Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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ジンジャーエールで乾杯を<ss>

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あらいらっしゃい。

お客さん、うちは初めて?

あら大歓迎よ。お客さんアタシのタイプだし。

ごめんなさいね、こんなむさ苦しいオカマだけで。看板娘でもいたらよかったんだけど。

なにお飲みになる?ジンジャーエール。合成モノしか置いてないけどいいかしら。

ジンジャーエール、懐かしいわ。アタシも頂いていいかしら。

…ねえお客さん。すこしアタシの昔話に付き合わない?

いいじゃない、今夜は月も綺麗だし…こんな夜は思い出すのよ。

 

昔ね…脱法サイボーグやらジャンクアンドロイドってうじゃうじゃいたでしょう、今じゃすっかり規制されてるけど。

この店もすっかりそいつらのオイル注しの溜まり場になっちゃってた時代があったのよ。どこのバーも通る道ね。

その時の常連の1人にちょっといい男がいてね…名前は知らなかった。でもいつもひとりきりでジンジャーエールを飲んでた。

その頃はまだホンモノのジンジャーエール出してたわよ。お客さんごめんなさいね、合成モノで。

その子、どこもいじってなかったの。珍しいでしょ?あの頃、若い子はみんなどこかしらいじるか生身部分を売っぱらって小銭に変えたりしてたのにね。

 

その子がうちの常連になって10年くらい経ったあたりかしら、うちで1人女の子を雇ったの。

雇った…って言っても、ホラ、昔流行ったでしょう?ナントカって企業がレジのおねーちゃんとしてずらっと並べてたり…まあ要するに量産アンドロイド。

昔はね、この店の下にモグリのジャンク屋があったの。そこである日それの型落ちの故障品が売っぱらってあったの。

ちょうどウチも人出が欲しくてね。型落ちちゃんでもバッテリーがダメになるまでの半年くらいは店番になってくれるでしょ、ってなもんで安くで譲ってもらったの。知っての通り、ホントは中古アンドロイドの使用なんて違法だけど。

もう記憶媒体はダメになっちゃってたし、おしゃべりもできない。スキンも剥がれて素体も見えてきてた。

でもお化粧してあげてね、チャイナなんて着させたら可愛いもんだったのよ。

アタシその子にルナって名前を付けた。よく覚えてる、月の綺麗な夜だったから。

 

そこにジンジャーエールのあの子が来た。

彼、びっくりしてたわ。

オカマ、こりゃ違法だよ、なに考えてんだってね。

しょっ引かれたらどうすんだ、それに維持するにしてもこんな型落ちのオンボロ、メンテナンスはおろか裏筋からじゃないとパーツも手に入らねえぜ。なんてボロカス言われちゃって。

いいじゃないどうせバレないわ、それにもう半年もしたらバッテリーがダメになっちゃうしそれまでだけ、ね?たまには変わったことしないと。

なんて言ってたらね、後ろで早速ルナの左手がポロっと取れたの。グラスもガシャーンッ!って割っちゃってね。

あぁ、今思い出しても可笑しいわ。フフフ…

ジンジャーエールの彼も笑ってたわ。まさかここまでオンボロだったとは誰も思ってなかったもの。

だけどこっちも客商売。おててがないとお冷も注げないじゃない?だからとりあえず修理しなきゃね…なんて考えてたら、彼、俺が直すよ、1日この子貸してくれって言うのよ。

 

明くる日、ルナの左手はきっちり直ってたわ。ルナも心なしか嬉しそうだった。

さあそこからが大変だったのよ。

ジンジャーエールの彼はずっとツケで飲むようになるし、アタシはアタシでなんだかルナに愛着が湧いちゃうし。あの子喋りもしなけりゃ気持ちもないただのからっぽのお人形さんのはずなのに、なんだか可愛いのよ。

でももっと大変だったのは彼みたい。

アタシもオカマ長いことやってるとね、恋をしてる目って分かるの。

 

でも楽しい日々は一瞬で過ぎるもの。ルナのバッテリー、ホントに半年でダメになっちゃったの。

悲しいけどお別れ。そう思ってた。

だけどジンジャーエールの彼がね、どういうわけかルナを持ち帰ったの。

すると1週間ほど経って、ルナは戻ってきた。

可笑しいわね、なんだかルナが前より綺麗に見えるの。この子はからっぽのはずなのに。

ジンジャーエールの彼もまた店に顔を出すようになった。

でも彼の右足は、安っぽいブリキの義足に変わってた。

 

