Apollo96

地球の月から文化共有。音楽、映画、文学、旅、幅広い分野を紹介します。時々創作活動も。

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Snow Patrol について。

 あなたは音楽を聴き始めたきっかけを覚えていますか?たとえば、僕の場合だとわりとはっきり音楽が生活の中に入ってきたなって感じた時期を覚えています。今日はそのきっかけとなったバンドについて。

 

もちろん赤ちゃんの頃も、幼稚園に行ってた頃も、小学生の頃もなんらかの音楽はかかっていたし僕はそれを聴いていた。テレビの歌番組で気に入った曲を時々歩きながら歌うこともあった。しかし、それらの時期の音楽は、僕にとってそこにあるから聴いていただけの音楽で、自分から手を伸ばして聴いた音楽ではなかったと思う。

自発的に、ちゃんと聴くべくして音楽を聴き始めたきっかけというのが僕にはあった。しっかりと覚えている。中学の頃だ。当時僕は音楽にはほとんどと言っていいほど興味がなかった。唯一(唯二)Perfumeとレミオロメンは気に入っていた覚えがあるけど。

部活の友達にYouTubeの音源を落とせる奴がいて、そいつが落としたドラマの主題歌とかCMに使われてる歌のmp3をみんながPSPに入れて聴いていた時代だった。今思えばそれはそれで悪くない日々だったかもしれない。部活帰りに、工場の駐車場とか閉店して久しい駄菓子屋の自販機前に座りこんで、PSPでモンスターハンターをやったり音楽を聴いたり、それが学校にばれてPSPを没収されたり。

話を元に戻そう。僕が真剣に音楽と向き合ったきっかけは音楽以外の文化媒体だった。当時僕は学校に持って行ったのがバレて大目玉食らうくらいゲームも好きだったけれど、本や映画がもっと好きだった。それこそゲームと音楽の熱中度はちょうど同じようなもので、当時の僕にとってそれは所詮流行っているから摂取しているだけの弱々しい文化だった。

中学生になって僕はよりレアリスティックな小説を好むようになりその中でビートルズに出会い、アメリカのヒーロー映画に夢中だった僕はSnow Patrol に出会った。今日は後者、Snow Patrol (以下スノウパトロール)について書こうと思う。

 

 

 スノウパトロールは1993年にスコットランドで結成されたロックバンドだ。ベルアンドセバスチャンとかトラヴィスと同系統の、優しい、ガツガツしてない暖かさがあるバンドだ。

僕が彼らを知ったきっかけは映画であると上に書いたばかりだが、スパイダーマン3のエンディング曲がスノウパトロールなのである。

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この曲を聴いて、音楽って優しい、音楽って助けてくれる、頑張れるような気になるし、こういうのもっと聴くべきだよ!と思って僕はインターネットで音楽を漁り始めた。そして、もう一つの入り口であったビートルズとの関連を意識しつつ、そのまま徐々にイギリスのロックにのめりこんでいったのだ。それからというもの音楽が常に僕のそばにい続けている。

スノウパトロールの音楽を聴いて僕が思い浮かべたのは、ロウソクの光に照らされる部屋の中で人が話している、笑っている、そんな夕食後のひとときだった。ひょっとしたら部屋はロウソクではなく蛍光灯で照らされていて、テレビの音が聞こえているかも知れない。まあ、何であれ人は笑っていて、その時間に悪意のようなものは感じられないのだ。

しかし突然静かにロウソクの明かりは消えてしまう。カーテンに投げられていた影も揺れるのをやめてしまう。世界はさっと静かになってしまう。冷たい風に吹かれて、僕はよその家明かりを通りすがりに覗いていただけだったことを思い出すのだ。

僕はこの曲を聴き終わると同時にいつもとても寂しくなってしまう。

きっと僕がスノウパトロールを聴き始めた時季節がたまたま冬だったから、下校中に数え切れない家の窓の前を通り過ぎていたから、パブロフの犬みたくそういう情景を思い出してしまうのかもしれない。

しかし、スノウパトロールとバンド名に雪とついているし、パトロールって何かをうろうろして見つめていそうだしこんなのもあながち間違いではないのではないのではないかな。とにかくこのバンドからは人の温かさと孤独の対比みたいな音が響くのだ。しかしその孤独もそこまで悲しいものではない。

 

スノウパトロールは日本でこそイマイチ名が知られていなくて来日も少ないのだが、信じがたいことに海の向こうでは大人気、本国イギリスでは国民的知名度を誇っている。SNSアカウントにはいつもたくさん「早くアルバムを作って」とコメントが来ていて、それを見るといつもその事実を思い出した。コールドプレイまでとはいえないにせよ、あの手のロックファン以外にも馴染みのあるようなバンドなのである。(ちゃんとアメリカでも売れている)

七年ぶりにリリースされた今度のアルバムは通算七枚目である。当然これだけの空白があれば待望の新作といわれてもピンと来ない人も多いだろうし、25年のキャリアを簡単に解説をしながらおさらいして行こうと思う。

