メイナードキーナン、プから聞くか オから聞くか
どうも。
それは侵入せんとするいかなる猛者をもはねのける強靭な要塞のようであり、百戦錬磨の武将の巨大な体躯のごとき揺るぎなさ、その所作からにじみ出る禍々しさのような、あまりにも近寄りがたい存在であった...
何のことを言ってるかお分かりでしょうか。はい、あれです。Toolです。
引用元:Blabbermouth.net
21世紀を代表するプログレバンドとして圧倒的な評価を得、大御所プログレバンドKing Crimsonともツアーを回ったことがあるほどの押しも押されぬ大物バンドであり、ボーカルのMaynard James Keenan(画像の一番右)はRATMやdeftonesなどにも客演をし、同世代の多くのバンドからリスペクトを勝ち取っている。
このバンドは元々、Maynardがある時ハコでバンドを見ていて野次を飛ばし、「じゃあお前がやってみろ」といういざこざを起こした後、挑発に乗ってメンバーをかきあつめたことが契機らしい(出典元)。始まりからして破天荒なバンドであるが、その後も数回のライブをしただけで契約のオファーが殺到したり、来日時に「自分自身に問いかけろ…」と日本語でMCをしたり、興奮してステージに上がってきた客をMaynardが柔道の技で床に叩きつけ、ホールドしてそのまま歌い続けるなど、尋常ならざる話は尽きない。
その一方で知性の欠片もないふざけたアー写(下を参照)を出したり、2006年以降、定期的に新しいアルバムの進捗の報告をしつつも一切進んでるようではなく、BlurのDemon Albarnによる「やめるやめる詐欺」と同様「出す出す詐欺」のバンドとして、ネットの洋ロック界隈の一部では大変親しまれている存在ではある。
だからToolの楽曲の魅力を紹介したらみんな聞いてくれて気に入って、はいめでたしめでたし、とはいかないのがこのバンドの難点である。
何がこうToolを近寄りづらい存在にさせているのか。
聞いてみたら分かるのだが、「プログレ×メタル×鬱」という組み合わせを全てパス出来るリスナーはそうはいない。音が重くてテクニカルならメタラーには打ってつけだが聞いていると気が滅入る。鬱々とした空気ならインディー好きでもついていけるが音が重いし難解だ。彼らのインタビューを読み込んでいくと、彼らのやらんとしていることはUKロック以上に繊細で幽玄な側面もある。だが、アンサンブルを全体で聞くとメタルであり、難解なことは否めない。
また、PVなどのヴィジュアル面でもハードルは高い。グロテスクで混沌としたバンドヴィジュアルは、ギタリストのAdam Jonesが前職のハリウッドでのスキルを活かして作り上げている。彼らのPVの完成度がそこらのセルフメイキングPVと比べるべくもなく高いのは間違いないが、メタル×プログレ×難解×グロという初見殺しカルテットがここにチョモランマの如く屹立している。
しかし、繰り返しになるが、本人達の言行も深掘りしつつ聞いていくと、彼らの音楽の根底はただ難解で暗くて重いのではなく、既存の世界の枠組みへの反感やネガティブな感情を昇華してリスナーへのアジテートを行うという強い意志に根ざされたものである。この音楽性になったのは必然であり、一度音の裏にある彼らの意思に気づくと、熱烈なファンになるのは必至である。
と言いつつも、実際聞きにくいのは誰がどう言おうと間違いなく、近年の二作はアルバムチャート全米一位獲得と言われても「マジ? アメリカ病みすぎやろ」と返さざるをえない(もし今の時点でハマった人は速やかにブラウザバックして、YouTubeでPVを見てみよう)。
でもメイナードの歌声は素晴らしいし、メタルだからって聞かれないのはもったいない!!
