Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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究極のサイケデリア 『A Rainbow In Curved Air / Terry Riley』

今日紹介するTerry Riley のA Rainbow In Curved Air は普段紹介する音楽とは随分ジャンルが違うが、ジャンルの括りを忘れて聴いて見れば別にそう変わらないようにぼくは思う。
サイケロック、ポストロックやシューゲイザー、エレクトロニカが好きな方には気に入ってもらえるかもしれない。


テリーライリーは俗に現代音楽、前衛音楽、ミニマルミュージックなどと呼ばれる類の音楽を作る作曲家だ。
このジャンルは抽象画に近い性質を持つことが多い。

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タイマーの音と、奏者が動く音、演奏環境での生活音しか鳴らされない無音の音楽『4分33秒』や、639年かけて演奏されて今尚演奏が継続中の曲『Organ2/ASAP』を作曲したジョンケージが現代音楽家として有名だろう。

退屈だ、ふざけている、難しい、気を衒っただけのわざとらしい代物だなどと形容され、大衆に広く親しまれることは少ない。しかしこの抽象的音楽は本当に一部のフリークにしか響くことのないものなのだろうか?
ぼくはそう思わない。
作り手の個人的な感情を極限まで押し殺した無機質な音の集積に思えるこのジャンルだが、心を空にして耳を澄ませばそれは主観的に広がる感情の渦なのだ。支配されているとも支配しているともつかない不思議な感覚で純粋に音を楽しむことができる。
深く考える必要がない音楽、深く考えることのできない音楽。
理論的にあれこれ分析し始めるとたちまち詰まらなくなってしまう。頭をまっさらにして聴けば、音で身体を満タンにすることができる。そうすれば感じられるし、出来がいい人の脳では音が像を結ばれるかもしれない。
このジャンルの音楽の抽象性はどこまでも自然、楽しみ方は至って原始的だとぼくは思っている。


Ai Rainbow In Curved Air を書いたテリーライリーは広いジャンルに影響を与えた。
The Who のピートタウンゼントはテリーライリーの作品に深く影響を受けて曲を書き、その名曲にライリーの名を冠した。あのBaba O‘Riley である。

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www.youtube.com Won’t Get Fooled AgainもまたThe Who がライリーの影響を受け作った曲だ。 

 

 

A Rainbow In Curved Air はオーバーダビングを多用した電子オルガンやハープシコード、タブラッカ(中東音楽において使われる太鼓)により演奏されている。初めてオーバーダビングを大々的に用いたこの作品は、その後の音楽の可能性を広げた。デヴィッドボウイもライリーからの影響を公言している。
虹色の音が織りなす多層世界は我々の見たことのないものを展開する。この曲は60年代後半、当時隆盛を極めたサイケデリックミュージックの金字塔でもあるだろう。

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この緻密に広がる虹色の多層世界は、綿密に計算し尽くされた設計図の上に成るものではなくライリーの即興演奏に依るところが大きい。

ちなみに、即興演奏に興味を持ち始めてからというものジャズが明らかに人生にとっての重要な要素であったとライリーは述べている。特に彼が傾倒したジャズミュージシャンの一人はビルエヴァンスだ。ライリーのA Rainbow In Curved Air がリリースされる4年前にエヴァンスはオーバーダビングピアノで演奏した作品を発表している。ビルエヴァンスがテリーライリーに与えたインスピレーションは即興演奏のみに留まらない。

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A Rainbow In Curved Air においてもう一つ魅力的な点をあげるとすればそのエスニックでな音色だ。エスニックはサイケに色を加える大切な要素の一つだ。ライリーは大学時代、Pandit Pran Nath に音楽を学んだ。
彼はインドの古典声楽の大物で、ミニマルミュージックの祖であるラモンテヤングにも音楽を教えていた。
ライリーは彼をきっかけに東洋の音楽に触れ大いに影響を受け、実際インドに赴いて現地で音楽を学ぶこともしたそうだ。

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ちなみにA Rainbow In Curved Air が演奏、発表された時期に彼はたくさんの楽曲を同じような手法で完成させている。しかし数多くあるそれらの中でもこの曲はとりわけ鮮やかで、楽しく、壮大だ。

不思議な音色は反復されながら徐々に広がっていき、幾つにも増えて飛び回り、鳴き、唸る。音は重なり合い流れ、うねりながら姿を変え何もかもを埋め尽くす。まるで万華鏡の中に放り込まれたような感覚に陥るのだ。きっとLSDの効果はこんな風なんだろうと思いながらぼくはいつもこの曲を聴いている。
歪んだ空にかかる虹…サイケだ。

短くない曲である上に情報量が多い故に聴き終えたあと頭が明らかに疲弊するから毎日聴こうと言う気になるとは言い難い。しかし気分さえ整えばこの曲は明らかに僕にとって完璧で、それを聴き終えた時は気分もまた完璧になるのだ。

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by Merah aka 鈴木レイヤ