 

Starfighter Pilot 1997年

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 これがスノウパトロールがリリースした最初の楽曲、スターファイターパイロット。SFなタイトル通りにそこそこスペイシー、なかなかファンシーな一曲だ。このビデオに写っているメンバーに現在も在籍中なのはドラマーのジョニークインとボーカルのギャリーライトボディのみである。

スノウパトロールの核はギターボーカルにして作曲者のギャリーだ。見るからに陰気そうで雑魚い、なかなか信用に足る外見。

今でこそ大人気のバンドであるが、彼らは売れるまでに結構な年月の下積みを経験している。結成したのが1993年、スターファイターパイロットや1stアルバムのソングフォーポーラーベアを録ったのが1996年ごろ、どうもそんなに売れなかった様。

この当時の彼らの音楽は、今のものより荒々しくハジけんばかりにロックしている。ストリーミングに加入していない人は、これらの現在流通が少ない曲たちを聴くために中古CD屋を巡ってほしい、なんて言わない。黒い方のベストアルバム(白と黒の二種類があるが、白はメジャーデビュー後のシングル集、黒は総集編になっている)にかなり初期の音源も入っているので是非それを聴いてくれたらと思う。大概のツタヤにもあるはず。

その後2ndアルバムを2001年にリリースするも、それも売れない。結局彼らはレーベルに下ろされてしまった。

今あまり見かけることのないこれらのアルバムも、売れっ子になった後のアルバムを聴き倒したあとに聴いてみるとなかなか意外で、ハマる。個人的には後回しでもいいかなとは思うからまずはベスト盤でよろしいよこの時期のは。スタジオアルバムの完成度がそれほど高いバンドでもないし。

 

How To Be Dead  2003年

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彼らの一番のヒット曲であるRunを収録したメジャーファーストアルバム『ファイナルストロー』は2003年にリリースされた。これは十年もの下積み時代を経て、彼らはポリドール傘下のフィクションレーベルに籍を移しやっと世間に才能を見せ付けた作品である。

メランコリーとノスタルジーを砕いて紙で巻いて火をつけたような、めちゃくちゃ心にグッと来る作品で、僕が一番好きなスノウパトロールのアルバムでもある。寒空の下、一人でこの音楽を聴いていると、すごく寂しいことがなぜか心地よく思えた。

このバンドの曲はどれもこれもすごく優しくて暖かいのに何故かとても寂しい。きっとそれが共感に共感を呼び大ヒットを呼んだのかもしれない。

タイトルのファイナルストローは、6曲目のチョコレートの歌詞にある言葉だ。(歌詞を読んだものの僕はイマイチ意味がわかっていない。)

実は、チョコレートのビデオはあの(500)日のサマーの監督であるマークウェブによって撮られていて、それがなかなかバンドの世界観を象徴しているのでぜひ見てほしい。

 

しかし、このアルバムから僕が特に紹介したい曲はRunでもChocolateでもなく、オープニングを飾るHow To Be Deadだ。シンプルな造りの曲だが、一個一個の音がするっと心に忍び込んでくる。

ラジオかなんかの音とか、ギターとか、家電のスイッチを押したような音とか、いろんな雑音がミックスされた最初の10秒に僕が感じるのは生活だ。身体より外の世界の音。あるいはそれは僕自身の生活から起こる音なのかもしれないけれど、それは身体より外の音に聞こえる。

そこにチーンと鉄琴の音が鳴って、その瞬間からギターの音なり、変な電子音なりは身体の内側に入り込んでくるのだ。静かに歌うギャリーの声は切実に何かを欲しているようで、困り果てているようで、切ない。

第二ヴァースでコーラスが加わって、それまで行き場を失った蛍のように飛び交っていた小さな音が間奏でまとまって大きく広がっていく。きっとこの曲の、音を映像なんかにできたらすごく美しくて見惚れてしまうと思う。

内面での闘争がテーマになっている歌詞も素敵だ。

 

Open Your Eyes 2006年

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メジャー二作目となったアイズオープンで彼らの地位はより確固たるものとなった。このアルバムをスノウパトロールのベストアルバムと呼ぶ声も多い。スノウパトロールを初めて知った方はこのアルバムと前作ファイナルストローをまず聞くのが妥当かと。

ファイナルストローが内省的で俯きがちであったのに対して、アイズオープンはより前向きでダイナミックだ。U2とかR.E.M.からの影響も色濃い。悲壮感や寂しさにシンパシーを感じるような前作から3年足らずでどうやってこうも力強く変われたのか。

「結局のところネガティブな感情そのものを悲観的に見るべきではない、それはそれとして自分の一部と認めてさ!」みたいな、「寂しさありきの人生をてくてく歩いていこうぜ!」みたいな、そんな気持ちになる。あくまで僕がこのアルバムから感じるものはポジティブな応援だ。