そういうわけで、私は考えた。
「派生バンドのオルタナ色強いのから聞けばいけるんじゃないか??」
というわけで今回はMaynard James Keenanの歌声を堪能できる二バンドを紹介し、「メタルもプログレもダメだけど、メイナードキーナンはいいよね」と言ってもらえることを目指そうと思う。話の枕長すぎ。プログレかよ。
まず紹介するのはA Perfect Circle(以下APC)
引用元:blabbermouth.net
見れば分かる通り、元スマパンのJames Ihaがいる。
これだけでセールスポイントは抜群であろう。
実はまだスタジオのレコーディングでは参加していないが、6年間の活動休止の前後を通して今日まで参加し続けている立派なメンバーである。
このバンド、実はMaynardの別バンドというよりは、ToolやSmashing Pumpkins、Nine Inch NailsなどのギターテクをしていたBilly Howerdel(写真のスキンヘッド)が主体となって立ち上げたバンドで、二人以外のメンバーは流動的であり、結成時には二人の他に現行PixiesのベーシストPaz LenchantinとQOTSAのギタリストTroy Van Leeuwen、PrimusのドラマーTim Alexanderが在籍していた他に、その後もUSオルタナの大物バンドのメンバーが入れ替わり参加している。
肝心のサウンドについてだが、ソングライティングはBillyが主体となっているため、Toolのとっつきにくさは薄れ、繊細ながらも力強いMaynardのボーカルスタイルの、「静」の部分を味わうことができる王道オルタナロックが基盤となっている(Billyがリードボーカルをとることもある)。
NINのTrent Reznorも作曲クレジットに記載されてる話題性十分なこの曲は、Keanu Reeves主演の映画「コンスタンティン」の挿入歌でPVも映画の映像を使っており、Toolとはかなり毛色が違う。
それでもMaynardの歌声にこもるカリスマ性は全く消え去っておらず、USオルタナも嫌いじゃないよ〜という人はUKロック派でも是非聞いてもらいたい。
TV出演やライブ映像のリリースなど、初期以外一切プロショットのライブ映像のないToolとは打って変わってメンバーの露出も多く、ここからToolを知ったというケースもあるのだそう。
なんせ、デビュー直後の来日はチケットが売れなさ過ぎて中止になったToolに対して、APCは話題性十分のメンバーにオルタナの王道を行くサウンドだったために、Toolがレーベルとの訴訟などで音楽活動が制限されている間にちゃかり先に来日してしまうという珍事すら起きているのである。
今年はオリジナルアルバムとしては13年ぶり(前作は12曲中10曲がカバーだったので、厳密には14年ぶり)の新作がアナウンスされており、Ihaがアルバム制作の段階から貢献しているのが楽しみなのはもちろん、それに伴うツアーも発表されており、今までのアルバムツアーで来日していることを考えると、この一年はオルタナ界隈ではAPCが一番アツいバンドになるかもしれない。(レーベルと新しく契約してライブでは新曲をやってるので、てっきり出すものと思い込んでいたんですが今年アルバムが出ることはないと公式が否定していました…ライブで新曲を二曲披露しているので近々何かしらの動きはあるかと思います)
→結局新作出ました!!
個人的にはImagineの短調カバーが好きなので、上の一曲でなんとなく気に入った人は是非聞いてみてください。
そしてお次はMaynardのソロプロジェクト。
みなさん、お口に牛乳を含んでお読みください。
その名も...!!
Puscifer!!