その後もルナに不調や故障が出るたびに、彼はルナをどこかに連れて行った。

そしていつしか彼の身体はいわゆる典型的な脱法サイボーグへと変わっていったわ。

アタシもバカじゃないから気付いてた。彼が生身のパーツを売って、ルナを生かしてること。

ルナのボロボロだったスキンの補修が終わる頃、彼の生身と呼べる部分はもうほとんどなくなってたわ。

人間の形を失っていく彼と引き換えにルナはどんどん綺麗になっていく。その頃には脳のコンピューターも付けてもらってて、簡単な会話程度なら交わせるようになってた。もうルナは、人間そのものだったのよ。

でもね、不思議よ。ジンジャーエールの彼ね、もうずっと長いこと彼のこと見てきたつもりだったけど、その時が一番醜くて、美しかったの。恋って不思議ね。

 

でもね、何にでも終わりは付き物でしょ?

彼、最期は心臓を売ったの。心臓を売ったお金で、ルナに超耐久バッテリーを与えてあげた。

彼は死んだわ。

最期の姿はもはや人間ではなかった。

彼の代わりに人間の姿を背負ったルナも、結局はここで働いてるのがバレちゃってね。もう回収されて、スクラップになっちゃったの。

その報せとともにね、ルナのコンピュータに埋められてた記憶チップが帰ってきたの。

I LOVE HIMってプログラミングされてた。

アタシはコンピュータに疎いからわからないけど、それは彼が書いたプログラムなのか、ルナの中で自動生成されたプログラムなのかーー今でもわからないわ。

お客さんはどっちだと思う?

 

 

ごめんなさいね、つまんない話を長々としちゃって。

ジンジャーエール、もう一杯いかがかしら。

 

by beshichan

「向こう側で会おう」DIIVの現在、再出発

今が嘘をつくのをやめる時だと思う。

みんな、向こう側で会おう。

君たちをずっと愛している君たちって君のことだって分かってるよね?

ありがとう、ベイリー、エド、ダニー、ウィル、アマンダ、そしてお母さん

ごめんね

https://www.instagram.com/p/BQEiAT7grl2/

今年の2月、DIIVのZachary Cole Smith はインスタグラムにそう投稿し、薬物依存から脱却するための長い治療へ踏み出した。

 

DIIV は2011年にZachary Cole Smith(以下コール) によってNYで結成されたバンドだ。

2012年にリリースされたファーストアルバムOshin はジャンルを代表する10年代の名盤となり、方々のメディアにDIIV は絶賛され、日本にもたくさんのファンを生んだ。

リーダーのコールは作詞作曲はもちろんバンドのビデオも自らプロデュースしている。How Long Have You Known? は言わずと知れた彼らの代表曲、この曲のビデオを見ればDIIVがどういうバンドなのか分かるはずだ。

金髪のコールが自分の世界を小さなカプセルに詰めて飲み込む姿は、異常であると同時に普遍的だ。鮮やかな瞬間を生きる繊細で未熟なロックスターの姿に多くの若者が共感を覚えたはずだし、ぼくも彼に憧れ髪を染めた。とにかく、そんな彼らのデビューに誰もが華やかな活躍を思い描いたのだ。

www.youtube.com

しかし、その向こうでDIIVを待ち受けていたのは暗くて濁った未来だった。コールは薬物に溺れ、たくさんのものを失った。社会の信用、恋人、友人、そんな何もかもを彼は失った。

去年リリースされた新作、4年かけてやっとの思いで完成させたセカンドアルバム"Is The Is Are" も、それまでにあったたくさんのゴシップの陰に霞んだか、前作ほどの評価を得られなかった。ドラッグをすっきり止めてクリーンな状態で書かれたという、せっかくのカラフルな新しい曲たちもDIIV というバンドの名と共にだんだんと忘れられていった。 

そして今年2月、コールが薬物依存の治療のため予定されていたツアーをキャンセルし施設に入った。コールがドラッグをキッパリ止めていたと思っていたぼくはそれを聞いて本当に残念に思ったし、きっと彼はそのうち壊れて死んでしまうんじゃないかと真剣に思っていた。

 

 

ずいぶんぼくは心配していたが、彼のリハビリはなんとか上手く進んだようだ。(本当だという証拠はないが)

最近のインタビュー記事には施設でのリハビリの様子がかなり詳しく記されている。コールは1カ月ほど施設に閉じ込められたという。限られた曲しか入っていないオーディオプレイヤーで何度も音楽を聴き、アコースティックギターを弾いた。素面で居続ける苦痛に耐えながら、彼は再び純粋に音楽と向き合った。

