遠い昔ここへ来たことがあるような気がする 『Every Country's Sun / Mogwai』
先月の来日公演での圧倒的なパフォーマンスが記憶に新しいMogwai 、9月1日にリリースされた彼らにとって9作目のとなるスタジオアルバム"Every Country's Sun" について今日は書きたいと思う。
これが基地からの最初の文化紹介というわけでで多少緊張しているが、予定通り気楽に綴ろうと思う。
モグワイは穏やかさと荒々しさの両方を武器に、とことん音で魅せてくるタイプのとても素敵なスコットランド出身のロックバンドだ。今までにリリースされた10枚以上のアルバムたち実は外れなくどれもこれも素晴らしい。本能に訴えかける美しさと力強さを秘めるその音楽、もうハマってしまえば2年くらいはそれだけでも食いつなげるので当面は食べ物の心配はしなくてよくなるほど。
さて、バンドの紹介はこれくらいにしておいて新作"Every Country's Sun"の紹介に移ろうか。前作Rave Tapes は時として客を選ぶダークで不穏しかしワクワクするサウンドを基調としていた。それに比べ今作では、どうしても沈みゆく太陽を受けながら聴きたくなるような音が鳴り響いている。モグワイをなかなか好きになれない方々にも是非一聴してほしい作品なのだ。
全体を通して、最近の作品より鮮やかに丸みを帯びた印象があるし、独特の圧迫感に居心地の悪さを感じずにいられなかったあなたもきっと、すんなりと曲の起伏に身を委ねられるし、ゆっくり美しい音色に沈みこめると思う。
あのモグワイ特有の毒味、おどろおどろしさは今作には一切ない。安心して欲しい。
今回のアルバム制作に際しニューヨーク州の片田舎にあるTurbox Recording Studio へ入った時、きっとモグワイの皆さんは
“ファンのほとんどが、店頭でのアルバム購入やコンサートのついで以外には日光を浴びる機会もない引きこもりで、もう本当にどうしようもない”
という事実を思い出したんだろう。
それで、外に出て風景をBGMにしてアルバムを歩くたくなるような作品を作ったに違いないし、ひょっともすればこれは秋鬱予防も兼ねた彼らからのプレゼントなのかもしれない。
(スタジオで撮影されたメンバーとプロデューサーのデイヴ(左端)の微笑ましい一枚、他にもいくつかTarbox Recording Studio の公式サイトにアップされています)
とても気に入ったのでたくさん感想を書きたいと思う、是非読んで!(これを全部読めば長尺の曲にも耐性がつくはず。 )
じゃあ、一曲目から順番に聴きながら書いていくから、できれば聴きながらどうぞ!
1. Coolverine
5月のある昼下がりラジオ番組のBBC6にて今作からの最初の曲は公開された。
曲が流れるまでスチュアートがMCと話していたのだがそんなに聴き取れなかった。ジョンが脱退したからギターが忙しくなったとか、年末のグラスゴーでのライブがなんとか、新曲はトレントレズナー等と作ったBefore The Flood にインスパイアされたとか、そんな話をしていたはず。
インタビューを聞き取るのに疲れ始めた頃、やっとイントロがタララララララと流れ始める。
さて、このファーストシングルはSteve Reich のElectric Counterpoint にそっくりなギターの反復という今までのモグワイとは少し雰囲気の違う音色で始まる。そのミニマルなギターの音色の上にすらすらと他の音が重ねられていき、早い段階で曲はいわゆるモグワイとして進み始める。あとはインタビューでも言っていた通り、この曲からは全体的に(特にドラムやシンセから)Before The Flood の名残とか。だからあの時は新譜は少しHappy Songs...感のあるBefore The Flood の続編になるのかな?なんて思っていた。
曲の展開はいつものモグワイ、賑やかなのに不思議と何処からか空白が聞こてくえる、そうこうしていると最初のミニマルなギターのループがまた静かに浮かび上がってきてフェイドアウトしながら曲は終わる。
ちなみにその時のインタビューはこちらから。
2. Party In The Dark
Coolverine のリリースから一ヶ月半後に発表されたこの曲は世に言うポストパンクだ。まあとにかく去年のマイナーヴィクトリーズと点線で繋いでみて納得したフリをしながら「すご〜い!!どんなジャンルでも卒なくこなせる夜のフレンズなんだね〜!!」と頭の中で何度も唱えた。それにしても予想外すぎてこの曲の発表から一ヶ月と二週間、アルバムについて考えるのを一切やめてしまったし、あのジャケも本当に胡散臭く映って仕方がなかった。まあ意外性に全振りした不穏な良曲。(当然その日の僕はシングルB面に収録されるもっと変な曲について知る由もなかった)
ちなみにHCANでこの曲を生で聴いたのだが、スチュアートはめちゃくちゃ歌がヘタクソだったし、ここまでノリがいい曲でもポストロックファンは決して跳ねなかった(チアーズ)。
↓以下はバンドのボス、スチュアートがボーカルについて話してる動画
.@plasmatron talks vocals.