引用元:rollinstone.com
そうです、下ネタのアレです。
デビューアルバムは「マはマ◯◯のマ!!」といった有様で、Toolのイメージから180°ずれた、品性が最低な脱力打ち込みプロジェクト、でした。
でした、と過去形になるのはワケがある。
Maynardのいまいち掴めない独特なユーモアがこの名義でのメインにあるのは変わりないが、段々とより真面目な曲作りがなされるようになっており、APCよりも更にメタル色が弱く、3バンドの中で一番聞きやすいオルタナティブロックサウンド(打ち込み要素も以前健在である)となっている。
これは2015年のアルバム「Money Shot」の一曲だが、ここまでくるとメタル×プログレ×難解×グロのカルテットは一つも見当たらない。いたって普通のオルタナの良曲だ。
そうは言ってもライブではメンバーの後ろで延々とプロレスをやっている珍妙な光景が観れるのでやはり変なバンドではある。
と、ここまで貼ってきた動画を少しずつでも見てくれたなら分かるだろうだろうが、Maynardの歌い方はそれほどメタルらしいものではない。囁くように歌うかと思ったら叫んだりもするが、その叫び方も耳障りではなく、どこか感傷的である。
いきなりToolを押し付けて、おおぅ!とどハマりする人はそれほど多くはないだろうが、それがダメでも先にオルタナのボーカルとしてのMaynardを聞いていたなら、おそらくToolのサウンドも以前ほどとっつきにくいとは思わなくなっているだろう。再び繰り返すが、Toolというバンドはサウンドこそメタルであるが、UKロックと同じく繊細な表現に長けたバンドであるのだ。だからこそ、普段はこういうジャンルには疎いロック好きにも広まって欲しい、そういった思いでこの記事を執筆した。
Toolが狭い界隈で圧倒的支持を受けながらも他の界隈に侵食しないのはある程度仕方ないと思うところはあるが、この記事を見て、「苦手だけどA Perfect Circleなら聞けるかな」「いい声してるよね」とか、ちょっとでも好意的な意見が生まれたら自分は満足だ。
以上、ミヨシでした。
遠い昔ここへ来たことがあるような気がする 『Every Country's Sun / Mogwai』
先月の来日公演での圧倒的なパフォーマンスが記憶に新しいMogwai 、9月1日にリリースされた彼らにとって9作目のとなるスタジオアルバム"Every Country's Sun" について今日は書きたいと思う。
これが基地からの最初の文化紹介というわけでで多少緊張しているが、予定通り気楽に綴ろうと思う。
モグワイは穏やかさと荒々しさの両方を武器に、とことん音で魅せてくるタイプのとても素敵なスコットランド出身のロックバンドだ。今までにリリースされた10枚以上のアルバムたち実は外れなくどれもこれも素晴らしい。本能に訴えかける美しさと力強さを秘めるその音楽、もうハマってしまえば2年くらいはそれだけでも食いつなげるので当面は食べ物の心配はしなくてよくなるほど。
さて、バンドの紹介はこれくらいにしておいて新作"Every Country's Sun"の紹介に移ろうか。前作Rave Tapes は時として客を選ぶダークで不穏しかしワクワクするサウンドを基調としていた。それに比べ今作では、どうしても沈みゆく太陽を受けながら聴きたくなるような音が鳴り響いている。モグワイをなかなか好きになれない方々にも是非一聴してほしい作品なのだ。
全体を通して、最近の作品より鮮やかに丸みを帯びた印象があるし、独特の圧迫感に居心地の悪さを感じずにいられなかったあなたもきっと、すんなりと曲の起伏に身を委ねられるし、ゆっくり美しい音色に沈みこめると思う。
あのモグワイ特有の毒味、おどろおどろしさは今作には一切ない。安心して欲しい。
今回のアルバム制作に際しニューヨーク州の片田舎にあるTurbox Recording Studio へ入った時、きっとモグワイの皆さんは
“ファンのほとんどが、店頭でのアルバム購入やコンサートのついで以外には日光を浴びる機会もない引きこもりで、もう本当にどうしようもない”
という事実を思い出したんだろう。
それで、外に出て風景をBGMにしてアルバムを歩くたくなるような作品を作ったに違いないし、ひょっともすればこれは秋鬱予防も兼ねた彼らからのプレゼントなのかもしれない。
(スタジオで撮影されたメンバーとプロデューサーのデイヴ(左端)の微笑ましい一枚、他にもいくつかTarbox Recording Studio の公式サイトにアップされています)
とても気に入ったのでたくさん感想を書きたいと思う、是非読んで!(これを全部読めば長尺の曲にも耐性がつくはず。 )
じゃあ、一曲目から順番に聴きながら書いていくから、できれば聴きながらどうぞ!
