたかったと歌っても、キラーズが自分たちをストロークスより優れていると思ったことはないと言っても、それはただ事実でしかないのである。彼らがいくら足掻こうと、結局ストロークスのサイドプロジェクトにすら敵わないのである。

しかし、僕としては、今年のストロークスメンバーたちの二枚のアルバムが、世間に評価され、このまま軌道に乗ってしまうと、不安だ。ストロークスがいくら素敵でも困りゃしないのだが、これはストロークスではないのだから。

このままThe VoidzとアルバートハモンドJrが、ストロークスのなき時代に売れてしまうと、なんだか5年後には「The Strokes 広島弁bot」なんかが竣工してネットの海を堂々航海しているのではないかと、想像してしまうし、本当に不安だ。

 

いくらThe Voidz の『Virture』と、Albert Hammond Jr. の『Francis Trouble』が素晴らしすぎるからと言っても、あくまでこれらはサイドプロジェクト、メインはストロークス、であることを忘れないように楽しみたい。

 

 

新譜レビュー、Albert Hammond Jr. 『Francis Trouble』

このアルバムはアルバートのソロで数えると四枚目のスタジオアルバムで、前作から数えて三年ぶりの作品になる。

今までのものと比べて最もストロークス風なアルバムかもしれない。これまでのアルバートのソロでは、ストロークスにおけるクールな部分と重複するような要素は目立たない傾向にあった。ストロークスの中では比較的陽気な雰囲気を請け負っていたアルバートが自分の持ち味を前面に押し出すような曲をソロで発表してきたと考えれば腑に落ちる。しかし、今作にはそのクール感が存在しているのだ。

ストロークスが恋しい人間が最も聴くべき一枚は、明らかにこのアルバムだろう。

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このアルバムにはストロークスの1stアルバムである『Is This It』を彷彿とさせるような曲ですら存在している。一曲目のDVSLやFar Away Truths なんかは本当にストロークスっぽい。最近のストロークスではなかなか聴くことのできない軽快で甘い音楽、これ聴いた瞬間はストロークスに出会ったあの頃と同じ自分になったような気すらした。おい人生久しぶりにみずみずしいやんけ!となること間違いなしのアルバムだ。

いつも当たり前のようにストロークスの曲で鳴っているアルバートのギター、それをストロークス以外の場所で聴くことで、あの音がどれだけストロークスをストロークスたらしめているかが実感できるだろう。彼のギターは和室でいう畳くらいに大事な要素なのだ。

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ここまでアルバムのストロークスっぽさを中心に話してしまったけれど、まあしかし、アルバートのソロはアルバートのソロである。そう改めて実感したのは、今年のフジロックでの彼のステージである。僕にとって初めての、本物のストロークスのメンバーを見る機会だった。

アルバート・ハモンドJrはジュリアンカサブランカスとはまた違う良さを持つ、非常に優れたフロントマンである。観客を虜にして、めためたに躍らせる躍動感のあるパフォーマンスはジュリアンのステージでの格好とは真逆だ。とても良かった、そういうのは好きだ。僕もよく跳ねた。

軽快なアルバートのソロアルバムは今年の上半期に出たアルバムの中でも片手ランカーであるというのは間違いないだろう。

 

 

 

 

新譜レビュー、The Voidz『Virture』 

www.youtube.com ジュリアン、フォーエバーショタ

ストロークスのボーカルであるジュリアンが率いるThe Voidz の新譜は、ジュリアンのソロプロジェクトではなく別のバンドであることからもわかる通り、ストロークスとは全く異なるムードの作品である。もはやストロークスのメンバーによるプロジェクトという風に扱われるべきものではないのかもしれない。

あえてストロークスの作品と比較するなら、最新のEPである『Future Present Past』、四枚目の『Angles』などに存在する、SFっぽさが全編を覆っている。いやむしろ、あれのもっとグッタリ複雑で混沌とした雰囲気が溢れ出た進化系と言うべきかもしれない。

端的に言うと、なんしてんねんが度を過ぎているのに、めちゃくちゃカッコいいダークマターと言うことになる。

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アルバートのアルバムが以前のストロークスを思い起こさせるような出来であることとは対照的だ。アルバートの『Francis Trouble』を表現する時にストロークスのクールさ云々と言ったが、The Voidzの『Virture』はダークで底も見えない。コールドと表しても差し支えないかいのではないか。

心地よい適量のエスニック、変態な太い音とおかしな展開、そこへエフェクトがかかったジュリアンの高い声がバランスよく乗ってきて不穏に響く。気持ち悪いのに何故かしっかり心を掴んで離さない。