一番お気に入りの曲は最後から2曲目のOpen Your Eyes。

Open Your Eyes のミュージックビデオも好きで好きで仕方がない。静かに、しかしかなり飛ばして走る車のビデオは、かなり無機質で、だがその分、さっと気分に作用する。気だるい朝にシャキッと目を開けたいときにはぜひ思い出して再生してほしい。

 

The Lightning Strike 2008年

www.youtube.com これは三曲続きの組曲のうちの最初の一曲。

5枚目のこのアルバム、実は僕が生まれて初めて購入したCDで、当然一番思い入れが強い作品である。しかし私情を差し引いて概評を述べると、総集編、集大成、完成系というようなところだと思う。ファイナルストローとアイズオープンを聴いて、めちゃくちゃスノウパトロールが気に入ったわけでなく、まあ良いバンドだね知っといて損はないよという程度の人は正直スキップしてしまっていいかもしれない。

これをスキップしたらそのまま次のアルバムも飛ばしてしまって、二つのベストアルバム(黒い方は初期二作から今作までの曲を、白い方はメジャーデビューアルバムのファイナルストローから次作までの曲を収録している)を聴いてもう予習は完璧。あとは新譜を待てば良いと思う。

スノウパトロールがめちゃくちゃ気に入ったよという人はこのアルバムも絶対に聴くべきだ。

境地的な味わいがある。コールドプレイで言うとViva La Vida、ミューズでいうところとレジスタンス、キラーズならDay & Age 的な作品だ。そこまでハマってないならベタな作品に思えるだろうし別にシングル曲以外は聴かなくて良いかとも思っちゃうけれど、好きな人は下手したら一番気に入ってしまいかねない。隅々から「360°以上回った時にだけ出るダシ」が染み出し染みついているような作品だと思う。

このアルバムの見所はなんといっても終盤三曲の恍惚だろうと思う。しっかりとクライマックスへ向け畳み掛けてくる。メジャーデビュー前の作風を思い起こすローファイサウンドのEnginesに、一番のスピードを誇る疾走パートDisaster Button(僕がスノウパトロールのキャリアを通して一番好きな曲)が来て、最後に大曲The Lightning Strikeでピーク状態のフィナーレだ。

The Lightning Strike 、何と、アビーロードのクライマックスよろしく複数の曲が繋がっていて、キャリア最高レベルの美しさを保ったままフィナーレへ進んでいく。

The Lightning Strike は明らかにスノウパトロールにとって一つのピークであるだろう。(個人的には現状もってここが最高点だと認識しているが、来たる新作のでき次第ではサブピークであったと書き直さなければならないかもしれない)

 

This Is'nt Everything You Are 2011年

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2011年にリリースされた6thアルバムFallen Empires は、現時点で最も新しいスノウパトロールのアルバムだ。今までとかなり方向性が変わってシンセの音がアルバムを通し軸として存在していて、当時僕はその新鮮さにかなり心を躍らせその後のバンドの進む方向に大きな期待を寄せた。

アメリカでレコーディングされただけあってかなり音は明るめなのだが、なかなか上手く行ってなさそうな雰囲気が染み出していて聴いていると心苦しくなる。

フロントマンのギャリーによると、彼はこのアルバムの曲を書く際に大きなライターズブロックを経験したそうだ。なかなか思うように曲の書けない期間にR.E.M.のフロントマンであるマイケルスタイプに助言をもらったり、同じくR.E.M.のギタリストであるピーターバックと一緒にサイドプロジェクトを起こしたりと、先輩たちにたくさん助けてもらったらしい。

リリースされた当時は、「次のアルバム用の曲はもう書き上げられていて、あとはレコーディングをするだけ。今作ラストの曲名が括弧書きでプレリュードとなっているように、それが次のアルバムの一曲目になる。」とまで明確なヴィジョンを語っていたにもかかわらず、結局その曲たちは没にされてしまったそうだ。その後のインタビューで2015年には完成すると延期されたのが更に複数回延期され、結局2018年になってしまった。7年も待つことになるとはまさか思っていなかった。(当時一緒に北米をツアーしていたノエルギャラガーはあれから二枚、ジェイクバグは三枚もアルバムを出しているというのに。)

 

Wild Horses 2018年

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やっと今年、七枚目のWildnessがリリースされた。ニュースが来た時にリリース日に加えアートワーク、先行シングルまで発表されたのだからさすがにもう延期はないかなと思うと、ホッとしたものだ。最近のインタビューではギャリーが再びのライターズブロックに加え、大層な鬱まで患っていたと明かされている。前作に続きなかなか厳しい状況で制作された作品であることが察せられるが、そんな時に作られた作品だからこそより強く聴き手を勇気づけてくれるのではないだろうか。昨日やっとアルバムを聴いて、僕はスノウパトロールがこれからも最高のバンドであり続けるということを確信した。今年は毎日このアルバムを聴いて心を健康に保って生きていきたい。

(僕が長いこと記事を書かなかったのもある種のライターズブロックといえるのでそういうのも癒してほしい。本当に頼りにしている。)

 

by Merah aka 鈴木レイヤ