1. Coolverine
5月のある昼下がりラジオ番組のBBC6にて今作からの最初の曲は公開された。
曲が流れるまでスチュアートがMCと話していたのだがそんなに聴き取れなかった。ジョンが脱退したからギターが忙しくなったとか、年末のグラスゴーでのライブがなんとか、新曲はトレントレズナー等と作ったBefore The Flood にインスパイアされたとか、そんな話をしていたはず。
インタビューを聞き取るのに疲れ始めた頃、やっとイントロがタララララララと流れ始める。
さて、このファーストシングルはSteve Reich のElectric Counterpoint にそっくりなギターの反復という今までのモグワイとは少し雰囲気の違う音色で始まる。そのミニマルなギターの音色の上にすらすらと他の音が重ねられていき、早い段階で曲はいわゆるモグワイとして進み始める。あとはインタビューでも言っていた通り、この曲からは全体的に(特にドラムやシンセから)Before The Flood の名残とか。だからあの時は新譜は少しHappy Songs...感のあるBefore The Flood の続編になるのかな?なんて思っていた。
曲の展開はいつものモグワイ、賑やかなのに不思議と何処からか空白が聞こてくえる、そうこうしていると最初のミニマルなギターのループがまた静かに浮かび上がってきてフェイドアウトしながら曲は終わる。
ちなみにその時のインタビューはこちらから。
2. Party In The Dark
Coolverine のリリースから一ヶ月半後に発表されたこの曲は世に言うポストパンクだ。まあとにかく去年のマイナーヴィクトリーズと点線で繋いでみて納得したフリをしながら「すご〜い!!どんなジャンルでも卒なくこなせる夜のフレンズなんだね〜!!」と頭の中で何度も唱えた。それにしても予想外すぎてこの曲の発表から一ヶ月と二週間、アルバムについて考えるのを一切やめてしまったし、あのジャケも本当に胡散臭く映って仕方がなかった。まあ意外性に全振りした不穏な良曲。(当然その日の僕はシングルB面に収録されるもっと変な曲について知る由もなかった)
ちなみにHCANでこの曲を生で聴いたのだが、スチュアートはめちゃくちゃ歌がヘタクソだったし、ここまでノリがいい曲でもポストロックファンは決して跳ねなかった(チアーズ)。
↓以下はバンドのボス、スチュアートがボーカルについて話してる動画
.@plasmatron talks vocals.
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年8月29日
'Every Country's Sun' is out this Friday
Pre order - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/811peUG4Ye
3. Brain Sweeties
低音のパルスに乱れされる波形、それに伝導されるかのように広がるギター、アンビエントなサウンドスケープはどこか生き物の様、アトミックでSFな仕上がりの3曲目。
話を聞くところによると、この曲は元々もうちょっと静かだったらしい、それ以外は何言ってるかわからず。(翻訳隊よろしゅう。以下プチ解説↓)
.@plasmatron on 'Brain Sweeties'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月2日
Our new album 'Every Country's Sun' is out now - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/2kWshGJEFB
4. Crossing the Road Material
この曲とはアルバムリリースより一足早くHCANにて相見えることになったのだが。セットが始まり4曲目にしてこの曲を叩きつけられ、耳は早速物理的快感によがった。そしてぼくは思わず天を仰ぎメッセの無機質な梁を目の当たりにし現実へ一瞬戻った、のだがそれは置いといて。
この曲のもたらす快感は、とてもとても長いなだらかな坂を自転車で下る時の爽快感に相似している。
詳しく人体の仕組みを知っているわけではないが、足を地面から離したその瞬間に脳は風を切る快感を予測しドーパミンを送りはじめるんだと思う。まだゆっくり滑り始めたばかりなのにぼくたちはワクワクして仕方がなくなるし、ゆっくり景色を楽しむつもりでいたのに、漕がずとも進むと分かっているのに、我慢ができなくなって思わずもうペダルを踏んでしまうだろう。一瞬で景色は穏やかに流れるのをやめてしまい、空だけが最高速度の自転車を追いかける。坂が終わってしまってゆっくり速度が落ちてなお興奮は冷めない、心臓の鼓動で耳は痛いし、快感は疲れも知らず身体中を駆け巡っている。