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年8月29日
'Every Country's Sun' is out this Friday
Pre order - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/811peUG4Ye
3. Brain Sweeties
低音のパルスに乱れされる波形、それに伝導されるかのように広がるギター、アンビエントなサウンドスケープはどこか生き物の様、アトミックでSFな仕上がりの3曲目。
話を聞くところによると、この曲は元々もうちょっと静かだったらしい、それ以外は何言ってるかわからず。(翻訳隊よろしゅう。以下プチ解説↓)
.@plasmatron on 'Brain Sweeties'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月2日
Our new album 'Every Country's Sun' is out now - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/2kWshGJEFB
4. Crossing the Road Material
この曲とはアルバムリリースより一足早くHCANにて相見えることになったのだが。セットが始まり4曲目にしてこの曲を叩きつけられ、耳は早速物理的快感によがった。そしてぼくは思わず天を仰ぎメッセの無機質な梁を目の当たりにし現実へ一瞬戻った、のだがそれは置いといて。
この曲のもたらす快感は、とてもとても長いなだらかな坂を自転車で下る時の爽快感に相似している。
詳しく人体の仕組みを知っているわけではないが、足を地面から離したその瞬間に脳は風を切る快感を予測しドーパミンを送りはじめるんだと思う。まだゆっくり滑り始めたばかりなのにぼくたちはワクワクして仕方がなくなるし、ゆっくり景色を楽しむつもりでいたのに、漕がずとも進むと分かっているのに、我慢ができなくなって思わずもうペダルを踏んでしまうだろう。一瞬で景色は穏やかに流れるのをやめてしまい、空だけが最高速度の自転車を追いかける。坂が終わってしまってゆっくり速度が落ちてなお興奮は冷めない、心臓の鼓動で耳は痛いし、快感は疲れも知らず身体中を駆け巡っている。
やがてにわかに汗をかいていることに気づき道路脇のコンビニに入るところでこの曲は幕を下ろす。
バっちしハマった。
この曲に気持ちが良い以外の感想はいらない。
(こちらもTwitterにてちょっとしたコメント動画↓)
.@plasmatron on 'Crossing The Road Material'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月3日
'Every Country's Sun' is out now - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/WKyfxmwmSA
5. aka 47
5曲目であるこの曲は、さっきの続き、コンビニエンスストアの空調にゆったり当たりながらラックにある雑誌のグラビアページを手繰る場面で始まる。
という冗談はさておき、大真面目な話この曲はアルバムで一番気に入っている曲。初めて聞いたその瞬間にこの曲はこのアルバムで一番好きになるだろうと思ったし、今も一番好きだ。ひょっとしたら来年ごろにはMogwaiで一番気に入っている曲と抜かしているかもしれない。
この曲、良すぎてイントロが流れた瞬間「あぁこれ…」と思わず息を漏らしてしまった。 悪名高いあのソ連製アサルトライフルAK-47をもじったとしか思えない題から受ける印象とは対照的に静かな曲だ。ひょっとしたら銃の名前ではなく日本に都道府県が47個ある事実が題の由来なのではと深読みしてしまうほど凶悪さが見えない曲だ(モグワイは超親日バンドなのでひょっとしたら有り得る)。
鍵盤は泡のように次々と湧いては散っていき、ギターの音色が濁った水面の向こうからぬっと浮かび上がりゆっくりと優雅に泳ぎ回る、存在を主張するようにさっと横切っては消えていく小さな音の断片たちは様々でいつまでも聴いていたい、なんだか落ち着く心地よい、モグワイ好きになったばかりの頃はさっさと寝落ちしてたタイプの曲である。
本当に好きだ。
ぼくはどうしても、この曲を聴きながら行ったことのない土地へ赴き
「遠い昔ここへ来たことがあるような気がする…」
とつぶやきたい。
.@plasmatron on 'aka 47'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月6日
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6. 20 size
『ノイズは気だるそうに静かに首をもたげ、ゆっくり身体を伸ばし終わったら一瞬沈みこんでさっと、まるで白鳥のように身軽に宙へ羽ばたく。』
某ファンタジー脳さんが《ドラゴン*起床から飛翔型》と定義したモグワイの基本形式に則った曲である。完全にトラック5のaka 47 とセットなのでバラバラにプレイリストに入れたら良くない。
もうアナログ盤を買った日には、自転車曲(track4)と池/ドラゴン組曲(track5/6)が仲良く並んでいる1枚目B面ばかり聴いてしまいそうなので、ぼくは極力早くアナログ盤購入の目処をつけたい。
.@plasmatron on '20 Size'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月7日
