Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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RIDE、過去が詰まっている音楽

 

 僕がRIDEをしっかり聴き始めたきっかけは、2014年11月の再結成のアナウンスだった。Twitterで周りは皆騒いでいたし、なんとなくお祭り的な気分で、せっかくだからこのブームに乗っかって僕もライドも聴いてみようと言う気持ちになった。そうやって大して構えずYouTubeでお馴染みの海のアートワークを見つけ、塾のパソコンで勉強の片手間とかにあの名盤を再生した。(進学塾では人生の大事な時期の心の育成の鍵を握るようなバンドが再結成したとしても「今でしょ」とは言ってくれない。そういう意味でもTwitterは素晴らしい場所だと言えるだろう。)

 

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オアシスとビーディアイでベースとかギター弾いてたあの渋いグラサンの人の昔んっバンドねぇ…という程度の心構えでいたのだが、Seagullのイントロを聴いた瞬間に僕はグッと胸を掴まれていた。教材なんかそこらに放り出して椅子の背もたれに体重を全部のせて斜め上を見つめ、深い美しい青に包まれ心地よい気持ちになっていた。今まで知らずに生きて来られたことに驚いたほどだった。

My Bloody Valentineのジャンルだよね!という程度にしか思っていなかったシューゲイズは、夢を、目を開けたまま見られるヤバい行為だったのだ、僕はまさに夢中になった。

 

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My Bloody Valentineを聴き始めたばかりの頃、僕は特別にシューゲイズに魅力を感じたわけではなかったのだが(My Bloody Valentineとの出会いもそのうち重い恋人の立場から書かせて頂きたい)、その一番の理由はあのバンドが特徴的すぎたからだと思う。今でもあのバンドだけシューゲイズと言われる音楽の中で異様な奇妙さをもっているという意識がある。あれらはシューゲイズ特有の浮遊感とか囁き声とか轟音とかそういう次元ではないのだ。

それに対し、ライドを聴いた時、僕はすんなりとシューゲイザーに惹かれ始めた。ライドの音楽が特にシューゲイズに似合うと感じたからということが一番の理由だろう。

シューゲイズはとても内向的で、若者の憧れとか見栄とか、日々を駆け抜けるような感覚とか、みずみずしい恋心(儚い)が凍結されている音楽というイメージが僕にはあって。短命なブームだったから、本当にどのバンドも、若いうちに解散するなり、シューゲイズというスタイルを捨てるなりになってしまったから、自ずとどのアルバムも若い。

ライドの音楽にはそんな感情がまさにそのまま添加物なしで詰まっているような気がするのだ。だから僕はあのアルバムを聴いて完全に90年代初頭イギリスの陰気な若者たちの吸っていた空気を感じることができたし、その後すんなりと他のシューゲイズバンドに手を出すようにもなった。もっともっと共感を求めたのだ。

ライドの音楽の素晴らしさは、素のまま飾られたリアルな等身大の少年たちのシルエット。それは誰もが自らを投影できるシルエットだ。そして、その形は究極的にシューゲイズという音楽にマッチしていると僕には思えた。

 

まさにレコードの中に時間がそのまま残されていて、

彼らの音楽を聴くと4人の青年時代の景色とか思い出とか考え事とかがじわじわと僕の身体に入って来るようにさえ感じた。

 

あの弾けんばかりの爽快感、鮮やかな心情の浮き沈み、まるで青い音楽。

(ちなみに僕の中ではMy Bloody Valentineは怪しく渦巻く深い紫のシューゲイズ、スロウダイヴは何もかもを映す透明のシューゲイズという感じです。)

寂しくなるくらい澄み切った空のような、吸い込まれそうになるくらい深い海のような青色。そして、彼らの音楽には青春という二文字がよく似合う。

 

www.youtube.com   元々はボックスセットにしか収録されてましたが、公式サイトからダウンロード配信もされてます。

これは僕がファーストアルバムで一番好きな曲であるIn A Different Placeの別バージョンだ。この音源を僕は本当に気に入っているので、知らない人はじっくり聴いて欲しいんだけど。