やがてにわかに汗をかいていることに気づき道路脇のコンビニに入るところでこの曲は幕を下ろす。
バっちしハマった。
この曲に気持ちが良い以外の感想はいらない。
(こちらもTwitterにてちょっとしたコメント動画↓)
.@plasmatron on 'Crossing The Road Material'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月3日
'Every Country's Sun' is out now - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/WKyfxmwmSA
5. aka 47
5曲目であるこの曲は、さっきの続き、コンビニエンスストアの空調にゆったり当たりながらラックにある雑誌のグラビアページを手繰る場面で始まる。
という冗談はさておき、大真面目な話この曲はアルバムで一番気に入っている曲。初めて聞いたその瞬間にこの曲はこのアルバムで一番好きになるだろうと思ったし、今も一番好きだ。ひょっとしたら来年ごろにはMogwaiで一番気に入っている曲と抜かしているかもしれない。
この曲、良すぎてイントロが流れた瞬間「あぁこれ…」と思わず息を漏らしてしまった。 悪名高いあのソ連製アサルトライフルAK-47をもじったとしか思えない題から受ける印象とは対照的に静かな曲だ。ひょっとしたら銃の名前ではなく日本に都道府県が47個ある事実が題の由来なのではと深読みしてしまうほど凶悪さが見えない曲だ(モグワイは超親日バンドなのでひょっとしたら有り得る)。
鍵盤は泡のように次々と湧いては散っていき、ギターの音色が濁った水面の向こうからぬっと浮かび上がりゆっくりと優雅に泳ぎ回る、存在を主張するようにさっと横切っては消えていく小さな音の断片たちは様々でいつまでも聴いていたい、なんだか落ち着く心地よい、モグワイ好きになったばかりの頃はさっさと寝落ちしてたタイプの曲である。
本当に好きだ。
ぼくはどうしても、この曲を聴きながら行ったことのない土地へ赴き
「遠い昔ここへ来たことがあるような気がする…」
とつぶやきたい。
.@plasmatron on 'aka 47'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月6日
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6. 20 size
『ノイズは気だるそうに静かに首をもたげ、ゆっくり身体を伸ばし終わったら一瞬沈みこんでさっと、まるで白鳥のように身軽に宙へ羽ばたく。』
某ファンタジー脳さんが《ドラゴン*起床から飛翔型》と定義したモグワイの基本形式に則った曲である。完全にトラック5のaka 47 とセットなのでバラバラにプレイリストに入れたら良くない。
もうアナログ盤を買った日には、自転車曲(track4)と池/ドラゴン組曲(track5/6)が仲良く並んでいる1枚目B面ばかり聴いてしまいそうなので、ぼくは極力早くアナログ盤購入の目処をつけたい。
.@plasmatron on '20 Size'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月7日
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7. 100 Foot Face
モグワイの一つの持ち味である“毒味とおどろおどろしさ”を一切加えずに、優しくて静か、どこか不安げでどこまでも美しく仕上げた曲。そして歌付きだ。
『こんな素晴らしいものがまだ世界にはあったのか!生きていて良かった!』と叫ぶあの音楽あるあるにここでまた遭遇した方はかなり多いと思う。ぼくもその一人で聴くなり感情が決壊してしまったし、ベッドの上でしゃちほこのポーズをとった。
この曲にしろtrack5のaka 47 にしろそうだが入門者を心地よく寝かしつけられるタイプの曲がしっとり馴染んで、更にここまで引き立っている。こんなアルバム、古くからのファンにとっては随分久しぶり、感動の再会なんじゃないだろうか。ぼくもこういうのめっちゃ好きだ。
ジョンカミングスの脱退という情報のインパクトを頭から振り払えないリスナーの心の隙間、それをあえて埋めようとせずに、虚ろで不安げな美しいサウンドと共存させた。作為か無作為かはさておき、このアルバムは想像以上に最適な響きを確実に鳴らしている。
.@plasmatron on '1000 Foot Face'
— Mogwai (@mogwaiband) 2017年9月8日
'Every Country's Sun' is out now - https://t.co/ml6lo23IuP pic.twitter.com/fkdNQmx7jP
