スーパーグラスは砕けない
スーパーグラスについて、語るべき時が来た。
どう言うバンドなのかを説明するところから始めるべきかもしれない。
雑にいえば、ブリットポップムーブメントから躍り出てきた、かなり良いが忘れられがちな、既に解散しているバンドだ。記事のタイトルに砕けないという言葉が入っているせいで、スーパーグラスのグラスが、ガラスのグラスだと想像されている方もいらっしゃるだろうが、このグラスは葉っぱのグラスだ、ハッパ、ウィィィィィ;D、まじで草。
ブリットポップであるというシールをまず剥がさないことには、いつまで経ってもスーパーグラスは、時々思い出して聴くだけの結構良いバンドと言う枠を出ない。彼らは僕にとって、ある意味、本当の良さを見つけるまでに時間がかかったバンドだった。ひょっとすれば、過小評価の原因は聴者の怠慢なのかもしれない。
エネルギッシュなポップであるより先に、スーパーグラスはドラマチックなロックだと言うことをまず強調したい。
90年代のスーパーグラス
二年前、2016年の正月において、僕にとって帰省中の主たる経済活動は中古CD、小説の回収だった。地元の、愛媛なんだけど、そこのブックオフや中古CD屋さんを巡礼しては浪費のチリをコツコツと積もらせていく毎日である。TSUTAYAで借りてインポートしていただけの音源も大量に回収したし、ブラーのシングルもいくつか買った。
そんな単調な発掘作業の中で、あの時僕が見かけてワクワクしたバンドが、Explosions In The Sky とSupergrassの二つだった。なんでそんなかけ離れたバンドを探し回ってたんだっけ… 思い出せないけど、あの頃、なぜか爆発的にハマっていた。
隣町にある、エロ本とエロDVDを経済的主柱に据えた中古屋にて、Explosions In The Sky の最初のアルバム3枚が置いてあったのは、今振り返っても不思議だ。どこにでも置いてあるバンドではない、特に田舎ではそう簡単に手に入るはずがないのに。
対照的にスーパーグラスは結構いろんな店で見かけた覚えがある。最初の3枚だけだったけれど、それぞれ3枚ずつくらい見かけたように思う。当然それぞれ一枚ずつ買った。
あの正月は、考え方を変えれば、僕が初めて日本に「来た」日々だったから、殊に思い出深い。スーパーグラスにどハマりしていた時期があの正月に限定されていたのも、その日々に「古き良き」という枕ことばがよく似合う気がする一因なのかもしれない。ほんの2年前なのに。
あの後、大阪でウルフアリスを見たり、マレーシアでテームインパラを見たり、ミステリージェッツやらThe 1975 の新譜に圧倒されたり、そんなこんなでスーパーグラスはいつの間にか二ヶ月に一回なんとなく気が向けば聴くバンドになっていた。
弾けるようなポップネスに重きをおいて聴くと、いかに良い音楽でもすぐに飽きてしまう。無慈悲にも、彼らの初期三作は、僕にとってもまた、愛媛の廃れたブックオフの各店舗に複数枚ずつ並んでいておかしく無いアルバムとなってしまった。
本当に素晴らしいんだけど、良い、以上のところまで突っ込めなかったのだ。(だが、結局、今はまたブームが来てめっちゃに聴いてるってわけ。理由は後述する)
まあ、そんなことを考えながら、ヒット曲、Alrightのビデオなんかを見ると、すごく、あぁブリットポップって僕にとってこんなイメージだ、って再認識してしまう。寂しさが先にくる。話題にならないバンドなのも仕方がないのかなぁ、とも思った。アルバムを通して聴くと飽きがちでもある。
例えば、99年にリリースされた、セルフタイトルの3rdアルバムのオープニングトラックMoving を聴くと、こうやってバンドもブリットポップも終焉を迎えたんだなぁと感じてしまう傾向があった。ドラマチック、儚げ、霞がかかる過去のような、良い曲だ。このバンドが、21世紀にも存続していたら、もっともっとドラマチックな、何か面白いことをしてたんじゃないかって、思うような曲でしょう?