そして4月になりコールは、リハビリ期間中に自らを支えた音楽をカバーしYouTubeに投稿した。

5月にはまた少しずつライブをこなし始める。

(以下はザカリーによるCow (by Sparklehorse) カバー音源だ。) 

www.youtube.com

 

『前のアルバムでは本当につまらない真似を、みんなが素通りして然るべきことをしてしまったんだ。「正気で居続けるなんて簡単さ。このアルバムはそうやって作ったんだ。」なんて言って。実際素面で居続けることは大変なことだし、本当に苦痛なんだ。』

前作で作り上げた理性的な世界は自分とファン両方に対する大嘘だったとインタビュー記事で明かしている。

ドラッグは当然のことアルコールも断って完全に正気に生き続けることで、これから彼は自分自身に、ファンの皆に謝っていくつもりだ。

DIIV's Zachary Cole Smith speaks out in first interview since rehab stint

今、コールは自分と向き合い、偽らず真摯に音楽に取り組んでいるように見える。

 

 

 

 

治療を開始すると宣言した半年後、8月6日に行われたMurmrr Theatre でのアコースティックショーはDIIV の再出発を印象付ける鮮やかな公演となった。

スクリーンに流れる色とりどりの雫、蝋燭や花で飾られたステージ。そこで観客は見たのは、ノイズに頼らない裸の音、ありのままのDIIV、偽りのないザッカリーコールスミスの姿だったに違いない。

過去の名曲は新しいアレンジで顔を見せ(Wait では元Beach Fossils のトムが客演しサックスを吹いた)、彼に影響を与えた音楽やリハビリ生活を支えた音楽もカバーされた(Eliot Smith, My Bloody Valentine, Beck, Girls, Alex G)。この今までと少し向きの違う音たちには新しいDIIVのこれから進む道が暗示されているのかもしれない。

どうやらYouTubeを見る限り新曲も披露されたようだ。きっと遠くない未来、3枚目のアルバムがぼくらの元へ届くのだろう。

DIIV - Honey (NEW SONG) @ Murmrr theater - YouTube

 

8月にMurmrr Theatre で本格的に再スタートを切った彼らは現在アジアツアーの真っ最中だ。

きっともう彼らを心配することはないだろう。そう信じたい。

少なくとも、彼は半年間素面を貫いている。クリーンで理性を保った新しいDIIV にもそろそろ期待して良いのではないだろうか。

 

先日ぼくはDIIVのアジアツアー初日をバンコクで無事見届けたので、次の記事ではその模様を詳しくお伝えします。

 

by Merah aka 鈴木レイヤ

 

本記事は以下のサイトの情報を参考にしました。

www.billboard.com

theknow.denverpost.com

メイナードキーナン、プから聞くか オから聞くか

どうも。

 

それは侵入せんとするいかなる猛者をもはねのける強靭な要塞のようであり、百戦錬磨の武将の巨大な体躯のごとき揺るぎなさ、その所作からにじみ出る禍々しさのような、あまりにも近寄りがたい存在であった...

 

何のことを言ってるかお分かりでしょうか。はい、あれです。Toolです。

 

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引用元:Blabbermouth.net

 

21世紀を代表するプログレバンドとして圧倒的な評価を得、大御所プログレバンドKing Crimsonともツアーを回ったことがあるほどの押しも押されぬ大物バンドであり、ボーカルのMaynard James Keenan(画像の一番右)はRATMやdeftonesなどにも客演をし、同世代の多くのバンドからリスペクトを勝ち取っている。

 

このバンドは元々、Maynardがある時ハコでバンドを見ていて野次を飛ばし、「じゃあお前がやってみろ」といういざこざを起こした後、挑発に乗ってメンバーをかきあつめたことが契機らしい(出典元)。始まりからして破天荒なバンドであるが、その後も数回のライブをしただけで契約のオファーが殺到したり、来日時に「自分自身に問いかけろ…」と日本語でMCをしたり、興奮してステージに上がってきた客をMaynardが柔道の技で床に叩きつけ、ホールドしてそのまま歌い続けるなど、尋常ならざる話は尽きない。

その一方で知性の欠片もないふざけたアー写(下を参照)を出したり、2006年以降、定期的に新しいアルバムの進捗の報告をしつつも一切進んでるようではなく、BlurのDemon Albarnによる「やめるやめる詐欺」と同様「出す出す詐欺」のバンドとして、ネットの洋ロック界隈の一部では大変親しまれている存在ではある。