アルバムバージョンよりゆっくりで、音は粗いものの、全ての音が噛みしめるようにしっかりしっかりと発される。展開もじっくりゆっくりという感じなのだが、ギターの音はとてつもなく情熱的で、彼らの力強さをより近くに感じることができる。

この曲は別々の場所にいる二人について歌っていて、ライドの曲の歌詞で僕が一番気に入っているものだ。てっきり僕はずっと離れ離れの恋人たちのラヴソングなんだという風に解釈していたのだがひょっとすればそうとは限らないのかもしれない。

下は僕が大雑把に歌詞を和訳したものだ。

漂う泡は、雨が降るのを待っている。

雨が降って、空が冷たくなっても、僕はいい気分。

人々は何故いつも急いでいるのだろうか、決して歩みを緩めることはない。そんな彼らを見て僕は笑う。

稲妻は閃き、雷が轟いた。君と僕は離れ離れの場所にいる。

眠っている時、僕たちは笑っている。

目覚めている時、僕たちは笑っている。

プカプカと漂いながら、時を、空間を出入りしている。

今、誰も僕たちに触れることはできない。僕たちは離れ離れだ。

この曲、作詞はアンディで、ボーカルがマークだ。歌詞を読めば、ゆっくりのリズムに泡がプカプカと行ったり来たりしている情景を思い浮かべられるのではないだろうか。

 

昨年夏のHostess Club Weekender で、僕は運よく彼らのラジオの公開収録を見ることができたのだが、「二十年もの歳月を経てどうして今再結成することになったのか?」という話題で彼らの口から発された言葉を決して忘れることができない。

「僕たちは皆それぞれが泡の中にいるような感じなんだ。泡が割れてバラバラになって、それぞれの人生に戻って、色々経験して、また一緒になって。」

その言葉を聴いた時、胸がぎゅっと熱くなった。In A Different Place で歌われていたのは特定のカップルではなくて、あの歌詞に出てくる泡は世の中全ての人々を指しているのかもしれない。

それは、マークであり、アンディであり、スティーブであり、ロズでもあったのだ。

僕たちもきっと漂う泡の中にいるのだ。

90年代にライドというバンドが結成されたのも、

積み重ねられたシーンの上にあの素敵な音楽が生まれたのも、

2015年にライドが再結成されて運よく彼らがリアルタイムで活動するのを見ることができるのも、

色々考えると運命だったのかもしれない。アンディの夢の中にいるような歌詞を見ているとついそんなことまで考えてしまった。

ビーディアイが解散しライドが再結成しなかったら、僕はあの時期にライドを聴かないまま、そこそこ現状と違う人生を過ごしていただろう。

 

 

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初めてライドを知りNowhereやSmile EPを貪るように聴いていたのはつい最近のように感じていたけれど、もう3、4年も前の話だ。僕はまだ10代だった。

今思えば、ライドを結成した当初の、メンバーたちの年がちょうどそのくらいだったはずだ。

僕の10代最後の日々は、四半世紀も前に、同じくらいの年頃の青年たちが作った音楽によって彩られていたのだ。その音楽はいつでもそばにいる、まるで仲のいい友人のように。

かつての僕は、ライドを聴くと90年代の若者たちの生きる風景を思い浮かべていた。

今、ライドの音楽を聴くと僕の脳裏には様々な思い出が鮮やかに蘇る。

NowhereやSmileを聴くと高校の終わり頃の日々が、Going Blank Again を聴けば北関東での短い大学生活が思い浮かぶ。初めて海外へきて生活を始めた時の僕はCarnival Of The Light やTarantulaを聴いていた。

ミューズを目当てに行った、初めてのフジロックで、一番心に残っている光景は、綺麗なオレンジの夕日もすっかり沈み暗くなったグリーンステージに鳴り響いたLeave Them All Behindのイントロだ。あの時のライドの演奏は、今までのフジロックで一番の思い出だ。

 

 

 

RIDEの音楽はこれからも僕の思い出に寄り添い、過去を呼び起こすきっかけであり続けるのだろう。

去年新しいアルバムがリリースされ、つい先日新しいEPもリリースされたなんて話を数年前の自分にするとどんな顔をするだろうか。まさか新曲まで聴けるとは思ってなかったもの。初めてRIDEを聴いたあの日から、僕はもう二度も彼らのライブを見て、一度はメンバーと会って話すことまでできたのだ。なんて幸せなんだろう。今年もう一度彼らを目にすることは叶わなさそうだけれど、十分素敵な思い出を作ってくれたのだから、前向きに今は満足して次を待っていることにする。