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7. 100 Foot Face
モグワイの一つの持ち味である“毒味とおどろおどろしさ”を一切加えずに、優しくて静か、どこか不安げでどこまでも美しく仕上げた曲。そして歌付きだ。
『こんな素晴らしいものがまだ世界にはあったのか!生きていて良かった!』と叫ぶあの音楽あるあるにここでまた遭遇した方はかなり多いと思う。ぼくもその一人で聴くなり感情が決壊してしまったし、ベッドの上でしゃちほこのポーズをとった。
この曲にしろtrack5のaka 47 にしろそうだが入門者を心地よく寝かしつけられるタイプの曲がしっとり馴染んで、更にここまで引き立っている。こんなアルバム、古くからのファンにとっては随分久しぶり、感動の再会なんじゃないだろうか。ぼくもこういうのめっちゃ好きだ。
ジョンカミングスの脱退という情報のインパクトを頭から振り払えないリスナーの心の隙間、それをあえて埋めようとせずに、虚ろで不安げな美しいサウンドと共存させた。作為か無作為かはさておき、このアルバムは想像以上に最適な響きを確実に鳴らしている。
.@plasmatron on '1000 Foot Face'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月8日
'Every Country's Sun' is out now - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/fkdNQmx7jP
8. Don't Believe the Fife
Fife とはなんぞやと思ったので調べてみたのだが、スコットランド東部の地名らしい、あと横笛という意味もあるそう。まあ大概の場合は曲名に意味なんてないらしいので深く考えないでおく。(最近アップされたFasion Post でのインタビュー記事にて曲名がPablic Enemy のDon't Believe the Hype をもじったものだと明かされている。)
徐々に膨らんでって順調に爆発するタイプの曲で気持ちいい。自転車のあれとはちょっと違って、打ち上げ花火の山に長い導火線を繋げて遠くから火をつけぼーっと眺めてる感じ。是非ともライブで見たい。ドカーンばちばちドカードカーンパチッパチッ
9. Battered At a Scramble
お待ちかねのあの曲。ホステスクラブウィークエンダーのセットでは中盤に登場したのだがこの辺りから耳が痛くなった。ステージではサポートメンバーでイケメン兼頭髪兼若者兼ギター兼キーボード担当のアレックス君が『見るモグワイ』を教えてくれた。もしアルバムを気に入ったなら機会が出来次第ライブに足を運んで欲しい。どんな曲かなってワクワク聴いてたら、一気にギターが喚き始めてもういい加減にして欲しいってくらい楽しくなる曲なのでこれはもう篭ってても仕方がない。アルバム音源も聴いててもとても楽しいし気持ちもどんどん高まるのだが実はこれもう最後から3曲目。
*追記:三ヶ月経ってようやく認めることができたのだが、僕はこの曲がアルバムでaka 47に次ぐレベルで好きな様だ。そんなに好きだという意識はなかったのに、不思議なものです。
10. Old Poisons
読者諸君「これはこれは、最後の最後にやっぱりあるじゃあないですか?おどろおどろしい毒味の強い曲!!」
ぼく「曲名に引っ張られすぎだ。ちゃんと聴けばとても静かで長閑な曲だろう?音量を最大にして耳を⁄澄⁄⁄まs⁄⁄$!¡¡⁄+@>⁄☆⁄⁄⁄⁄“§%¡¡¡⁄⁄」⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄»’»»
11. Every Country's Sun
最後を締め括るこのタイトルトラックはまるで夕日。壮大なフィナーレにして、日の出のプレリュードである。
ゆっくりと雲が橙色に桃色に染められていき、恍惚としているとあっという間に世界は朱色に染まっている…ここまでは世界の大半の壮大ソングがクリアしているのだが、
『マジックアワーに夢中でレンズを向けていて気づいたら辺りは真っ暗、西の地平線を除いては360°濃紺、まるで自分だけ一瞬別の世界に行ってたように感じた』
なんていう黄昏あるあるの最後の「あれっ!?」って場面までを脳内に投映できる音楽はなかなかないように思う。
感想は以上!
ここまで読んでくれた方、ご苦労様。そして本当にありがとうございます。
本当に素敵なアルバムですよね、なんだかこれからの季節の空気にも合いそうだし。
ちなみにだが、ぼくは日本盤を入手することが困難な状況にあるのでボーナストラックの感想に関してはだいぶお待たせすることになるかと思う(あっ聴いても追記するとは限らないです)。
あぁ、あと、そういえば日本の夏はもうすっかり終わっちゃったって小耳に挟んだのだけど本当?
暗くなってもカーテンの向こうにまだ夕焼けの残り香が煙っているような晩夏の夜を想定して文を書いてしまったので、さっむ…まじでさみいわ!と感じてる方には深くお詫び申し上げたい。
*追記:さぁすっかり冬、もう年末。しかし結局蓋を開けてみれば自分の中で今年一番よかったアルバムがどうやらこれだったようで、はじめの記事が一番よかったアルバムだというのは非常に感慨深いです。
(前の写真と同じくTarbox Recording Studio 公式サイトから、Pokemon Go をするモグワイの皆さん)
ぼくもそろそろEvery Country's Sunを聴きながらお出かけしたいなぁ。
今夜も月は綺麗ですか?
by Merah aka 鈴木レイヤ