「ただ動き続けろ、何がまともか判らなくなるまで」なんて歌詞はひどく沁みる。
00年代のスーパーグラス
例の愛媛県東予地方のブックオフの話だが、どの店にもスーパーグラスの最初の三枚のアルバムはあったと言った。だがそれ以外は置かれていなかったのである。それが理由で、僕はこの間の梅雨まで、2年以上、スーパーグラスがアルバムを3枚だけ出して解散してしまったバンドだという風に勘違いをしていた。
6月ごろに、たまたまスポティファイのデイリーミックスで、良い曲にぶち当たり、アーティストとアルバムを確認すると、スーパーグラスの5枚目『Road To Rouen』の一曲目だった。信じられなかった。スーパーグラスってあのスーパーグラス!?ってなった。なんと、スーパーグラス、21世紀にも3枚アルバムを出していたのだ。(勝手に90年代に解散していたと勘違いして、偶然その後があったことを知って感動する、こんな馬鹿げた話があって良いのか?と思うところもあるが、まあこうして遂に出会えたのだから良しとする。)
この『Road To Rouen』めちゃくちゃ良いので、ぜひとも聴いてほしい。これまで持っていたスーパーグラスのイメージとは、かけ離れた、「果てしなくドラマチックな」作品でござる。霧が晴れて行くように、徐々に広がっていき、静かに熱く燃えるような、じわじわとアガるアルバム。
フォークであり、サイケであり、クラウトロックでもある。
例えば、Roxy なんて曲があって、これはMovingを聴きながら、僕が脳裏に描いた、こう変化していって欲しかったスーパーグラスそのものだった。
このアルバムが5枚目で、次のアルバムの後に解散、要するにこの時点で聴いていない4枚目と6枚目も当然、急いで聴いた。
5thアルバム、『Life On Other Planets』、これも期待通り素敵である。クラフトワーク風のイントロから始まるこのアルバムは、2002年のメルトダウンフェスティバルで披露された。2002年のメルトダウンと言われビクッとなる人は多くいるであろう。毎年、著名なミュージシャン、音楽家をキュレーターに据え、その人が演者を選ぶというユニークなフェスなのだが、2002年のキュレーターは我らの愛する故デヴィッドボウイだった。もちろんスーパーグラスの大好きな人でもある。
ウィキペディアによれば、このスーパーグラス、ミュージシャンからの評価が絶大だと言う。実は、同郷オックスフォードの先輩であるレディオヘッドのツアーにも何度もお呼ばれしている。全然雰囲気の違うバンドだが、トムヨークはかなりスーパーグラスがお気に入りだったようである。
ちなみに5枚目のアルバムでは、僕は特に7曲目のNever Done Nothing Like That Before が好きだったりする。
Never Done Nothing Like That Before, a song by Supergrass on Spotify
最後のアルバムは、グランジ、グラムロックからの影響なんかも色濃い、フィナーレに相応しいアルバムだ。デヴィッドボウイとゆかりのある、ベルリンのハンザスタジオにてレコーディングされたそうだ。このアルバムを聴いて初めて、スーパーグラスが今のイギリスのインディーロックに残したものの大きさを感じた。リバティーンズがこのバンドの初期の作品に強く影響を受けたというのも、頷ける。
90年代に現れたスーパーグラスというバンドは、ブリットポップウェーブに乗って登場した。そして、2000年に入り、ブリットポップではなく、スーパーグラスという固有の世界を聴者に分かりやすく示しながら、リリカルな精神世界を展開したのだ。
結果的に、2000年代の三枚のアルバムは、初期の三枚の再認識を促し、より素敵なスーパーグラスの聴き方を僕に教えてくれたと言えよう。より深く潜ってこのバンドを聴くことができるようになった。
かつて、一時的なマイブームでにわかに聴いて、このバンドが好きだ、と聴き尽くしたつもりになっていたというのが非常に恥ずかしい。スーパーグラスは後半の三作品を聴いて初期を聴きなおしてから、それでやっと、いやぁ…良いバンドだよなぁ…と感慨に浸るべきである。
まだ聴いていないスーパーグラスがあるのだろう?それを聴かせてくれよ! と今は強く感じているが、もう続きはない。
2010年に七枚目のアルバムををボツにしてバンドは解散してしまい、今は各々ソロなどをしている。勘違いではなく、こればっかりは本当らしい。
で、結果一番聴いてほしいのは今年の作品である。
何故今わざわざスーパーグラスを語ったかというと、スーパーグラスのフロントマンのギャズが今年発表した三作目のソロ作品が非常によろしいからなのである。続編はないと言ったが、スピンオフが本編級に素晴らしい。
聴いてもらいたくて仕方がない。
実は、恥ずかしながら今日彼のソロが出ていたことを知った。
最近、Spotifyで、Daily Mixと全曲シャッフルハマっており、なんなら音楽生活の中心になっている。今回も、Daily Mixでふと引っかかって、ええ曲やんけ。とアーティスト名を見たら彼だった。しかも今年のアルバムだった。
スーパーグラスのギャズのソロだと知らずに聴いて、素晴らしく感じるのだから、本物でしょう? また、スーパーグラスのギャズのソロだと思って聴くと更に感動が増す。オックスフォードのことを思って聴くともっと増す。
今回ハッキリしたけど、僕の音楽情報アンテナは多分ぶっ壊れているんだと思う。6月にスーパーグラスまだ聴いてないアルバムあったんか!と騒いでたあの時、もう既にギャズのソロは出ていた、ワタクシ馬鹿の如し、。
→ ギャズの新譜レビューへ続く(予定)
by merah aka 鈴木レイヤ