きっと今この瞬間も、僕の記憶はRIDEの音楽に刻まれ続けている。

 

 

by Merah aka 鈴木レイヤ

 

 

Superorganismが、2018年を絶対圧巻します

 

やばいバンドが出てきた。
早耳な音楽リスナーなら既にご存知かもしれないが、筆者は恥ずかしながら来日公演が終わったほんの数時間後にこのバンドの存在を知ることになったのだ。
Superorganism、「超個体」の名を冠するこのバンドは日本、アメリカ、イギリス、ニュージーランドと各国からインターネットを介して多数の才能が集ったまさに「超個体」。(当ブログも実はそうなのでシンパシー感じますね。ごめんなさい)そんなスーパーバンドを率いて歌うは日本人のティーンエイジ、Orono嬢だ。若干17歳だというから驚きだ。
ポップでサイケデリック、それでいてダウナー。一緒に楽しもうよ!と呼びかけられているようで、踏み入っちゃ帰ってこれないような不思議な世界。粘っこいテクスチャを纏った色彩の洪水のようなこのサウンド、本当にグラグラくる。鮮烈だ。
これまでにGrouloveや夙川boysの記事を書いてきた筆者、要約するところマジでこのバンドがドストライクである。


かのArectic MonekysやFranz Ferdinandを擁するDomino recordsと契約を結んでおり、現在Apple Music等でセルフタイトルを冠したファーストアルバムの先行配信が開始されている。
というわけで思いっきりフライングだが、待てが出来ない筆者によるファーストアルバム「superorganism」の先行ディスクレビュー、行ってみよう。

 


01:It’s all good


後述2曲目のEverybody~と両A面シングルとして先行リリースされている。
Arcade Fire以来の「ガヤでいいから入れてほしいバンド」の登場だ。「なになに仲間に入れてよ!」と踊り出してしまいそうな、まさにアルバム1曲目にふさわしいキャッチーさを抱いている曲だ。
未だ大人になりきれずに大人になった私のような人間の、心の痒いところをチョチョイっと掻いてくれるような楽しげで怪しい音。1曲目からドストライクである。叶うことなら苗場の空で、それか幕張もしくは舞洲の海のほとりでイッツオールグッドと叫びたくなる曲である、欲目を出すならもう今年中には。

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02:Everybody wants to be famous


先述1曲目と同じくしてシングルリリースされているトラック。ちなみにこのシングルも今作のアルバムアートワークもOrono嬢が手がけたもの。2000年代生まれがここまでの才能を抱え世界へ飛び出してしまう時代だ。妬けちゃうねほんと!
そんな彼女が皮肉を込めて’’Everybody wants to be famous’’とSNS時代をユーモラスなトラックに載せて揶揄をする。まさにインターネットを介して集まり破竹の勢いでシーンを爆進しつつある彼らが演るからカッコいい曲。ほんと敵いません。

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03:Nobody cares


現在先行リリース中の本作で、公式にはここで初出しとなるのがこの曲。となるとこのアルバムは間違いない、間違いなく。Orono嬢の独特の魅力を放つ日曜の午後2時のごとくな気だるげなボーカルが映える曲。

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06:Something for your M.I.N.D.


昨年1月に公開されたSuperorganismのデビューシングルであるこの曲。縦横無尽に駆け巡るサンプリングサウンド、イヤホンの不調を思わせるギリギリの攻めたエフェクト。1発目にして土壌が完璧に仕上がりすぎている。
これだけ1作目からバンドコンセプトを明確に打ち出しつつも、いきなりそのコンセプトに踏み入りすぎて自らその世界観を打破できず停滞、といった近年の新規勢力にありがちな状況に陥りそうもない。それだけ懐の広い音楽をやっているという印象を見受けた。

 