8. Don't Believe the Fife
Fife とはなんぞやと思ったので調べてみたのだが、スコットランド東部の地名らしい、あと横笛という意味もあるそう。まあ大概の場合は曲名に意味なんてないらしいので深く考えないでおく。(最近アップされたFasion Post でのインタビュー記事にて曲名がPablic Enemy のDon't Believe the Hype をもじったものだと明かされている。)
徐々に膨らんでって順調に爆発するタイプの曲で気持ちいい。自転車のあれとはちょっと違って、打ち上げ花火の山に長い導火線を繋げて遠くから火をつけぼーっと眺めてる感じ。是非ともライブで見たい。ドカーンばちばちドカードカーンパチッパチッ
9. Battered At a Scramble
お待ちかねのあの曲。ホステスクラブウィークエンダーのセットでは中盤に登場したのだがこの辺りから耳が痛くなった。ステージではサポートメンバーでイケメン兼頭髪兼若者兼ギター兼キーボード担当のアレックス君が『見るモグワイ』を教えてくれた。もしアルバムを気に入ったなら機会が出来次第ライブに足を運んで欲しい。どんな曲かなってワクワク聴いてたら、一気にギターが喚き始めてもういい加減にして欲しいってくらい楽しくなる曲なのでこれはもう篭ってても仕方がない。アルバム音源も聴いててもとても楽しいし気持ちもどんどん高まるのだが実はこれもう最後から3曲目。
*追記:三ヶ月経ってようやく認めることができたのだが、僕はこの曲がアルバムでaka 47に次ぐレベルで好きな様だ。そんなに好きだという意識はなかったのに、不思議なものです。
10. Old Poisons
読者諸君「これはこれは、最後の最後にやっぱりあるじゃあないですか?おどろおどろしい毒味の強い曲!!」
ぼく「曲名に引っ張られすぎだ。ちゃんと聴けばとても静かで長閑な曲だろう?音量を最大にして耳を⁄澄⁄⁄まs⁄⁄$!¡¡⁄+@>⁄☆⁄⁄⁄⁄“§%¡¡¡⁄⁄」⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄⁄»’»»
11. Every Country's Sun
最後を締め括るこのタイトルトラックはまるで夕日。壮大なフィナーレにして、日の出のプレリュードである。
ゆっくりと雲が橙色に桃色に染められていき、恍惚としているとあっという間に世界は朱色に染まっている…ここまでは世界の大半の壮大ソングがクリアしているのだが、
『マジックアワーに夢中でレンズを向けていて気づいたら辺りは真っ暗、西の地平線を除いては360°濃紺、まるで自分だけ一瞬別の世界に行ってたように感じた』
なんていう黄昏あるあるの最後の「あれっ!?」って場面までを脳内に投映できる音楽はなかなかないように思う。
感想は以上!
ここまで読んでくれた方、ご苦労様。そして本当にありがとうございます。
本当に素敵なアルバムですよね、なんだかこれからの季節の空気にも合いそうだし。
ちなみにだが、ぼくは日本盤を入手することが困難な状況にあるのでボーナストラックの感想に関してはだいぶお待たせすることになるかと思う(あっ聴いても追記するとは限らないです)。
あぁ、あと、そういえば日本の夏はもうすっかり終わっちゃったって小耳に挟んだのだけど本当?
暗くなってもカーテンの向こうにまだ夕焼けの残り香が煙っているような晩夏の夜を想定して文を書いてしまったので、さっむ…まじでさみいわ!と感じてる方には深くお詫び申し上げたい。
*追記:さぁすっかり冬、もう年末。しかし結局蓋を開けてみれば自分の中で今年一番よかったアルバムがどうやらこれだったようで、はじめの記事が一番よかったアルバムだというのは非常に感慨深いです。
(前の写真と同じくTarbox Recording Studio 公式サイトから、Pokemon Go をするモグワイの皆さん)
ぼくもそろそろEvery Country's Sunを聴きながらお出かけしたいなぁ。
今夜も月は綺麗ですか?
by Merah aka 鈴木レイヤ
管制塔より地球の皆さんへ
APOLLO96は若者のための文化共有サイトです。
月面に建設されたカルチャー発信基地から、週に数回記事を更新します。
当基地所属のオペレーター達は平均年齢20歳。
みなそれぞれ異なる嗜好を持ち、考え方も全く異なるようです。
音楽、映画、文学、旅、創作活動…彼ら彼女らは一様に地球の文化に大いに興味を抱いています。
皆まだ何かと不慣れですが、まあどうかお手柔らかに、周波数はそのままで。
それでは少しオペレーターの紹介を。
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メラーと言います。
何か素敵なものを見つけたらみんなに紹介します。出来れば長く続けたい!