  

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引用元:metalinjection.net

 

だからToolの楽曲の魅力を紹介したらみんな聞いてくれて気に入って、はいめでたしめでたし、とはいかないのがこのバンドの難点である。

 

何がこうToolを近寄りづらい存在にさせているのか。

 

聞いてみたら分かるのだが、「プログレ×メタル×鬱」という組み合わせを全てパス出来るリスナーはそうはいない。音が重くてテクニカルならメタラーには打ってつけだが聞いていると気が滅入る。鬱々とした空気ならインディー好きでもついていけるが音が重いし難解だ。彼らのインタビューを読み込んでいくと、彼らのやらんとしていることはUKロック以上に繊細で幽玄な側面もある。だが、アンサンブルを全体で聞くとメタルであり、難解なことは否めない。

また、PVなどのヴィジュアル面でもハードルは高い。グロテスクで混沌としたバンドヴィジュアルは、ギタリストのAdam Jonesが前職のハリウッドでのスキルを活かして作り上げている。彼らのPVの完成度がそこらのセルフメイキングPVと比べるべくもなく高いのは間違いないが、メタル×プログレ×難解×グロという初見殺しカルテットがここにチョモランマの如く屹立している。

しかし、繰り返しになるが、本人達の言行も深掘りしつつ聞いていくと、彼らの音楽の根底はただ難解で暗くて重いのではなく、既存の世界の枠組みへの反感やネガティブな感情を昇華してリスナーへのアジテートを行うという強い意志に根ざされたものである。この音楽性になったのは必然であり、一度音の裏にある彼らの意思に気づくと、熱烈なファンになるのは必至である。

 

と言いつつも、実際聞きにくいのは誰がどう言おうと間違いなく、近年の二作はアルバムチャート全米一位獲得と言われても「マジ? アメリカ病みすぎやろ」と返さざるをえない(もし今の時点でハマった人は速やかにブラウザバックして、YouTubeでPVを見てみよう)。

 

でもメイナードの歌声は素晴らしいし、メタルだからって聞かれないのはもったいない!!

そういうわけで、私は考えた。

 

派生バンドのオルタナ色強いのから聞けばいけるんじゃないか??

 

というわけで今回はMaynard James Keenanの歌声を堪能できる二バンドを紹介し、「メタルもプログレもダメだけど、メイナードキーナンはいいよね」と言ってもらえることを目指そうと思う。話の枕長すぎ。プログレかよ。

 

まず紹介するのはA Perfect Circle(以下APC)

 

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引用元:blabbermouth.net

 

見れば分かる通り、元スマパンのJames Ihaがいる。

これだけでセールスポイントは抜群であろう。

実はまだスタジオのレコーディングでは参加していないが、6年間の活動休止の前後を通して今日まで参加し続けている立派なメンバーである。

 

このバンド、実はMaynardの別バンドというよりは、ToolやSmashing Pumpkins、Nine Inch NailsなどのギターテクをしていたBilly Howerdel(写真のスキンヘッド)が主体となって立ち上げたバンドで、二人以外のメンバーは流動的であり、結成時には二人の他に現行PixiesのベーシストPaz LenchantinとQOTSAのギタリストTroy Van Leeuwen、PrimusのドラマーTim Alexanderが在籍していた他に、その後もUSオルタナの大物バンドのメンバーが入れ替わり参加している。

 

肝心のサウンドについてだが、ソングライティングはBillyが主体となっているため、Toolのとっつきにくさは薄れ、繊細ながらも力強いMaynardのボーカルスタイルの、「静」の部分を味わうことができる王道オルタナロックが基盤となっている(Billyがリードボーカルをとることもある)。

 

 

NINのTrent Reznorも作曲クレジットに記載されてる話題性十分なこの曲は、Keanu Reeves主演の映画「コンスタンティン」の挿入歌でPVも映画の映像を使っており、Toolとはかなり毛色が違う。

それでもMaynardの歌声にこもるカリスマ性は全く消え去っておらず、USオルタナも嫌いじゃないよ〜という人はUKロック派でも是非聞いてもらいたい。

TV出演やライブ映像のリリースなど、初期以外一切プロショットのライブ映像のないToolとは打って変わってメンバーの露出も多く、ここからToolを知ったというケースもあるのだそう。

 

なんせ、デビュー直後の来日はチケットが売れなさ過ぎて中止になったToolに対して、APCは話題性十分のメンバーにオルタナの王道を行くサウンドだったために、Toolがレーベルとの訴訟などで音楽活動が制限されている間にちゃかり先に来日してしまうという珍事すら起きているのである。

