「Stan Getz/Sweet Rain」
Stan Getz 『Sweet Rain』(1967)
Stan Getz tenor sax
Ron Carter bass
Grady Tate drums
Chick Corea piano
このアルバムに出会ったのはジャズを真剣に聴き始めた頃だった。レコード屋の店の人にオススメされて出会い、それが私のスタン・ゲッツ(以下ゲッツと呼ぶ)の音楽を掘り深めるきっかけになった。
そんな思い出深いアルバムであるこの「Sweet Rain」をトラックごとに紹介したいと思う。
1. Litha
ゲッツの美しいテナーとチックコリアの支えるような控えめなピアノから始まり、この2人の相性の良さが伺える。
このアルバムの甘美な世界観を魅せつつ、スリリングで緊張感漂う一曲目。
2. O Grange Amour
二曲目はゲッツが世界にブームを巻き起こしたラテン系の曲だ。私は「ゲッツ&ジルベルト」に収録されたバージョンよりこのアルバムに収録されたバージョンの方がより洒脱で好きだ。
クールの中に情熱を帯びたゲッツの美しいテナーがアルバムの中でも格段に哀愁を帯びている。
3. Sweet Rain
表題曲であるこのトラックはシンプルであるが故にゲッツの演奏が際立つ一曲で、聴くだけでまさに"天国的な"体験をすることができる。
容易にアルバムタイトルの意味が連想出来るようなメロディーラインで世界観を演出しており、このアルバムを大きく支えるグラディ・テイトの絶妙でシャープなドラミングはより一層素晴らしい。
4. Con Alma
ラテン調なドラムから始まり、ゲッツが瑞々しいメロディーを吹き上げる。アルバムの3曲目では雨が降るが、4曲目にして雨が止み、太陽の光が生き生きと降り注ぎ美しい虹が見える様子を思い起こさせる。
5. Windows
若き日のチックコリアが作曲したこの曲は穏やかに始まっていくが、徐々にゲッツが見せる情熱的で熱いソロはこの曲の中で1番の聴きどころだ。
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村上春樹の聴く音楽に影響を受けた私は今でも彼のセンスには絶大な信頼を置いている。「海辺のカフカ」という小説でこんな場面がある。
「僕は自分の部屋に戻り、電気ポットで湯を沸かし、お茶を入れて飲む。それから納戸から持ってきた古いレコードを順番にターンテーブルの上に載せる。ボブ・ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』、ビートルズの『ホワイト・アルバム』、オーティンス・レディング『ドッグ・オブ・ザ・ベイ』、スタン・ゲッツの『ゲッツ/ジルベルト』。」
この『ゲッツ/ジルベルト』はボサノヴァを世界に広め、ミリオンセラーにもなったアルバムであり、私もこれをきっかけに高校生の頃にゲッツを聴いた。
しかし、「Sweet Rain」のゲッツはボサノヴァ全盛期だった60年代初期のアルバムよりアートで端正である。
所持しているゲッツの数々の作品の中でも、特に何度もターンテーブルに乗せてしまう。私の始まったばかりの音楽生活の中でも数少ない大事な愛聴盤のひとつであり、ジャズを聴き込むきっかけとなった。
そんな思い出深いこのアルバムを是非雨の日に聴いてみて欲しい。
もちこ