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10年代も残す所あと2年、この多様性の時代においてこれぞ10年代の音だという概念を打ち出すことは野暮だ。
だがこのバンドが持つのバックグラウンドである「インターネット経由であること」「多国籍かつ年齢層の広さ」、それと制作スタイルである「メンバーそれぞれの好きなものと得意なことを詰めていく」、この3項が混ざり混ざってSuperorganismができていく。ソーシャルメディアが発達し、人と人の出会いが偶然のものから作為的なものになり、コンテンツの共有も過去名作と呼ばれたものを消費するのにも垣根が低くなってきている2010年代だからこそ、彼らがシーンに登場すべくして登場したと感じた。

 

そんな彼らのファーストアルバム「Superorganism」は2018年3月2日リリース。マジで待ちきれません。
この手のバンドがシーンを圧巻してナンボの2018年の世の中だと思っています。キリンのように首を長くして待ちましょう!ていうかほんとガヤでいいから加入したい!!ダメならフジで見たい!!!以上、本日のオペレーターはべしちゃんでした。

 

 

by beshichan

大好きなFlumeというDJ・プロデューサーについてお話しします。(唐突)

自己紹介するのを忘れておりました。

Apollo96へ寄稿していきますマテです。

 

初投稿なので、ここ2年で一番グッときている

Flumeを時系列で紹介したいと思います。是非音楽聴きながら読んでね!

Never Be Like You feat. Kai - Flume

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オリジナル2ndアルバム「Skin」が、

2016年5月にリリースされた。

Flumeは既に、本国オーストラリアではチャートに必ず登場するほどの活躍ぶりを見せているが、

「Skin」は豪州のミュージックアワード2016において七冠に輝き、

更にはグラミー最優秀ダンス・エレクトロ・アルバムを受賞、カナダの女性ボーカルKaiを迎えた

アルバムリード曲「Never Be Like You」は、ダンスレコーディング賞にノミネートされた。

アメリカにてプラチナムディスク認定された「Skin」は、まさに転機となるアルバムであった。

 

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FlumeはHarley Edward Stretenによるソロプロジェクト。

オーストラリア・シドニー出身。幼少からピアノやサックスなどの楽器に触れて育ち、

11歳にしてトランスミュージックに出会って以降は打ち込みによる音楽制作を始め、

エレクトロミュージックに傾倒していったという。

その当時作られた楽曲群は今もyoutubeにあり、その作品群からも現在のflumeの楽曲の

特徴である浮遊感が聴きとれる。

2013年にはオーストラリアのレーベル「Future Classic」より、デビューアルバム「Flume」をリリース。

満を持してのセルフタイトルであり、まさに自己紹介を込めた作品であった。

Sleepless feat. Jezzabell Doran - Flume

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当時のダンスミュージックシーンでは、ダブステップや、あまりにも説明的なビルドイン~ドロップを

繰り返すEDMが00年代後半から流行しており、アンビエントを内包したドリーミングな彼のサウンドは、

目まぐるしい曲の展開がもて囃されたメインストリームの流れとは逆をいくものであった。

 

 

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海の近くで生まれ育った彼は、サーフィンが得意らしいです。

 

 

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Tennis Court (Flume Remix) - Lorde

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You & Me (Flume Remix) - Disclosure

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Flumeは2013,14年と立て続けに、Lorde、Disclosureと言ったビッグネームの名曲のリミックスを発表した。

この2作品はいまだにフェスティバル等マスなクラブの現場でも流れており、

完全なオリジナルではないRemixでありながらも、2010年代のエレクトロニカにおいて決して無視する事の

出来ない重要な作品達である。

 

この作品群あたりで確立された独特なシンセパッド・サウンドは、今聴いても革新的だなぁと思います。

フィルターによってこもった音色から明るく開けた音色まで様々な音色を

一度のストローク中に生み出しつつ、サイドチェインによって出音に揺れを生じさせているって感じですよね??