 

 

今年はオリジナルアルバムとしては13年ぶり(前作は12曲中10曲がカバーだったので、厳密には14年ぶり)の新作がアナウンスされており、Ihaがアルバム制作の段階から貢献しているのが楽しみなのはもちろん、それに伴うツアーも発表されており、今までのアルバムツアーで来日していることを考えると、この一年はオルタナ界隈ではAPCが一番アツいバンドになるかもしれない。(レーベルと新しく契約してライブでは新曲をやってるので、てっきり出すものと思い込んでいたんですが今年アルバムが出ることはないと公式が否定していました…ライブで新曲を二曲披露しているので近々何かしらの動きはあるかと思います)

→結局新作出ました!!

 

個人的にはImagineの短調カバーが好きなので、上の一曲でなんとなく気に入った人は是非聞いてみてください。

 

 

そしてお次はMaynardのソロプロジェクト。

みなさん、お口に牛乳を含んでお読みください。

 

その名も...!!

 

 

 

 

 

Puscifer!!

 

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引用元:rollinstone.com

 

 そうです、下ネタのアレです。

デビューアルバムは「マはマ◯◯のマ!!」といった有様で、Toolのイメージから180°ずれた、品性が最低な脱力打ち込みプロジェクト、でした。

でした、と過去形になるのはワケがある。

Maynardのいまいち掴めない独特なユーモアがこの名義でのメインにあるのは変わりないが、段々とより真面目な曲作りがなされるようになっており、APCよりも更にメタル色が弱く、3バンドの中で一番聞きやすいオルタナティブロックサウンド(打ち込み要素も以前健在である)となっている。

 

 

これは2015年のアルバム「Money Shot」の一曲だが、ここまでくるとメタル×プログレ×難解×グロのカルテットは一つも見当たらない。いたって普通のオルタナの良曲だ。

そうは言ってもライブではメンバーの後ろで延々とプロレスをやっている珍妙な光景が観れるのでやはり変なバンドではある。

 

 

 

と、ここまで貼ってきた動画を少しずつでも見てくれたなら分かるだろうだろうが、Maynardの歌い方はそれほどメタルらしいものではない。囁くように歌うかと思ったら叫んだりもするが、その叫び方も耳障りではなく、どこか感傷的である。

いきなりToolを押し付けて、おおぅ!とどハマりする人はそれほど多くはないだろうが、それがダメでも先にオルタナのボーカルとしてのMaynardを聞いていたなら、おそらくToolのサウンドも以前ほどとっつきにくいとは思わなくなっているだろう。再び繰り返すが、Toolというバンドはサウンドこそメタルであるが、UKロックと同じく繊細な表現に長けたバンドであるのだ。だからこそ、普段はこういうジャンルには疎いロック好きにも広まって欲しい、そういった思いでこの記事を執筆した。

 

Toolが狭い界隈で圧倒的支持を受けながらも他の界隈に侵食しないのはある程度仕方ないと思うところはあるが、この記事を見て、「苦手だけどA Perfect Circleなら聞けるかな」「いい声してるよね」とか、ちょっとでも好意的な意見が生まれたら自分は満足だ。

 

以上、ミヨシでした。

遠い昔ここへ来たことがあるような気がする 『Every Country's Sun / Mogwai』

 

先月の来日公演での圧倒的なパフォーマンスが記憶に新しいMogwai 、9月1日にリリースされた彼らにとって9作目のとなるスタジオアルバム"Every Country's Sun" について今日は書きたいと思う。

これが基地からの最初の文化紹介というわけでで多少緊張しているが、予定通り気楽に綴ろうと思う。

 

モグワイは穏やかさと荒々しさの両方を武器に、とことん音で魅せてくるタイプのとても素敵なスコットランド出身のロックバンドだ。今までにリリースされた10枚以上のアルバムたち実は外れなくどれもこれも素晴らしい。本能に訴えかける美しさと力強さを秘めるその音楽、もうハマってしまえば2年くらいはそれだけでも食いつなげるので当面は食べ物の心配はしなくてよくなるほど。

 

さて、バンドの紹介はこれくらいにしておいて新作"Every Country's Sun"の紹介に移ろうか。前作Rave Tapes は時として客を選ぶダークで不穏しかしワクワクするサウンドを基調としていた。それに比べ今作では、どうしても沈みゆく太陽を受けながら聴きたくなるような音が鳴り響いている。モグワイをなかなか好きになれない方々にも是非一聴してほしい作品なのだ。