きっと音楽の話が一番多くなると思うけど、時々本も読むし映画も見る。
「この世界は美しい!これが人生!!」と叫びたくなるような映画大好物なので教えてください。本は今好きな傾向を探ってる最中。
音楽の趣味はね…シーンしてるのとキラキラしてるのとドンヨリしてるのが好きって感じ。説明しづらい。
あと
魚飼ってるんです。めっちゃ可愛い!メラーってのも魚の名前から取りました。海鮮丼にするのが楽しみ!!
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ゴミパンダです。
主に音楽担当。
映画と海外ドラマもそれなりに観てるので書けたらいいな。
特技は暴飲暴食と遅刻
学歴なし女の書く文才皆無支離滅裂滅茶苦茶記事に乞うご期待。あなたの読解力がためされます(?)
よろしくお願いします
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ミヨシです。
映画と音楽の話をしたいと思いますが、作品が主題にならずに作品のテーマを巡るあれこれを書き連ねたりして、ポリコレ棒を振りかざし、方々に怒られるような記事を書くのが目標です。
後は画像を見てください。
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映画と旅行記を担当させていただくことになりました、ユカートマンと申します。大学で映画を勉強しており、バイト代は全部海外旅行に費やしてしまうぐらい一人旅が好きです。他に好きなものは音楽、言語学習、海外フェス、お酒、歴史、猫、ポーランドボール、サウスパーク、ハリネズミのイルソンなど。
バルカン半島に興味がありこの夏は旧ユーゴスラビアの国々(セルビア、ボスニアヘルツェゴビナ、クロアチア)とドイツとオランダを一人旅しました。次の旅行先候補はハバナ、ウラジオストック、テヘラン、イスタンブール、サントリーニ島、など。東南アジア周遊もしてみたいです。パスポートをスタンプ帳だと思ってるのでハワイなどのリゾート地には興味がありません。
ただどんな海外旅行の思い出も小5のときに発砲事件(ヤクザの抗争)で一斉下校したことには勝りません。
よろしくお願いします。
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主にジャズやオールディーズなどの記事を書かせていただきます。
好きなものは音楽、レコード、アート、村上春樹、お酒、煙草、フットボール観戦、革靴、洋画など…
好きなのを集めた部屋の写真です。なんとなく察してください。AB型の左利きという気持ち悪いやつですがよろしくお願いします。
OVERTURE
「モーニン、Moon,Milk,Overtrip。管制塔応答せよ。
…また混線か。どこの誰が聞いてるのか知らないけど、いい1日をね」
僕は日課をこなし大きく伸びをした。今日もレスポンスはノイズのみ。慣れっこ。
いい朝だ。部屋の隅に積もったTシャツの山から大して気に入ってない1枚を引っこ抜き、色の落ちたコンバースの紐を締める。
アパートの外に出ると同時にコロニーの屋根が揺れた。アンドロメダからの高等市民様を載せた旅客機が上空をよぎったらしい。
乳白色のコロニーの屋根から見えるどこまでも続く紺色。差し込むネオンライトの赤青黄。実にいい朝だ。アパートの階段を滑り降りると先客がいた。
「一本ちょうだい」
ライカ。僕の友人、寡黙なシャブ中。
「ウィンストン。地球産?」ライカは首を振る。
「じゃあまた月面産のバッタもんだ」ライカは頷く。
「たまには地球産仕入れてよ」振る。
「冗談。調子は?」振る。
「いい朝なのに」振る。
僕らの燻らせた煙はネオンの瞬きを帯び、魔法みたいにどこかへ消えた。
「ハロ、Moon,Milk,Overtrip。管制塔応答せよ。
…また混線?ごめんなさい、もう切るよ。…いや、誰が聞いてるのか知らないけどよかったら僕の話聞いてよ。飽きちゃったら切ってもいいから。
アポロ96、僕の名前。20歳。96年月生まれ。月面コロニー-ほ・187Bより通信中。
もし君が火星とかの人ならこの住所知ってるんじゃない?