高解像度で品がある感じのなパッドサウンドは多くのプロデューサーの作品に即座に多用されてった気がします。

また、この頃からアナログシンセ、木質、金属質な音色、オリエンタルな楽器などの

有機的な音を使うエレクトロダンスミュージック作品が増えた。

 

 Firestone feat. Conrad Sewell

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Love For That feat. Shura - Mura Masa

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It's Strange feat. K.Flay - Louis The Child

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Louis the childはロバート・ホールドレンとフレデリック・ケネットによるエレクトロユニット。

2人は今エレクトロニカの土俵に立っていながら、自分たちの曲を紐解くとロックミュージックだと言う。

そう言い切れる所以は、過去に2人共バンドを組んでいて(片方はブラスバンドをしていた)、

生演奏の経験が多分にあるからである。

彼らのように、流行と辻褄を合わせながら、自分のルーツに則って新しい価値を生み出すプロデューサーは少なくない。 

 

Dye - Lido

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The Vase - Seiho

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Flumeはセカンドアルバム「Skin」の制作にあたり、より多くのクリエイターと仕事が出来るようにと、

2015年後半から活動の拠点をオーストラリアからロサンゼルスに移した。

「You & Me」「Tennis Court」等のremix作品のヒットによって最重要人物となったFlumeは、

コンセプチュアルにアルバムを発展させていった。

以降は、その2ndアルバム「Skin」に収録されている楽曲を紹介する。

 

 

Smoke & Restribution  feat. Vince Staples , Kučka

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「Skin」では、(強引に聴いていけば) たびたび二面性を垣間見ることが出来る。

Smoke & Retributionでは、暴力的に展開するVince Staplesのラップが跳ねるパートと、

Kučkaの繊細なバラッドパートで構成されており、非常に明確な対称性がある。

 

Numb & Getting Colder feat. Kučka

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Flume曰く、音響的・実験的なアプローチと、ポップサウンドの融合がこの曲のコンセプトである。

 

Wall Fuck

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壁ファ○ク・Wall Fuckにおいても、相反する2パートがある。

更に壁ファ○クでは、それらが組み合わさる3つ目のパートが用意されている。

サンプリングされたようなボイスが単調に続くパート、

低いベースを基調とした、地べたを這うような重いパート(本人曰く、宇宙の切れ目を意識したとの事)、

に分かれている。

そして、2つのパートの周波数帯が絶妙に同居し、混ざり合っていくクライマックス。

 

Pika 

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アルバムの中盤に位置するインタールード「Pika」では

歪んだシンセサウンドと、クリアなシンセサウンドが1つの々メロディを奏でる。

前者の音が持つ迫力や存在感と、後者の音が持つ明瞭さ、

正反対な音像が重なりその上にFlume自身の歌声が軽やかに響く。

 

Take a Chance feat, Little Dragon

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空間を埋め尽くすほどダイナミクスでありながら、

手で触れても つき抜けてしまう透明感と煌きがある。そして、

ふと目を凝らすと映るノイズは泡として、浮き沈みする動きは波として、

私たちの体内に染み渡り、いつの間にか聴き手の一つになるのである。

 

Like Water feat. MNDR

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アルバムのヴィジュアルのモチーフはジギタリスという花である。

彩度の高いピンクと紫、表面に浮かぶ斑点模様という外見は毒々しい印象があるが、

実際にこの花は毒を持っている。そして、その毒には昔から呪術的な効果があると信じられており、

人の心を沈静化させる薬としてセラピーの界隈で用いられていた。

(今では、正式に化学薬品として医療現場で使われている)

しかし強い効果を発揮する分、幻覚症状、精神神経症状を引き起こすという。

目を引く美しい外見と、副作用を秘めている花の様に、

繊細かつ不安定な旋律やリズムは、危うい二面性を保ちながら私たちを魅惑する。

 

「私にとって肌(もしくは外皮を総じて)とは、一見不思議で奇妙だが、同時にパーソナルで親しい存在だ。」

Flumeは「Skin」リリース後のインタビューにて、今作「Skin」について言及している。

 

 

私たちの顔は一つではない。

多面性を持って日常を生き抜いている。

そして、不安定な自分も、虚弱で陰湿な自分も、

どの自分もただ一人の自分である。

美しさと同じぐらい、汚らしさも、いびつさも、いやらしさも全て受け入れよう。

その境目の真ん中で、今日も揺れ動くのだ。Flumeを聴きながら。

 

 Free

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次回はもっとゆるいものを書いていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