ストロークスなんてポップ過ぎるし軽くて聴いておられんわって人なんかでもこれは気に入ると思う。『Virture』を聴いてストロークス沼へゆくがよかろう。

The Voidz と言うプロジェクトは、回を重ねるごとに「変」になって行ってる気がする。いや、「正統派カッコいい」と「変」の共存できる限界が次々と突破されているのだ。

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前作は「変」である事があまりに当然のように行われていたために大した驚きはなかった。変なことをしてみたアルバム、聴くのは時間がかかるようなものだった。あれには、まあそう言うことも起こるのか、とあまり実感になりにくい驚きがあった。

今回の『Virture』は皮肉ったらしいポップ風が時々吹くため、「変」なところが際立つ上に、気持ち悪さが猛威をふるっている。ぶるぶるっとなりながら「なんか…イヤぁ…」とニヤケてしまう瞬間がちょくちょくあって、最高である。

ちなみに僕が一番お気に入りの曲は『All Wordz Are Made Up』だ。ストロークスっぽいのは『Wink』とか『My Friend The Walls』かな。

KEXPのライブ映像では「彼の思いついたフレーズからみんなで展開していったり」「適当にジャムってたらだんだんPink Oceanになった」みたいな風に作曲の仕方について話していた。動画が見つけられないので、はっきりと断言はしないが、そういう風に言っていた、と思う。(あった

とにかくThe Voidz は一つのバンドとして呼吸をし、歩いているのだ。きっと、沈黙へとさしかかっていた頃のThe Strokes よりもイキイキとしているのだろう。少なくとも、ジュリアンが遠く先を見据えてこのバンドを動かしていることは確実だ。

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チリかどこかの音楽サイトでのインタビューによれば、今作はより世間に寄せることを意識したアルバムだったと言う。このインタビューは今回のアルバムが発表される前に行われたもので、前作『Tyranny』を引き合いに出して話していたから、上にあのアルバムからも一曲リンクを貼っておいた。

以下が一部の日本語訳である。

『Tyranny』の後、どういった音楽をしようとしてたんですか?

ジュリアン「ワシらにとっちゃ『Tyranny』は、ほんまに創造的で素晴らしいもんじゃったけんど、世間からしたら「ナンジャコレ」やったんよね。みなの反応見てエラいたまげたわ。ほじゃけん、今度はワシらが『Tyranny』を愛したんと同じくらいにの、みなが好いてくれるようなアルバムこしらえようとしたんよ。」

 

僕は『Tyranny』結構気に入りましたけど?

ジュリアン「まあ、そう言う人もおんじゃけどね、ワシらはあのアルバムで金持ちんなりたかったけん。」

ヒゲ面のグリッター(ギタリスト)「ジュリアンは、二人の召使に担がれた王座に乗ってステージに上がっちゃう、そういうのをしたかったワケよ?」

 

〜略〜

 

次のアルバム『Virture』では何を達成するつもりなんですか?

ジュリアン「ほんまのこと言うたら、目標はメインストリームになることなんよ。まあ、近ごろのヒットチャートはおおごとじゃろ。ワシの家ではかけんような音楽だらけで、もうワヤよ。ちっとは骨のある音楽をぶち込んだらないかんねと思いよるわ。」

Julian Casablancas: "Queremos llegar al mainstream para poner ahí música que importe" : Revista Playlist

 

どうやら、ジュリアンはこのバンドで天下を取るつもりのようだ。

どのようにして本当のアートが宇宙を支配するか、それを世の中のガキに教えてやるためにこのバンド、The Voidzは存在している、らしい。

The Voidz と言うバンドは野望も、作る音楽そのものも、最高に素晴らしい。これをずっと聴いているとストロークスより楽しくて良いじゃないかと思う瞬間がないと言えば嘘になる。

 

メインはストロークス、忘れない

だが、実際には結局、『Virture』は天下を取らず2018年も終わろうとしている。The Strokes では天下を取ったジュリアン・カサブランカスも、The Voidz ではまだ何も成し遂げられてはいない、結局。中止になった来日公演のリヴェンジをする気があるのかもよくわからない。

アルバートの新譜にも、The Voidz の新譜にも目をひん剥いて踊るくらいの素晴らしさがあるけれども、確か、The Strokes を初めて聴いた時、僕は驚きすぎて、感動しすぎて、実際に目ん玉を地面に落っことしてしまった記憶がある。と考えると、やっぱし足りないってことだ。

結局そういうことなのだから、レディオヘッド程度の頻度でも勘弁しよう、The Strokes としてこれからもやって行ってほしい。正直、The Strokes についてもっとはっきりこれからのことを言ってくれないと、僕は安心できないし、こちらとしてもサイドプロジェクト軍団をどう聴いて良いかわからない、不安で仕方がない。サイドプロジェクトも本当に素晴らしいのだから、安心して思った通りの感想で褒めながら聴きたいものだ。 

 

 

by merah aka 鈴木レイヤ