御察しの通りスラム街だよ。流浪者やシャブ中や日雇いの月面採掘のおっちゃんがゴロゴロしてる街さ。
よその星の人はこんなところ来ないでしょ?ニューマイアミもネオトキオもセカンドシャンハイも丁度裏っ側だからさ。
でも僕はそんな奴らと違う。訳あってこんなところに生まれ住んでるけどさ、ルーツは地球なんだ。
今は迎えを待ってる。まあ君に通信混線したってくらいだから可能性は察してほしいんだけどさ。
ねえもし君が地球の人ならさ、伝えてもらいたいことがあるんだけど…
やっぱりいいや。ごめんね、付き合ってくれて。また何かの間違いで会おうよ。バイバイ」
家賃催促の紙でヒコーキを飛ばした。もう3ヶ月払ってない。
ここに住んでるってことはその日食うものもままならないってワケなのに、もうちょっと寛大でいてほしいもんだ。
乞食と空き缶を蹴っ飛ばして仕事場に向かう。
タイムカードを切る。バックヤードはむせ返るような安物香水の匂い。地球産はもっと上等な匂いだったんだろうね。
仕事着ーキャバクラのボーイに相応しい格好に着替え、一人の嬢に挨拶を。
「ナナお疲れ様。いい夜だね」
「毎度言うけどここに昼も夜もないわ。で、まともな通信機買えたの?」
ナナ。僕の同僚。金星からの出稼ぎ。
「ライカからタバコ買ってすっからかん。家賃も払えてない」
「バカ。そんなんじゃ千年かかっても地球の土は踏めないわ」
ナナは安っぽいドレスをはためかせながら僕に近づき、腕を絡ませ猫撫で声で言う。
「…ねえいい加減あきらめなよ。それよりあたしとさ…今晩空いてる?」
「…考えとくから。だから離れて」
オーナーがこちらへ来る。見られたな。長い夜の始
まり。
「イブニング、Moon,Milk,Overtrip。管制塔応答せよ。
…混線、かな。これじゃまるでスペースラジオだ。わかんないけどこの間と同じ人が聞いてたりしてね。
まあちょっと喋らせてよ、今日はやなことがあった。
こちら月面コロニー-ほ・187B、アポロ96。
今は仕事上がり。今日はちょっとしたことでオーナーに殴られた。
自分のこと特別な人間だと思ってるんだろ?だってさ。
特別だよ。決まってる。そう思ってないとやってらんないよ。
…でも全部わかってるんだよ、僕が特別な人間でもなんでもないことはもちろん、地球にはもう人なんて住んでないし、僕が待ってる迎えも来ないことも。
ただの月生まれのどこにでもいる20の男だ。
たとえ管制塔に呼びかけたフリしても、こうやって混線して君みたいな知らない人が僕の独り言聞くはめになるのなんて重々承知だよ。
でも特別である証拠がないと…寂しくて死んじゃいそうなんだ。
君もわかるだろ?」
仕事終わり、転がり込んできていたナナを部屋から追い出すと、排気ガスが僕の頬を撫でるように吹き抜けた。
いい夜明けだ。
寂しくて死んじゃいそうだというナナを抱きながら考えていたことは、今や無人の廃墟の地球もこんな気持ちなんだろうかということ。
いや、地球に気持ちはない。それにありもしない地球からの迎えに縋って生きてる僕の方がよっぽど寂しくて死んじゃいそうなヤツだ。
ナナも僕も一緒で、特別なんかじゃない。
ナナの故郷がコロニーの屋根越しに輝いている。
明けの明星、いい夜明けだ。
「モーニン、Moon,Milk,Overtrip。管制塔応答せよ。
…また混線か。どこの誰が聞いてるのか知らないけど、いい1日をね」
第二話へ→
http://moon-milk-overtrip.hatenablog.com/entry/overture2996/2