全体を通して、最近の作品より鮮やかに丸みを帯びた印象があるし、独特の圧迫感に居心地の悪さを感じずにいられなかったあなたもきっと、すんなりと曲の起伏に身を委ねられるし、ゆっくり美しい音色に沈みこめると思う。

あのモグワイ特有の毒味、おどろおどろしさは今作には一切ない。安心して欲しい。

 

今回のアルバム制作に際しニューヨーク州の片田舎にあるTurbox Recording Studio へ入った時、きっとモグワイの皆さんは

“ファンのほとんどが、店頭でのアルバム購入やコンサートのついで以外には日光を浴びる機会もない引きこもりで、もう本当にどうしようもない”

という事実を思い出したんだろう。

 

それで、外に出て風景をBGMにしてアルバムを歩くたくなるような作品を作ったに違いないし、ひょっともすればこれは秋鬱予防も兼ねた彼らからのプレゼントなのかもしれない。

 

http://www.tarboxroadstudios.com/tarbox/Photos/Pages/Mogwai_files/Media/IMG_4536/IMG_4536.jpg?disposition=download

(スタジオで撮影されたメンバーとプロデューサーのデイヴ(左端)の微笑ましい一枚、他にもいくつかTarbox Recording Studio の公式サイトにアップされています)

 

とても気に入ったのでたくさん感想を書きたいと思う、是非読んで!(これを全部読めば長尺の曲にも耐性がつくはず。 )

じゃあ、一曲目から順番に聴きながら書いていくから、できれば聴きながらどうぞ!

open.spotify.com

 

 

1. Coolverine

5月のある昼下がりラジオ番組のBBC6にて今作からの最初の曲は公開された。

曲が流れるまでスチュアートがMCと話していたのだがそんなに聴き取れなかった。ジョンが脱退したからギターが忙しくなったとか、年末のグラスゴーでのライブがなんとか、新曲はトレントレズナー等と作ったBefore The Flood にインスパイアされたとか、そんな話をしていたはず。

インタビューを聞き取るのに疲れ始めた頃、やっとイントロがタララララララと流れ始める。

さて、このファーストシングルはSteve Reich のElectric Counterpoint にそっくりなギターの反復という今までのモグワイとは少し雰囲気の違う音色で始まる。そのミニマルなギターの音色の上にすらすらと他の音が重ねられていき、早い段階で曲はいわゆるモグワイとして進み始める。あとはインタビューでも言っていた通り、この曲からは全体的に(特にドラムやシンセから)Before The Flood の名残とか。だからあの時は新譜は少しHappy Songs...感のあるBefore The Flood の続編になるのかな?なんて思っていた。

曲の展開はいつものモグワイ、賑やかなのに不思議と何処からか空白が聞こてくえる、そうこうしていると最初のミニマルなギターのループがまた静かに浮かび上がってきてフェイドアウトしながら曲は終わる。

ちなみにその時のインタビューはこちらから。

www.bbc.co.uk

 

2. Party In The Dark

Coolverine のリリースから一ヶ月半後に発表されたこの曲は世に言うポストパンクだ。まあとにかく去年のマイナーヴィクトリーズと点線で繋いでみて納得したフリをしながら「すご〜い!!どんなジャンルでも卒なくこなせる夜のフレンズなんだね〜!!」と頭の中で何度も唱えた。それにしても予想外すぎてこの曲の発表から一ヶ月と二週間、アルバムについて考えるのを一切やめてしまったし、あのジャケも本当に胡散臭く映って仕方がなかった。まあ意外性に全振りした不穏な良曲。(当然その日の僕はシングルB面に収録されるもっと変な曲について知る由もなかった)

ちなみにHCANでこの曲を生で聴いたのだが、スチュアートはめちゃくちゃ歌がヘタクソだったし、ここまでノリがいい曲でもポストロックファンは決して跳ねなかった(チアーズ)。

↓以下はバンドのボス、スチュアートがボーカルについて話してる動画

 

3. Brain Sweeties

低音のパルスに乱れされる波形、それに伝導されるかのように広がるギター、アンビエントなサウンドスケープはどこか生き物の様、アトミックでSFな仕上がりの3曲目。

話を聞くところによると、この曲は元々もうちょっと静かだったらしい、それ以外は何言ってるかわからず。(翻訳隊よろしゅう。以下プチ解説↓)

 

