I Fall in Love Too Easily(あまりにも簡単に恋に落ちてしまう)
歌うようなトランペットに中性的な甘いヴォーカルのウェストコーストジャズのスター、チェットベイカー。
普段ジャズを聴かないという方でも、名前くらいは知っているのではないだろうか。
今回はチェットベイカーという人物について語っていきたいと思う。
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チェットベイカーはジャズ界のジェームス・ディーンとも言われ若き日はとってもハンサムで女性を虜にしてきた。(Live音源でも女性の黄色い声がちらほらと聴こえる)
その上あの中性的な甘いヴォーカルとくれば一部のジャズファンから女子どもが聴くものとして認識されそうであるが、女である私はそれをポジティブな言葉として受け取りたいと思う。
それはきっとチェットという人物が「放っておいたら勝手に野垂れ死んでそうなくらいどうしようもないダメ男だけどいたいけでなんだか放っておけない……!」というような母性本能をガンガン刺激してくるからだ。そして彼のため息の出るような美しい演奏もしっかり楽しめば楽しさが倍である。
そういうわけで女として聴くチェットベイカーもまた格別なのだ。
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彼の代表的なアルバム「Sings」では文句なしの甘くロマンチックなチェットのヴォーカルと透き通るような美しいトランペットにうっとりできる。おそらくチェット入門にはもってこいだ。
リバーサイドから出ている「It Could Happen to You」や「Chet」はかなり売れ線を狙っているのが見え見えだが、その聴きやすさや表面的な美しさをギリギリのラインで芸術に昇華させ、洗練されたアルバムにしている。
この大衆性と芸術性との舵取りが絶妙な塩梅なのも彼のなせる技である。
そして私の最近お気に入りのアルバムは「Chet Baker In Milan」だ。このアルバムを聴けばチェットのトランペットの良さがとにかくわかるだろう。このチェットの演奏は実に伸びやかで、今にも潮風が吹いて水しぶきが飛んできそうなとってもごきげんな演奏である。
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そしてチェットベイカーの魅力は誰しもが”あまりにも簡単に恋に落ちてしまう”ような音だ。
若き日のまっすぐと吹き抜ける爽快な音色や甘く囁くような優しい音色、哀愁漂う晩年の色気を醸し出す音色などチェットのトランペットからは目が離せない。
必要最低限の音で無駄に着飾ろうとしない洗練されたその音はまるでディオールのニュールックのように上品。
そして翳りのあるささやくような唄は彼の天性のジャジーなフィーリングから生み出される。
吹きたくなれば吹き、唄いたくなれば唄う。確かにそこに居るのに、どこかにふと消えてしまいそうで追いかけたくなる。ゴダール映画の「勝手にしやがれ」の風景にもあてはめたくなるような色男、チェットベイカー。
そんな彼の魅力に皆おもわず”あまりにも簡単に恋に落ちてしまう”のだ。
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追記:レコードプレーヤーをついに一式揃えました。某雑誌で入手困難といわれたCandyのレコードは私の宝物です。
もちこ