 

by マテ

Medicine、狂ったポップミュージック (色褪せないアメリカンシューゲイザーバンド、メディシンについて)

Medicineは超高音でノイジーなギターが特徴的な1990年に結成されたロサンゼルス出身のシューゲイズバンド。1995年に一度解散するも、2002年に再結成し現在も活動中だ。

Medicineのギターサウンドは、90年代前半ひしめき合っていた数多のシューゲイズバンドたちの中でもずば抜けてオリジナリティが高く、一度聞けば病みつきになることは間違いなしの依存性強のシューゲイジングだ。ギターの音だけで比べるとマイブラッディヴァレンタインの次くらいに驚異的だと個人的には感じている。

今回はMedicineを曲とともに紹介していきたいと思う。

 

 

 

結成から解散まで

1992年 Aruca  1stアルバム"Shot Forth Self Living"より

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一音目から一瞬耳を覆ってしまうような限界レベルの超騒音高音で鳴り響くギター、90年代らしいポップでシンプルなリズムのドラム、シューゲイザーらしく囁き声で歌う女性ボーカル、これがMedicine である。1990年、Savage RepublicというバンドのドラマーであったBrad Laner という男によって作られた4トラック宅録デモが発端となり、このバンドは生まれた。

録音を聴いた音楽業界の人間に「このテープと同じような音をバンドで演奏できるなら契約しよう。」という風にブラッドは告げられ、彼がロサンゼルスの音楽シーンからバンドメンバーを集めたというのが結成の成り行きだそう。

その後、このArucaという混沌としたポップソングが1stシングルとしてリリースされた。ちなみに、この曲は初めてクリエイションからリリースされたアメリカ人バンドの曲でもあるそう。

 

 

1992年 5ive  1stアルバム"Shot Forth Self Living"より

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ドラムのビートと男女のツインボーカルが踊れ踊れと耳を促し、ノイズのうねりが身体中を刺すように駆け巡る、本来不快とされるべき騒音が爽やかで心地よくすら感じられるのが不思議になる。

このめちゃくちゃなサウンドを鳴らし続けるのは、バンドを結成した張本人ブラッドなのであるが、ウィキペディアによるとギタリストの彼がYAMAHAの4トラックレコーダーをエフェクターとして利用することであのサウンドが作られたそう。そのまんまかいな。

以前、米版スポティファイを闇利用していた時期はMedicineの全アルバムを聴くことができていたのだが、タイ版にはないようで、日本版スポティファイはどうなのだろうか。一応アルバムのリンクを貼っておきます。

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1993年 The Pink  2ndアルバム"The Buried Life"より

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この曲は2ndアルバムThe Buried Lifeのオープニングを飾る一曲だ。Slowdive、MVBにDrop Nineteenと多くのバンドにとって女性ボーカリストの可愛らしく神秘的な佇まいは印象的であるが、このバンドにおいても女性ボーカリスト、Beth Thompsonの存在感は圧倒的だ。この曲ではベスのボーカルが前面に押し出されている。声だけ聴いて可愛らしい女性の姿を想像していたのだが、写真を見て僕はだいぶ驚いた。

 

 

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ベストンプソンはノイジーなギターに負けず劣らずパワフルなビジュアルの金髪長身女子で、どう見ても後ろにいるナードな男たちより頼りになりそう(服装もかなりパンキッシュで素敵)。ちなみに、再結成後のライブ写真から、ベスさんのカッコよさは現在も上昇中なのではないかと僕は踏んでいる。

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1993年 Never Click  2ndアルバム"The Buried Life"より

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この曲はブラッドの優しいボーカルに、爽やかなベスのボーカルが絡んでかなりポップ、さらにキラキラしたギターが映えて典型的なシューゲイザー曲になっている。ミュージックビデオはベスさんの存在感が強い。

そういうことで、Medicineが音も見た目もマジでカッコいいバンドなのだということがだいたい分かって頂けたかと。

可愛らしいジャケットの2ndアルバム、日本版スポティファイにはあるのだろうか。ちなみにタイ版スポティファイにはない。

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1994年 Time Baby Ⅲ  映画"The Crow"のサウンドトラックより