4. Crossing the Road Material

この曲とはアルバムリリースより一足早くHCANにて相見えることになったのだが。セットが始まり4曲目にしてこの曲を叩きつけられ、耳は早速物理的快感によがった。そしてぼくは思わず天を仰ぎメッセの無機質な梁を目の当たりにし現実へ一瞬戻った、のだがそれは置いといて。

この曲のもたらす快感は、とてもとても長いなだらかな坂を自転車で下る時の爽快感に相似している。

詳しく人体の仕組みを知っているわけではないが、足を地面から離したその瞬間に脳は風を切る快感を予測しドーパミンを送りはじめるんだと思う。まだゆっくり滑り始めたばかりなのにぼくたちはワクワクして仕方がなくなるし、ゆっくり景色を楽しむつもりでいたのに、漕がずとも進むと分かっているのに、我慢ができなくなって思わずもうペダルを踏んでしまうだろう。一瞬で景色は穏やかに流れるのをやめてしまい、空だけが最高速度の自転車を追いかける。坂が終わってしまってゆっくり速度が落ちてなお興奮は冷めない、心臓の鼓動で耳は痛いし、快感は疲れも知らず身体中を駆け巡っている。

やがてにわかに汗をかいていることに気づき道路脇のコンビニに入るところでこの曲は幕を下ろす。

バっちしハマった。

この曲に気持ちが良い以外の感想はいらない。

(こちらもTwitterにてちょっとしたコメント動画↓) 

 

5. aka 47

5曲目であるこの曲は、さっきの続き、コンビニエンスストアの空調にゆったり当たりながらラックにある雑誌のグラビアページを手繰る場面で始まる。

という冗談はさておき、大真面目な話この曲はアルバムで一番気に入っている曲。初めて聞いたその瞬間にこの曲はこのアルバムで一番好きになるだろうと思ったし、今も一番好きだ。ひょっとしたら来年ごろにはMogwaiで一番気に入っている曲と抜かしているかもしれない。

この曲、良すぎてイントロが流れた瞬間「あぁこれ…」と思わず息を漏らしてしまった。 悪名高いあのソ連製アサルトライフルAK-47をもじったとしか思えない題から受ける印象とは対照的に静かな曲だ。ひょっとしたら銃の名前ではなく日本に都道府県が47個ある事実が題の由来なのではと深読みしてしまうほど凶悪さが見えない曲だ(モグワイは超親日バンドなのでひょっとしたら有り得る)

鍵盤は泡のように次々と湧いては散っていき、ギターの音色が濁った水面の向こうからぬっと浮かび上がりゆっくりと優雅に泳ぎ回る、存在を主張するようにさっと横切っては消えていく小さな音の断片たちは様々でいつまでも聴いていたい、なんだか落ち着く心地よい、モグワイ好きになったばかりの頃はさっさと寝落ちしてたタイプの曲である。

本当に好きだ。

ぼくはどうしても、この曲を聴きながら行ったことのない土地へ赴き

「遠い昔ここへ来たことがあるような気がする…」

とつぶやきたい。

 

6. 20 size

『ノイズは気だるそうに静かに首をもたげ、ゆっくり身体を伸ばし終わったら一瞬沈みこんでさっと、まるで白鳥のように身軽に宙へ羽ばたく。』

某ファンタジー脳さんが《ドラゴン*起床から飛翔型》と定義したモグワイの基本形式に則った曲である。完全にトラック5のaka 47 とセットなのでバラバラにプレイリストに入れたら良くない。

もうアナログ盤を買った日には、自転車曲(track4)と池/ドラゴン組曲(track5/6)が仲良く並んでいる1枚目B面ばかり聴いてしまいそうなので、ぼくは極力早くアナログ盤購入の目処をつけたい。

 

7. 100 Foot Face

モグワイの一つの持ち味である“毒味とおどろおどろしさ”を一切加えずに、優しくて静か、どこか不安げでどこまでも美しく仕上げた曲。そして歌付きだ。

『こんな素晴らしいものがまだ世界にはあったのか!生きていて良かった!』と叫ぶあの音楽あるあるにここでまた遭遇した方はかなり多いと思う。ぼくもその一人で聴くなり感情が決壊してしまったし、ベッドの上でしゃちほこのポーズをとった。

この曲にしろtrack5のaka 47 にしろそうだが入門者を心地よく寝かしつけられるタイプの曲がしっとり馴染んで、更にここまで引き立っている。こんなアルバム、古くからのファンにとっては随分久しぶり、感動の再会なんじゃないだろうか。ぼくもこういうのめっちゃ好きだ。