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Time Baby Ⅲ は映画The Crowの劇中で使用された曲である。本人たちもカメオ出演しており、動画はその時の映像。

聴いてもらうとわかると思うのだが、この曲ではベスとは別の女性が歌っている。非常に特徴的な声なのでピンと来た人もいるだろう。

この曲は1stアルバム時期の5ive EPのカップリングであるTime Baby Ⅱ を、コクトーツインズのロビンガスリーが再編したもので、コクトーツインズのボーカルであるエリザベスフレイザーの声とガスリーのギターで曲がガラリと変わっているのだ。何とも豪華な仕上がりで、Medicineの曲の良さが別の形で浮かび上がった曲とも言える。

しかし、その次の年にMedicineは解散してしまった。理由は、

 

 

知りません。 

 

 

解散後のBrad Lanerの作品、一時的な再結成

1997年 Backworlds Luskのアルバム"Free Mars"より

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95年にMedicine は3rdアルバムをリリースした後バンドは解散してしまうのだが、その後ブラッドは別のバンドに参加している。

そのブラッドの参加したバンドというのが元ToolのPaul D'Amourを中心に結成されたプログレサイケなスーパーグループであるLuskだ。

結局一枚アルバムを発表して解散することになるが、唯一のアルバムであるFree Marsはなかなかクォリティの高いポップソング揃いで聴いていて楽しい。もちろんブラッドのアイデンティティであるあのギターサウンドもいい味を出している。こういったプロジェクトがブラッドその後のキャリアに厚みを加えていったのだろう。

ちなみに当ブログにはTool(のメンバーによるサイドプロジェクト)に関する記事が既にあるので、これを読んでToolに興味を持ってくれた方は是非そちらも。→メイナードキーナン、プから聞くか オから聞くか - Apollo96

 

 

2003年 As You Do 4thアルバム"Mechanical Forces of Love"より

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2002年にMedicineは一時的に再結成されるが、そこにブラッド以外のお馴染みのメンバーはおらず、ベスさんの代わりにマイクを握ったのはブルースリーの娘である女優シャノンリーさんだった。いやどないなっとんねん!と突っ込みたくなるが。

しかし、その二人体制のMedicineからリリースされた唯一のアルバムであるThe Mechanical Forces of Loveを聴いてみるとこれがめちゃくちゃ良い。シャノンリーのパワフルなボーカルも印象的だが、やはりところどころ姿を見せるブラッドの優しいボーカルに心が落ち着く。

エレクトロニカの影響も色濃いノイズポップで普通のMedicineに飽きた頃に聴くと腑に落ちるはず。

なんと辛口批評でお馴染みのPitchfork誌から8.02ndアルバムのThe Buried Life に次ぐ高得点をもらっていて、あぁなるほどねえという感じである。

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オリジナルメンバーでの再結成〜現在

2013年にMedicineは、リーダーであるブラッド・レイナー、結成当初から解散までドラマーを務めたJim Goodall、そしてあの金髪長身の女性シンガーBeth Thompson、という馴染みのあるラインナップで再結成された。

Captured Tracks(DIIVやWild Nothings、マックデマルコなどが在籍するレーベル)と契約して本格的に活動を再開した彼らは、2ndアルバムを彷彿させる果物の静物画のアルバムアートに飾られた5thアルバム"To The Happy Few"をリリースした。

 

2013年 Long As The Sun  5thアルバム"To The Happy Few"より

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この曲は、その5thアルバムからの先行シングルだ。1st、2nd時期のMedicineを再構築したかのような荒いブラッドのノイズギターはより洗練され、ベスのボーカルとジムのドラムは初期の曲と変わらぬまま。この曲を聴き、ジムの叩くシンプルなリズムがMedicineの音楽の輪郭をはっきりとさせ、ポップスたらしめているのだと再確認した。

5thアルバムは90年代のMedicineが大好きな人に是非聴いてもらいたいと感じた。録音技術の向上(?しらんけど)により、さらに洗練されたノイズが楽しめるようになったのではないか。

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2014年 Turning  6thアルバム"Home Everywhere"より

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全体に張り巡らされたノイズが四方八方から点滅する中を、エレクトリックなリズムに乗せられたベスの冷たいボーカルが聞こえる"Turning"は、再結成から数えて二枚目のこのアルバム"Home Everywhere"がMedicineの新境地であることを簡潔に示している。これまでの曲は、音の悪いイヤホンなんかでも何とか楽しめたのだが、これはできれば多少良い音質で聴きたい。

 

2014年 Move Along - Down The Road  6thアルバム"Home Everywhere"より

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アルバムからもう一曲シングルカットされた曲があるのだが、こちらはビデオも作られている。曲はめちゃくちゃかっこいいのに、映像がめちゃくちゃダサイケ。

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Medicine、ブラッドレイナーが参加した曲、アルバムなど

Wild Nothings - Life Of Pause

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Wild Nothings の2016年のアルバムLife Of Pause にMedicineのボスことブラッドが参加しているらしい。ネットの情報によると、まずは1曲目のReichpop、次に4曲目のJapanese Alice、5曲目で表題曲のLife Of Pause、最後に7曲目のTo Know Youだ。えっめっちゃ参加してるやん。

5曲目Life Of Pauseのみバッキングボーカルとシンセ、あとは全部ギターだそうです。

一回聴いただけで「多分これそうなんだろうな…笑」ってすぐに分かるの凄い。

Life of Pause by Wild Nothing on Spotify

 

Caribou - Barnowl

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カリブーの3rdアルバム、The Milk Of Human Kindnessのクロージング曲であるBarnowlでブラッドレイナーのギターが使われているらしい。

実は僕、カリブーがめちゃくちゃ好きで、このアルバムも相当大好きで、この間たまたま見つけてアナログ盤を購入したばかりだった。しかもこの曲、アルバムで一番好きな曲。今日、英語のウィキペディアを読んでて初めて知って驚きたまげた。

意識して聴いてみると確かにブラッドのギターが鳴っているのがわかる。動画だと、1分30秒から、3分40秒から。ジジジ〜って音がどう考えてもそれですよね。めちゃくちゃ良いところでがっつり使われててすごく興奮する。

(Medicineの日本語版のウィキによると、Medicineの1stの一曲目One More をサンプリングしているらしいですが、当のカリブーのアルバムの英ウィキにも載っておらず。出典は謎です。日本のネットにあるシューゲイザーの情報は下手したら本国のそれより詳しいかもしれないなぁと感動した。)

Barnowl, a song by Caribou on Spotify

 

 

M83 - Splendor

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ブラッドレイナーってM83とも一緒にやってるんだ!知らなかったビックリだな…と思って聴いてみたら、まさか声での参加。どうやらSplendorとWaitの二曲で歌っているよう。ちなみにSplendorは作曲からブラッドが関わっているよう。この曲はライブでも一度共演しているようで、MCで直接的な影響を公言していた。M83は他のアルバムの全然関係ないアルバムが既に多少Medicineっぽいから、そういう面での共作を避けたのかな。それにしても現在のインディーロックシーンにおけるブラッドレイナーの影響力は思いの外大きいのだなと今回記事を書くためにいろいろ調べ物をしていて驚いた。

Splendor, a song by M83 on Spotify

 

おまけ

ということでここまでがMedicineについての紹介になります。とにかくMedicineはギターのブラッドがすごく特徴的な音を鳴らすというのが全てですね。それが好きか嫌いかで好みがバッサリ分かれると思います。

とにかくまず、1stの"Shot Forth Self Living"と2ndの"The Buried Life"から聴いてもらうのが一番だと思います。

そこでハマってもっと聴きたくなったらたら、再結成後の2枚、5thの"To the Happy Few"と6thの"Home Everywhere"を聴いて、真ん中の2枚、3rdと4thは個人的に後回しでいいかなと。

あまり聴いていないので3rdアルバムについて本文中では全く触れませんでしたが、ノイズ控えめな感じです。

このバンドってシューゲイザーの中でも珍しいくらいストレートに騒音、掃除機の音というより鉄工所の音みたいで面白い。

 

ちなみにおまけですけど、最近知った日本のバンドで、こういうキンキンした感じありで、もっとやばいノイズを鳴らす人たちがいるので興味がある人は聴いてみてください。↓

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by Merah aka 鈴木レイヤ