ジョンカミングスの脱退という情報のインパクトを頭から振り払えないリスナーの心の隙間、それをあえて埋めようとせずに、虚ろで不安げな美しいサウンドと共存させた。作為か無作為かはさておき、このアルバムは想像以上に最適な響きを確実に鳴らしている。

 

8. Don't Believe the Fife

Fife とはなんぞやと思ったので調べてみたのだが、スコットランド東部の地名らしい、あと横笛という意味もあるそう。まあ大概の場合は曲名に意味なんてないらしいので深く考えないでおく。(最近アップされたFasion Post でのインタビュー記事にて曲名がPablic Enemy のDon't Believe the Hype をもじったものだと明かされている。)

徐々に膨らんでって順調に爆発するタイプの曲で気持ちいい。自転車のあれとはちょっと違って、打ち上げ花火の山に長い導火線を繋げて遠くから火をつけぼーっと眺めてる感じ。是非ともライブで見たい。ドカーンばちばちドカードカーンパチッパチッ

 

9. Battered At a Scramble

お待ちかねのあの曲。ホステスクラブウィークエンダーのセットでは中盤に登場したのだがこの辺りから耳が痛くなった。ステージではサポートメンバーでイケメン兼頭髪兼若者兼ギター兼キーボード担当のアレックス君が『見るモグワイ』を教えてくれた。もしアルバムを気に入ったなら機会が出来次第ライブに足を運んで欲しい。どんな曲かなってワクワク聴いてたら、一気にギターが喚き始めてもういい加減にして欲しいってくらい楽しくなる曲なのでこれはもう篭ってても仕方がない。アルバム音源も聴いててもとても楽しいし気持ちもどんどん高まるのだが実はこれもう最後から3曲目。

*追記:三ヶ月経ってようやく認めることができたのだが、僕はこの曲がアルバムでaka 47に次ぐレベルで好きな様だ。そんなに好きだという意識はなかったのに、不思議なものです。

 

10. Old Poisons

読者諸君「これはこれは、最後の最後にやっぱりあるじゃあないですか?おどろおどろしい毒味の強い曲!!」

ぼく「曲名に引っ張られすぎだ。ちゃんと聴けばとても静かで長閑な曲だろう?音量を最大にして耳を⁄澄⁄⁄まs⁄⁄$!¡¡⁄+@>⁄☆⁄⁄⁄⁄“§%¡¡¡⁄⁄」⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄»’»»

 

11. Every Country's Sun

最後を締め括るこのタイトルトラックはまるで夕日。壮大なフィナーレにして、日の出のプレリュードである。

ゆっくりと雲が橙色に桃色に染められていき、恍惚としているとあっという間に世界は朱色に染まっている…ここまでは世界の大半の壮大ソングがクリアしているのだが、

『マジックアワーに夢中でレンズを向けていて気づいたら辺りは真っ暗、西の地平線を除いては360°濃紺、まるで自分だけ一瞬別の世界に行ってたように感じた』

なんていう黄昏あるあるの最後の「あれっ!?」って場面までを脳内に投映できる音楽はなかなかないように思う。

 

 

 

感想は以上!

 

ここまで読んでくれた方、ご苦労様。そして本当にありがとうございます。

本当に素敵なアルバムですよね、なんだかこれからの季節の空気にも合いそうだし。

ちなみにだが、ぼくは日本盤を入手することが困難な状況にあるのでボーナストラックの感想に関してはだいぶお待たせすることになるかと思う(あっ聴いても追記するとは限らないです)。

あぁ、あと、そういえば日本の夏はもうすっかり終わっちゃったって小耳に挟んだのだけど本当?

暗くなってもカーテンの向こうにまだ夕焼けの残り香が煙っているような晩夏の夜を想定して文を書いてしまったので、さっむ…まじでさみいわ!と感じてる方には深くお詫び申し上げたい。

 

*追記:さぁすっかり冬、もう年末。しかし結局蓋を開けてみれば自分の中で今年一番よかったアルバムがどうやらこれだったようで、はじめの記事が一番よかったアルバムだというのは非常に感慨深いです。

http://www.tarboxroadstudios.com/tarbox/Photos/Pages/Mogwai_files/Media/IMG_4533/IMG_4533.jpg?disposition=download

(前の写真と同じくTarbox Recording Studio 公式サイトから、Pokemon Go をするモグワイの皆さん)

 

ぼくもそろそろEvery Country's Sunを聴きながらお出かけしたいなぁ。

今夜も月は綺麗ですか?

 

by Merah aka 鈴木レイヤ